ボクシングのWBC世界スーパーフライ級タイトルマッチが8日、横浜文化体育館で行われ、王者の佐藤洋太(協栄)が、同級1位の挑戦者シルベスター・ロペス(フィリピン)を3−0の判定で下し、初防衛を果たした。佐藤は終始スピードで相手を圧倒。左ジャブ、右フックを的確に当て、強打の挑戦者を寄せ付けなかった。
(写真:フェイント気味の右フックがおもしろいように決まった)
 余裕の初防衛だった。ランキング1位、KO率6割を超える強敵にほとんど何もさせなかった。ひとりのジャッジは10ポイントの大差をつけた。
「今回はすべてが冷静だった。頭がクリアだった」
 きれいな顔で佐藤は試合を振り返った。

 試合前、リングに上がった時に同級の王座挑戦を狙っている亀田和毅(亀田)と、父・史郎氏の姿を観客席に見つけた。「子供もいるので、(亀田と)メンチ切ったりするのはイヤ。試合後にリングに上がってきたらどうしようと思った」と余計な心配をするほど落ち着いていた。

 ゴングが鳴っても初防衛戦の硬さは見られない。左ジャブで機先を制し、左ボディを見せながらの右フックが次々と当たる。距離をしっかりとって戦い、拳をクルクルと回すパフォーマンスを何度もみせた。

 3Rには挑戦者の左フックが入ってロープ際まで詰められたものの、ここをしのぐと右フックで相手をぐらつかせて反撃する。4R終了時点では2者のジャッジがフルマークで佐藤を支持。主導権を完全に握り、本人も「このままやれば、8R終了時点でも5〜6ポイント差はつけられる。あとはラスト4R逃げても勝てる」と勝利を確信した。

 ただ、余裕に見えた戦いぶりとは打って変わって内心はヒヤヒヤだったという。ロペスと最初に拳を交わした瞬間、「2個の鉄球が飛んでくるみたいだった。一発ももらえない」と肌で感じた。トリッキーな動きも「そうやって自分を保たないと怖かった」と明かす。相手の左を警戒して右のガードを下げられなかったため、連打で相手を追い詰める場面は少なかった。本人曰く「打ち合いに応じたのは最終ラウンドのラスト10秒」。アウトボクシングに徹して最後まで相手に流れを渡さなかった。

 だからこそ、完勝にも「消極的になった」と納得はしていない。
「10Rにパンチをまとめたけど、コンビネーションがバラバラ。もうひとりの自分が“これはひどいコンビネーションだ”と言っていた(苦笑)」
 次戦は秋に亀田の挑戦を受ける可能性もある。本人は「会長がやれと言われたらやるだけ」と多くを語らなかったが、ジムの金平桂一郎会長は「やりますよ」と前向きな姿勢を見せた。
(写真:会場を沸かせた拳を回す動きも「ボクシングにつながっていない」と試合後の自己評価は厳しかった)

 世界チャンピオンになってもガソリンスタンドでバイトをする生活は変えていない。金髪で腕に刺青という風貌から、王者ながら警察から職務質問を受けたこともある。「僕自身は有名になりたいとは思わない。遊びに行きにくくなる」と笑う控え目な28歳が、注目の日本人対決でスターダムにのし上がることになるのか。

 周囲の盛り上がりも本人はどこ吹く風といった様子だ。
「夏は遊びますよ。海に行ったり、花火も楽しみ」
 最も難しいと言われる初防衛戦を乗り切り、佐藤はベルトとともに、しばしの夏休みを満喫する。

(石田洋之)