8日、ボクシングのダブル世界戦が東京・有明コロシアムで行われた。WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチは王者の井上尚弥(大橋)が、同級1位のダビド・カルモナ(メキシコ)を相手に判定で3-0(118-109、118-109、116-111)の圧勝。井上は2度目の防衛を果たす。IBF世界ライトフライ級は王者の八重樫東(大橋)が同級10位のマルティン・テクアペトラ(メキシコ)と対戦した。八重樫も判定勝ちを収め、初防衛に成功した。

 

ほぼ左一本で試合をコントロール

 

井上左パンチ(加工済み)

(写真:右手を負傷し、左で攻める井上)

 世界戦4連続KO中の井上は試合序盤のKOで決着つけることにこだわっていたようだ。1ラウンドから鋭いワンツーで攻勢にでる。そのままの勢いで入りたかった2ラウンド目だったが、ここで手数が減ってしまう。試合後、井上が2ラウンド目に相手の頬あたりにパンチを入れた時に拳を痛めたことを明かした。

 

 試合早々に右手を打撲した井上は、以降のラウンドはなるべく右手を使わずに、左のパンチで試合をコントロールすることを試みた。7ラウンドには左のリードパンチを上下に打ち分けて相手に揺さぶりをかけつつ、距離を取り、隙を窺う展開だった。

 

 9ラウンド目には井上の左フックがカルナモの顔面を捉える。「左で倒すなら左フックしかないと思った」と井上。しかし、相手も崩れない。この後の10、11ラウンドも流れを引き寄せようと井上は足を使いボディを打ち込むも、詰め切るところまではいけずに最終ラウンドを迎える。

 

 12ラウンド目で井上がついに吹っ切れる。挑戦者をロープ際に追い込み、歓声の後追いを受けた井上は右、左の連打を顔面に浴びせる。右のストレートが相手の顔面にきれいに入り、この試合で初のダウンを奪う。再開後も井上はKOを狙いパンチの嵐を見舞うも、最後までカルナモを倒すことはできなかった。判定は井上が3-0の圧勝で2度目の防衛を達成した。

 

 井上は「相手はディフェンスがしっかりしていて詰めるところを詰め切れなかった。負ける焦りはなかったけど、“インパクトのある試合をしたい”という焦りはあった」と心境を語った。2ラウンドに右の拳を痛めた影響で右を使いにくくなったことについては、「左手一本でコントロールしようとした。(12ラウンドは右のストレートでダウンを奪ったが)最後は痛くてもラストラウンドだったので」と振り返った。

 

 WBO世界スーパーフライ級1位の指名挑戦者を相手にほぼ左手一本で試合をコントロールした井上。アクシデントに見舞われながらも、チャンピオンの威厳を見せつけた。次戦については「勝ちにこだわりたい」と話したが、井上らしい痛快なKO勝利を期待したい。

 

 激闘王、八重樫の粘り勝ち

 

八重樫(加工済み)

(写真:打ち合いを制し、防衛を果たした八重樫)

 両者が何度もパンチをもらいながら、1度もダウンする事なく試合終了のゴングを聞いた。判定までもつれた激闘を八重樫が制した。「僕にはこういう戦い方しかできない。もっと圧倒的な試合ができるように頑張っていきたい」と話す八重樫が印象的だった。

 

 1ラウンド目はテクアペトラの方が手数は多かった。2、3ラウンドも八重樫から仕掛けるというよりカウンターのタイミングを窺っているように見えた。

 

4ラウンド以降は八重樫のパンチが相手の顔に入る場面が目立つものの、倒すまでには至らなかった。相手のパンチを貰いながらも反撃を試みるのは八重樫もテクアペトラも同じだ。

 

 殴られながらもタフな両者は最後まで倒れず迎えた12ラウンド。残りの力をふり絞ってパンチを繰り出し合った。終了のゴングが鳴ると同時に抱き合ってお互いの健闘を称え合う。判定も2-1(113-115、115-113、116-113)の接戦。“激闘”の末、八重樫がベルトを守った。

 

 八重樫は「やろうとしたことができなかった。相手を見て、掴んで、把握して組み立てる。それができなかった」と語った。試合の入りについては「自分自身、硬いなあと思っていた。思うようにいかなかった」と反省しきりだった。

 

 とはいえ流れが悪くても耐えて勝利を手繰り寄せるがゆえの、激闘王なのかもしれない。次の戦いでも八重樫らしく打ち合った末に防衛するのか。それとも新たなスタイルで臨むのか。33歳の戦いから、目が離せない。

 

(文・写真/大木雄貴)