20日、ボクシングのダブル世界タイトルマッチがエディオンアリーナ大阪で行われた。WBA世界フライ級タイトルマッチは王者の井岡一翔(井岡)が同級6位キービン・ララ(ニカラグア)を11ラウンド1分11秒KOで下した。井岡は3度目の防衛に成功。IBF世界スーパーバンタム級王座決定戦は同級1位の和氣慎吾(古口)が同級2位のジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)に11ラウンド2分16秒TKOで敗れ、世界初挑戦での王座戴冠はならなかった。

 

 視線は更なる高みへ

 

 3階級制覇の井岡は好戦的でタフなララをはねのけた。11ラウンドKO勝ちで統一戦へ向けて弾みをつける勝利となった。

 

 挑戦者であるニカラグアの21歳は序盤から打って出てきた。対するチャンピオンの井岡は冷静に対処しつつ迎えうった。ボディを中心に効かせていく。井岡は4ラウンドから徐々にエンジンをかけるようにペースを上げた。5ラウンドにはボディでガードを下げさせると、顔面に当てる。ガードが上がれば、またボディを狙い打ってダメージを与えた。

 

 ここで井岡が一気に流れを掴むかと思われたが、打たれ強いララも攻撃的な姿勢を崩さない。王者を脅かすほどの強打はなかったものの、手数をかけて前に出る。自身はパンチを浴びてもフラつく場面は見られなかった。

 

 一方の井岡は相手をじっくり見て攻守を展開する。焦って飛び込むこともせず、適切な距離を保って戦った。実力差は明らかで、勇敢なチャレンジャーに胸を貸すような余裕すら見えた。冷静沈着な王者がリードしながら時計の針を進めていった。

 

 10ラウンド、井岡がついにダウンを奪う。2分を過ぎたところで、連打をララの顔面に浴びせる。ここが決め時とばかりに井岡も一気に詰め寄った。ララも引いて逃げようとしたが、バランスを崩してダウンを喫した。ラッシュを仕掛けたが、ここはゴングまでララが耐えた。

 

 11ラウンド、「一翔」コールを背に受けながらリングに向かう。KO勝ちの期待に応えようと井岡は前へ出る。パンチの雨を降らせて、ララを追い込んだ。足元がフラついた挑戦者はたまらずバランスを崩した。そのままレフェリーの10カウントを聞くと、コーナーによじ登り勝利の喜びを露わにした。

 

 これでWBA世界フライ級3度目の防衛に成功。世界戦は通算12勝目となった。井岡は「まだまだこんなところで終わらない。ここは通過点。さらに上に、統一戦に向かってやっている」と語った。WBO同級の王者でもあるWBAスーパー王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)など、フライ級制覇に意欲を見せた。「このリングで勝ち続けることで金字塔を打ち立てて、唯一無二のボクサーになりたい」。地元・大阪のリングで高らかに誓った。

 

 涙に終わった世界初挑戦

 

 プロデビューから10年で掴んだ世界初挑戦の場、和氣はタイトルを手にすることはできなかった。相手はKO率100%のグスマン。21戦全勝と勢いに乗る27歳のドミニカンである。

 

 試合が動いたのは2ラウンドだ。1分26秒、グスマンが距離を詰めていく中で、頭が和氣の頬を打った。バッティングをアピールする間にパンチをもらいスタンディングダウンを取られた。偶然のバッティングにより、パックリ割れた頬から血が滴る。和氣はこのラウンドでもう1回ダウンを喫するなど、追い込まれた。

 

“一気呵成”とばかりにグスマンは攻勢を仕掛けてきた。和氣は3ラウンド残り10秒を切ったところで左のショートフックでダウン喫し、5ラウンド1分58秒には一瞬のスキにストレートを浴びて倒された。ラウンド終了のゴングが鳴った直後に左フックをもらうなど、足をフラつかせながらコーナーに戻った。

 

 KO負けも時間の問題かと思われたが、和氣も意地を見せる。6ラウンドから前へ出て、反撃に出た。グスマンをロープ際に追い込むも、相手は体力回復を図っているようにも映った。7ラウンドに入ると、和氣が前に出て、グスマンが足を使ってかわす展開が続いた。

 

 するとグスマンの足がガクンと止まった。和氣の逆転劇に期待が膨らむ。しかし有効打は目立つようになったものの、決定打は生まれない。グスマンの左目付近が腫れ、前半とは打って変わって和氣が攻めるシーンが目立ったが、8ラウンド、9ラウンド、10ラウンドと時間はいたずらに過ぎていった。

 

 判定もチラつきはじめた11ラウンド2分過ぎ、和氣はグスマンのラッシュを何とか凌ごうとした。そこにレフェリーが割って入り、両手を振った。和氣の右目の下は大きく腫れており、これ以上の続行は危険と判断したのだろう。敗者は泣いて悔しがった。勇猛果敢に向かっていったが、11ラウンドTKO負けで和氣の世界初挑戦は終わった。

 

(文/杉浦泰介)