トヨタ・山根、“負けない2番手”のオリジナル ~ソフトボール~
日本女子ソフトボールリーグで、トヨタ自動車レッドテリアーズが連勝街道をひた走っている。トヨタ自動車は今シーズン開幕から18戦全勝とトップを独走中だ。総失点はわずか22。盤石の投手陣を支えているのが、絶対的エースのモニカ・アボットと日本代表の山根佐由里である。山根は日本リーグの連勝記録を更新中。“負けない”ピッチャーとしてチームの好調に一役買っている。
10月18日現在で6勝を挙げ、今シーズンも無敗をキープ。山根は自らが持つ日本リーグ記録を42連勝まで伸ばしている。
日本代表ヘッドコーチも兼ねているトヨタ自動車の福田五志監督は「年数を重ねるごとにピッチングも上手になってきている。毎年、相手から研究もされてきている中で、そこをクリアしているのはすごい」と称える。
一方、今シーズンからトヨタ自動車のピッチャー陣を指導する宮下雅志コーチは山根の競技に対する姿勢を評価する。「ストイックですよ。ピッチャーなので、練習時間が長くてもずっと投げているわけではなく、できることは限られているんです。山根は時間が空いた中で何をやったらいいかを考えて、時間を無駄にしない。ただ単にボーッとしていようというのではなく、自分のためになることに使っています」
連勝記録については、山根本人は特段意識していないという。「自分だけで勝っているわけではないですから。チームの勝利が続いているという感じ。自分自身では何も思っていないです」
宮下コーチも「結果として負けていないだけ。大事な試合はアボットがいるので、本人も任せられる相手に“負けるわけにはいけない”という感覚なんだと思います」と語る。目の前の試合をただ必死に、1球1球を全力で投げている結果が勝ちにつながっているのだ。
武器は“動く”ボール
山根の持ち味は正確なコントロールと多彩な変化球を駆使したピッチングだ。チェンジアップ、ドロップ、ライズボール、スライダーなどで打者のタイミングを狂わせる。
「テンポよく、リズムよく投げていって、野手に守ってもらうということ」が武器だと語る山根はバッタバッタと三振を奪うタイプではなく、打たせて取るピッチングを身上としている。バッターの的を外すカギは変化球だけではない。山根の投げるストレートにはクセがある。これまでは敵地チームのベンチで彼女を見ていた宮下コーチはこう証言する。
「彼女はいろいろな球種を投げますが、まずストレートが人と違う球筋です。いわゆるムービングファストボール。独特の動きをするんです」
山根本人も「普通の真っすぐがくるより打ちづらいと思う。自分の中でも武器のひとつ」と自負している。「ナチュラルに投げていたボール。中学、高校からずっと同じなので、特に何をしようと意識しているわけではないんです」。動くストレートは自然と身に付けた彼女のオリジナルのボールなのだ。
今シーズンから宮下コーチの指導を受けて、ピッチングの幅は広がった。山根も成長に手応えを感じている。
「今までは苦しくなった時に真っすぐとチェンジアップという感じだったんです。それ以外にも勝負できるボールが増えたので、自分にとって引き出しが増えました」
2011年の日本リーグで黒星を喫して以来、負け知らずの山根だが、日本代表でもトヨタ自動車でもエースという立場ではない。日本代表には上野由岐子、トヨタ自動車にはアボットがそのポジションには依然として君臨している。
「もちろん自分はピッチャーなので、悔しい気持ちはあります。でもその人、その人のスタイルがある。私にモニカの真似はできないし、上野さんの真似もできない。自分は自分の長所を生かしてやっていくのが一番なのかなと。今日の自分、昨日の自分に負けないように今日、明日、明後日とやっていきたいと思っています」
誰を追いかけるわけではなく我が道を行く。自らのスタイルを貫いて、チームと共に頂点を目指す――。
<山根佐由里(やまね・さゆり)プロフィール>
1990年1月24日、三重県生まれ。小学4年で姉の影響でソフトボールを始める。三重県の宇治山田商業高を経て、08年にレオパレス21へ入団。1年目から5勝、防御率1.26の好成績で、新人賞に選ばれた。レオパレスの廃部に伴い、10年からはトヨタ自動車へと移った。13年には11勝を挙げると、14年には9勝、防御率0.96で最優秀投手賞に輝いた。日本代表は09年に初選出。10年、14年、16年の世界選手権に出場した。身長166センチ、右投右打。背番号「21」。
(文・写真/杉浦泰介)