ボクシングWBAスーパーフェザー級王者の内山高志が7月16日に地元の埼玉県春日部市で5度目の防衛戦(対戦相手は交渉中)を行うことが決まった。昨年大晦日の王座統一戦では暫定王者のホルヘ・ソリス(メキシコ)を終始圧倒し、11RTKO勝利を収めた。プロでの18戦中、KO勝ちは世界戦5連続を含む15回。驚異の強さを誇るチャンプに、二宮清純がインタビューした。
(写真:年齢を重ねて「逆にどんどん力がアップしている」と語る)
二宮: 昨年1月の三浦隆司との防衛戦で右拳を脱臼し、ソリス戦までしばらくブランクがありました。ケガした時の状況は?
内山: 実は試合前の一昨年11月に練習でケガをしていました。その時は軽い亜脱臼だったんです。骨をつなぐ靭帯が緩んでしまって、骨が少し浮いちゃう状態でしたね。その時は「大丈夫かな」と思っていたのですが、本番30分前にウォーミングアップで「思い切り打ってみるか」とバーンと打ったら、完全に骨がずれてしまいました。とにかく痛かった。もう「今日は判定で勝つしかないな」と覚悟しましたね。しかも、試合の2ラウンド目に相手の頭を殴ってしまって、もう握れないほどの激痛が走りました……。

二宮: ところが左手一本で8R終了時、TKO勝ち。見事としか言いようがないですね。
内山: 11月の時点で、左の練習ばかりやっていたので、何とかなりました。あと試合中、相手の作戦が分かって対処できた点も大きかった。
(写真:三浦戦後には脱臼した右手甲の中手骨が(手首側の)手根骨の上に乗っかった状態だった)

二宮: その作戦はどうやって気付いたのですか?
内山: 僕がジャブをバンバン突いていった時に、向こうのセコンドが「それに合わせろ!」と言っているのが耳に入りました。こちらがジャブを打つと、三浦は必ずフックを合わせてくる。すると、またセコンドから「それそれ! タイミング合ってきている」って。「あ、これが狙いなんだな」と分かりましたね。

二宮: ちゃんと相手セコンドの指示が聞こえていたんですね。実は長年、ボクシングを取材していて、その点はいつも疑問に感じていました。日本人同士の対戦なのに、平気で「左、左! ジャブを出せ!」とか、「足を使え」と大声でセコンドが叫んでいる。あれは相手に自分たちの作戦をバラしているようなものではないかと……。
内山: はい。全部聞こえています(笑)。特に日本人との対戦では、相手の指示を結構、頭に入れて対応しますね。だから三浦戦ではフックに備えていたので、効いたパンチはひとつもなかったですよ。

二宮: やっぱり、そうでしたか。内山選手には以前も会場のモニターでインターバルにパンチの位置を確認していたという話を伺ったことがあります。それだけ冷静に戦えている証拠ですね。
内山: セコンドも興奮して、思わず言っちゃうんでしょうね(苦笑)。インターバルの時は、相手のセコンドの様子はもちろん、選手の顔もしっかり見ていますよ。それで相手の焦りだったり、心理状況も分かりますから。

二宮: インターバルは単なる休憩時間ではないと。いかにそこで相手の情報を得るかが大事なんですね。
内山: 試合中も単に一発を狙うのではなく、そこへつながるパンチをいかに打てるかが大切です。たとえば試合の序盤だと、ガードされていてもボディをわざと思い切って打つ。こうすると相手は「わぁ、ボディが威力あるな」と警戒するでしょう。ボディを嫌ってガードを下げてくれれば、それだけ顔面にヒットする確率も高くなる。

二宮: 巷ではWBCの同級王者・粟生隆寛選手との統一戦を期待する声も聞こえてきます。
内山: 同じ日本人がWBCとWBAの両方でチャンピオンというのも、あまりないでしょうから、おもしろいと思いますね。決まれば、やってみたい気持ちがあります。

二宮: 粟生選手は高校時代に史上初の6冠を達成するなど、デビュー当時から有名でした。アマチュア時代に対戦経験は?
内山: 対戦はないです。スパーリングでは軽くやったことがあります。その時は僕が大学生で、粟生は高校生だったので、今とは全然、体つきが違いました。当時から仲は良かったので、まさかプロの世界で同じ階級の対立王者になるとは思わなかったですね。今は統一戦の話が出てきて、なんか変な感じですよ。お互い、気を遣っちゃいますもん(笑)。以前は後楽園ホールとかであっても、「おー!」って挨拶していましたけど、最近は会っても小声で「おう」って感じですよ。

二宮: アハハハ。さすがに世界チャンピオンが2人並べば、写真も撮られるでしょうからね。
内山: だから、今はなるべくお互い近づかないようになっちゃいましたね(苦笑)。まぁ、でも粟生に限らず、今後も皆さんの期待に応えられるような、おもしろい試合をやっていきたいですね。

二宮: 昨年は西岡利晃選手(WBCスーパーバンタム級名誉王者)が本場ラスベガスで防衛戦をやりました。米国で試合をしたいという気持ちは?
内山: もちろんあります。西岡選手は一番尊敬している日本人ボクサー。幸い、上下の階級には世界的にも名のある選手がいます。五輪金メダリストのユリオルキス・ガンボアやギレルモ・リゴンドウ(いずれもキューバ)だったり、WBAフェザー級で15度防衛中のクリス・ジョン(インドネシア)……。いずれはそういう相手と大きな舞台でやりたいなと思っています。

<現在発売中の『第三文明』2012年6月号では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>