第323回 シカゴ・カブスの108年ぶりの悲願達成なるか ~2016年MLBプレーオフ展望~
2016年のMLBシーズンも大詰め――。今週からいよいよプレーオフの戦いが始まった。今季も多くの強豪がしのぎを削る中で、ワールドシリーズに進出し、世界の頂点に立つのはどのチームか。今回は筆者が独断と偏見で注目チーム、優勝候補をピックアップし、今年度のチャンピオンを占ってみたい。
注/以下、カッコ内の選手成績はすべてレギュラーシーズンのもの
本命 シカゴ・カブス(103勝58敗 ナ・リーグ中地区優勝)
シーズン中に圧倒的な強さを誇示したことに敬意を表し、やはりシカゴのタレント集団を優勝候補の本命に挙げるべきだろう。
今秋のカブスは紛れもなく“アメリカズチーム(地元だけでなく全米から注目を集めるチーム)”。彼らが1908年以来、実に108年振りの世界一に到達できるかどうかが今プレーオフの最大の見どころと言って良い。
チーム防御率はリーグ1位で、ローテーションは2人のサイ・ヤング賞候補のカイル・ヘンドリックス(16勝8敗、防御率2.13)とジョン・レスター(19勝5敗、同2.44)、去年のサイ・ヤング賞投手(ジェイク・アリエッタ(18勝8敗、同3.10)が引っ張る。
打線にもMVP候補のクリス・ブライアント(打率.292、39本塁打、102打点)、アンソニー・リッソー(打率.292、32本塁打、109打点)をはじめ、多くのヤングスターが敷き詰められている。知将ジョー・マドンの存在まで含めて弱点は見当たらず、特にナ・リーグ内ではダントツの優勝候補と目されているのも頷ける。
そんなカブスにとって、不安材料は第1ラウンドで勝負強いサンフランシスコ・ジャイアンツと対戦しなければいけないことだ。この時期に驚異的な力を発揮するマディソン・バムガーナーを始め、カブスに匹敵する先発投手力を誇るジャイアンツは5戦シリーズでは怖いチーム。今シーズン中の対戦でも4勝3敗とてこずっている。
過去5年間で2度も世界一になったジャイアンツの壁を乗り越えられれば、カブスはにとって悲願のワールドシリーズ進出が見えてくる。
しかし、序盤のシカゴでの2戦を1戦でも落とし、バムガーナーが出てくる敵地での第3戦を迎えることになった場合には状況は変わってくる。その際には、悲運の歴史が改めて頭を過ぎり、シカゴファンは不安に震えながら以降のゲームを見守ることになるのかもしれない。
対抗#1 ボストン・レッドソックス(93勝69敗 ア・リーグ東地区優勝)
打線の層の厚さだけなら、レッドソックスが間違いなくメジャー1だろう。今季のチームOPS.810は両リーグ最高。ムーキー・ベッツ(打率.318、31本塁打、113打点)、デビッド・オルティス(打率.315、38本塁打、127打点)、ザンダー・ボガーツ(打率.294、21本塁打、89打点)、ハンリー・ラミレス(打率.286、21本塁打、111打点)、ダスティン・ペドロイア(打率.318、15本塁打、74打点)――これだけの強打者たちが並ぶ打線を封じ込めることは、どんな好投手にとっても並大抵の難しさではあるまい。
先発投手陣にはリック・ポーセロ(22勝4敗、防御率3.15)、デビッド・プライス(17勝9敗、同3.99)という2枚看板が確立。攻守両面で軸のしっかりしたチームだけに、2013年に続き、“前年の最下位から世界一”という偉業を再び成し遂げても不思議はない。
もっとも、ロースターを見渡すと、弱点もちらほら見える。先発3、4番手のクレイ・バックホルツ(8勝10敗、同4.78)、エドゥアルド・ロドリゲス(3勝7敗、同4.71)は2本柱と比べてやや力が落ちる。ブルペンでも守護神クレイグ・キンブレル(2勝6敗31セーブ、同3.40)も9月は7試合で防御率5.63と不振。そんな状況下で、中継ぎ、セットアッパーを務めるブラッド・ジーグラー(2勝4敗4セーブ、同1.52)、上原浩治(2勝3敗7セーブ、同3.45)の負担が大きくなりそうだ。
6日にはクリーブランドで迎えたインディアンスとの地区シリーズ第1戦に4−5で敗れ、さっそく厳しい状況になった。今後、長いシリーズとなったとき、年齢的にやや峠は越えたブルペンのベテランたちがどれだけ持ちこたえられるかも注目ポイントになる。
対抗#2 テキサス・レンジャーズ(95勝67敗 ア・リーグ西地区優勝)
今季のレンジャーズは1点差のゲームで36勝11敗、逆転勝利が49度と接戦に圧倒的に強かった。幸運に恵まれたのか、あるいは勝負強さの証明か。勝率5割以上の相手にも60勝31敗と好勝率を残したチームなのだから、恐らくは後者なのだろう。だとすれば、必然的に接戦の連続になるであろうポストシーズンでも先行きは有望かもしれない。
エイドリアン・ベルトレ(打率.300、32本塁打、106打点)、カルロス・ベルトラン(移籍後の打率.280、7本塁打、29打点)、イアン・デズモンド(打率.285、22本塁打、86打点)、ジョナサン・ルクロイ(移籍後の打率.276、11本塁打、31打点)、エルビス・アンドルース(打率.302、8本塁打、69打点)といった経験豊富なリーダーを擁しているのは心強い。先発投手陣はコール・ハメルズ(15勝5敗、防御率3.32)、ダルビッシュ有(7勝5敗、同3.41)という左右のワンツーパンチが引っ張る。
そんなレンジャーズにとってのポイントは、現地時間6日から始まった第1ラウンドのブルージェイズ戦をどう乗り切るか。1年前の地区シリーズで激闘を演じ(2勝3敗で敗北)、今春にもロウグネド・オドールとホセ・バティスタの大乱闘劇で物議を醸した宿敵との対戦は、極めてエモーショナルなものになるはずだ。
ハメルズを立てて臨んだ地元での第1戦には1−10で完敗。今後も簡単には勝てないだろうが、このラウンドさえ何とか制することができれば、テキサスのプロ集団から硬さが取れる。そのときには、レンジャーズは2011年以来のワールドシリーズ進出に向けて勢いをつけていくのではないか。
穴 サンフランシスコ・ジャイアンツ(87勝75敗 ナ・リーグワイルドカード)
「10月には何でも起こり得る」———。10月5日、ナ・リーグのワイルドカード戦でニューヨーク・メッツを下した後、ジャイアンツのマディソン・バムガーナー(15勝9敗、防御率2.74)は不敵な笑顔とともにそう述べていた。
2010、2012、2014年に世界一になった“偶数年の王者”の言葉には必然的に説得力がある。ナ・リーグの大本命カブスとしても、正直、ジャイアンツとの対戦だけは避けたかったというのが正直なところではないか。
バムガーナー、ジョニー・クエト(18勝5敗、防御率2.79)、ジェフ・サマージャ(12勝11敗、同3.81)、マット・ムーア(移籍後6勝5敗、同4.08)という先発4本柱の力量はカブスにも負けていない。他のすべての要素で表層上は劣っていても、ジャイアンツには経験と勝負強さがある。バスター・ポージー(打率.288、14本塁打、80打点)、ハンター・ペンス(打率.289、13本塁打、57打点)といった主力打者が粘り強さを発揮すれば、過去の優勝時と同様、必要な得点は捻出できるはずだ。
様々な意味で、カブス対ジャイアンツのシリーズは今季の覇権に大きな影響を与えかねない大一番。ここで大本命をうっちゃるようなことがあれば、ジャイアンツの偶数年の強さをもう誰も単なる偶然とは思えなくなるだろう。
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。