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(写真:「職がつながった」と、34歳最後の試合でKO勝利に安堵した石本)

 ボクシングの日本スーパーバンタム級タイトルマッチが1日、東京・後楽園ホールで行われ、王者の石本康隆(帝拳)が同級8位の古橋岳也(川崎新田)を10ラウンド2分27秒TKOで下した。石本は序盤からペースを掴み、優位に試合を進める。ダウンを奪えぬまま最終ラウンドに突入。ラッシュを仕掛けると、レフェリーが試合を止めた。石本は2度目の防衛に成功。通算戦績を37戦29勝(8KO)8敗とした。

 

 石本にとって2度目の防衛戦は、2度目の王座挑戦となる古橋との対決になった。両者は1年2カ月ぶりの再戦。昨年8月の試合はノンタイトルマッチの8回戦で石本が3-0の判定勝ちを収めているが、内容は僅差だった。石本は「勝ったにしても逃げるような勝ちだった」と振り返る。両者が完全決着を望むリマッチだ。

 

 序盤、ペースを掴んだのは石本だ。“スロースターター”の悪癖は覗かせなかった。左のジャブで相手を制し、右も当てて試合をリードした。2ラウンド目からは打ち合いの様相を呈し、「石本コール」「古橋コール」と両者の応援団が選手の背中を押す。

 

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(写真:プロ37戦目。「いつになっても緊張する」と語るが、キャリアの差を見せつけた)

 石本は3ラウンドには古橋に押される場面も見られた。それでも有効打を的確に返し、時にはクリンチも交えて相手にペースを譲らない。5ラウンド終了時の公開採点ではジャッジの1人が石本にフルマークを付けて50-45の大差。残りの2人も49-46とチャンピオンを支持する。これを聞いた石本は「逆に引き締まった」という。セコンドの田中繊大トレーナーも「逃げんなよ。勝負だぞ」と発破をかけて、石本を送り出した。

 

 6ラウンド以降は前へ出てくる古橋に対し、冷静に対応する。パンチを当てられる場面もあったが、ダメージは少ないように映った。もちろんやられてばかりではいない。石本は右のストレート、ショートアッパーと多彩にパンチを繰り出し、連打を浴びせた。9ラウンドには挑戦者をロープ際に追い込んで、左右のコンビネーションを食らわせた。

 

 ラウンド途中には両者が“かかって来い”と挑発し合うような打ち合いの展開となった。ラウンド終了後には場内の観客から拍手が巻き起こった。田中トレーナーからは「勝負だ」と背中を叩かれ、気合を入れた。「あそこで逃げたらチャンピオンじゃない」と石本。最終ラウンド、残り3分で古橋を仕留めにいった。

 

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(写真:冴え渡った右は「ミット打ちの中でバリエーションを増やした」と練習の成果が出た)

 1分が経過したあたりで、ラッシュを仕掛ける石本。ここは古橋が耐えたが、残り1分を切ったところで、再び石本の猛攻となった。ここでレフェリーが2人の間に割って入り、試合をストップさせた。試合時間残り33秒でゴングが鳴り、チャンピオンが防衛に成功した。勝利が決まった瞬間、コーナーによじ登り、勝ち名乗りを挙げた。

 

 途中、後手に回る場面も見られたが、試合を通してみればほとんど石本のペースだった。田中トレーナーは「みんながやりにくいという間の取り方。それがコイツの持ち味です。独特のリズムが相手には厄介なんです」と分析するように、古橋も石本を最後まで捕まえられなかった。古橋は「自分の距離を作れなかった」ことを一番の敗因に挙げ、「石本さんはサイドに動くので強いボディが当てられなかった。的が動く分、身体もぶれた」と悔しがった。

 

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(写真:今年6月から田中トレーナー<右>と再び組み始めた)

 ジャッジペーパーを見ても大きな差を付けており、タイトルマッチでは初のKO勝ち。完勝に近い出来だが、石本は「100点ではない」と自己採点する。逆に言えば、自らの“のびしろ”はまだあるということだろう。今月10日には35歳となるベテランだが、成長をした姿を見せている。1年2カ月ぶりに拳を交えた古橋が「攻撃のテンポが前よりも速かった」と証言すれば、田中トレーナーは「最後倒しにいって倒せたのは成長した」と称えた。

 

「途中、劣勢になっても押し戻せた」と、石本自身も倒し切れなかった初防衛戦と比べて手応えを感じているのは確かだ。「自分で試合展開を変えられるのは、いいボクサーの条件」と田中トレーナーが言うように、力は着実に付いてきている。

 

 王者の地盤を固めつつある石本。「世界とは言えない。目の前の試合勝つだけ。まだまだ頑張ります。僕の夢に付き合ってください!」と、聖地・後楽園ホールで誓った。1戦1戦が勝負の歳である。負ければ“引退”の2文字もちらつく。34歳最後の試合は、自らの拳で未来を繋いだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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初防衛戦(2016年4月2日掲載)

王座奪取(2015年12月21日掲載)

 

FORZA SHIKOKU 2014年1月掲載

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>>第2回 「拳闘士の原点」

>>第3回 「心の弱さが生んだ“スロースターター”」

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