あのドリブルは誰にも止められない。

 8月27日、J1リーグの横浜F・マリノス-鹿島アントラーズ戦。“ハマのメッシ”こと齋藤学は1-1で迎えた後半35分、相手のパスをカットしてハーフウェーラインを越えたところから一気にドリブルで持ち込んでゴールを奪った。

 

 相手センターバックのファン・ソッコとの1対1。中央から左斜めに進んでいき、相手が来るや否や切り返して右に行くと見せかけ、すぐにまた方向を変えて左にスピードアップした。ファン・ソッコは振り回され、カバーに向かったセンターバックの昌子源も追いつけない。最後は右足アウトの技ありシュートでゴール右隅に流し込んだ。

 

 このシーンのみならず、縦横無尽にドリブルで切り裂く齋藤の独壇場だった。

 

 齋藤は今季、ドリブルの改良に着手した。2月の宮崎キャンプでは試行錯誤しながら取り組む彼の姿があった。

「自分の姿勢はこれまで常に前傾でした。でも(リオネル・)メッシを見ても、ネイマールを見てもドリブルしているときの姿勢が実にいい。前傾すぎてもいけないし、後傾すぎてもいけない。今はそのベストポジションを探しているんです」

 

 馬力と高い回転数を持ち味とした前傾姿勢のドリブルが齋藤の代名詞であった。しかし最後の最後でバランスを崩してしまい、フィニッシュにつなげられない惜しい場面がたくさんあった。齋藤はバルセロナで活躍するメッシやネイマールのドリブルに着目し、時間があれば彼らをとにかく研究したという。

 

 上体を起こして腰を立てた状態で、スピードを落とさないまま走る。言葉にするとグッグッというよりはスッスッ。姿勢にこだわって、体が前に突っ込まないように気をつけた。

 さりとて意識だけでは「いい姿勢」になれない。筋力トレーニングでは太腿の裏を鍛え、体全体のバランスを考えた。前傾姿勢よりも目線が一つ高くなることで、視野も広くなったという。

 

「スピードも出ているし、仕掛けるドリブルもできている。いいチャレンジができているんじゃないかなって思っています」

 チャレンジの成果が鹿島戦のゴールによく表れている。最初から最後までまさに「いい姿勢」でバランスを崩さず、スピードに強弱をつけながらゴールに向かっている。視野を確保しているからこそ、シュートコースも見えていた。メッシのようであり、ネイマールのようでもあった。

 

 齋藤は2014年ブラジルW杯本大会のメンバー。ハリルジャパンには3月のロシアW杯アジア2次予選シリア戦(ホーム)に追加招集されて以降、呼ばれていない。しかし代表に対する思いは強く、鹿島戦の前にもこのように話していた。

「ブラジルW杯の後はなかなか代表に呼ばれなくて、自分に何か足りないものがあると思って自分を見直すことができた。3月に久しぶりに呼ばれたけど、紅白戦でも自分はやれているなと思ったし、これまで取り組んできたことは間違いじゃないと感じることもできましたから。ただそれ以降呼ばれていないということは、(ハリルホジッチ監督を)納得させるほどのインパクトを与えることができていないのかな、と。でも目の前にチャンスは転がっていると思っています」

 

 鹿島戦は、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の度肝を抜くほどのインパクトだったに違いない。今のパフォーマンスを続けていけば、10月の最終予選2連戦(6日=ホームのイラク戦、11日=アウェーのオーストラリア戦)に招集される可能性は十分にある。

 

 鋭く、華麗で、相手をあざ笑うかのような極上のドリブル。齋藤学という切り札を使わない手はない。


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