ボクシングのWBC・WBA世界ミニマム級王座統一戦が20日、大阪・ボディメーカーコロシアムで行われ、WBC王者の井岡一翔(井岡)がWBA王者の八重樫東(大橋)を3−0で下し、自身3度目の防衛を果たすとともにWBAのベルトを奪取した。異なる団体の日本人世界王者がタイトルマッチで戦うのは史上初めて。井岡は細かいパンチを的確に当て、強打で迫った八重樫を僅差で退けた。
 王者同士の直接対決にふさわしい大熱戦だった。36分間、試合終了のゴングがなるまで両者の拳は止まらなかった。

 アマチュア実績は豊富、ジム会長は元世界王者、プロ入り後は史上最短となる7戦目での世界挑戦、右ボクサーファイター……。共通項の多い両者だが、世界挑戦からの歩みは対照的だった。井岡が最初の挑戦で世界王座に輝き、一躍スターダムにのし上がった一方、八重樫はアゴを砕かれて敗れ去り、王者になるまで4年以上、雌伏の時を過ごした。エリートと苦労人の激突は1Rから持ち味を出し切った攻防を見せる。

 井岡が回転のいいジャブで機先を制すれば、八重樫はガードの上からでも重いボディ、ストレートを打ち込む。ただ、1R終盤、井岡の右がヒットし、八重樫の左まぶたが腫れる。これが結果的には勝敗の分水嶺となった。

 続く2Rはカウンターの応酬だ。井岡がカウンターの右を入れれば、八重樫も負けじと相手が踏み込んだところへ右で顔面をとらえる。まさに一進一退の攻防。お互いに距離を測り合いながら、踏み込んで打ち合い、互角の勝負を見せる。4Rまでの採点は3者ともに38−38の同点だった。

 中盤に入ると井岡はジャブで八重樫を突き離し、試合を組み立てようとする。無数にジャブを浴びて八重樫の両まぶたは大きく腫れてくるが、決してひるまない。逆に5Rは前へ出ての右アッパーがヒット。井岡も一瞬、動きが止まり、コーナーに追い詰められる。

 6、7Rと八重樫はふさがり始めた目のドクターチェックを受けて試合が中断するも、相手に主導権は握らせなかった。井岡が攻勢をみせたところへ右を打ち込み、何度も顔面に当ててのけぞらせる。8R終了時の採点は2者が井岡、1者が八重樫を支持するかたちで割れ、試合の行方は全く読めないまま終盤に突入した。

 わずかな差ながらリードを奪った井岡は、9Rからアウトボクシングでポイントを稼ぐ作戦に出る。だが、これを八重樫は許さない。ラウンド中盤には右フックで井岡の足を止め、距離を詰めていく。両まぶたは赤く膨れ、視界は悪いはずだが、そのパンチはしっかりと相手をとらえていた。
   
 鼻血を出しながらも立ち向かってくる八重樫に、井岡も打ち合いを選択する。足を止め、殴り合う壮絶な戦い。いつクリーンヒットが生まれてもおかしくない攻防が続いた。11Rには八重樫がステップインしながらの素早い右フックが当たる。井岡も負けじと打ち返し、あっという間に試合はラストラウンドを迎えた。

 最終ラウンドも互いに疲労はピークに達しているにもかかわらず、2人の手数は全く落ちない。井岡がパンチを細かく刻めば、八重樫は強烈な左を見舞う。両者の長所と長所、意地と意地がリング上で激しい火花を散らし、12ラウンドの激闘は終了した。

 3−0の判定ながら、ポイント差はいずれも1〜2点。どちらの手が勝者として上がってもおかしくなかった。
「八重樫さんは強かった」
 試合後のインタビュー、開口一番、勝者は敗者を称えた。八重樫にしてみれば、もう少し両目が見える状態で戦っていればどうなっていたか。正確なパンチで序盤から相手のまぶたを腫らした井岡の巧さが、わずかに八重樫のパワーを上回った。

「大きい壁を越えました。まだまだ通過点。複数階級を目指していきたい」
 正真正銘のチャンピオンになった23歳は前をしっかりと見据えた。難しい戦いを制し、まさに壁を越えた。井岡の視界には新たなスター街道が大きく広がっている。