世界レベルの実力を持ちながら資金難のために競技の継続が難しいマイナースポーツのアスリートを支援するプロジェクト「マルハンWorld Challengers」は28日、都内ホテルで第2回の最終審査を実施し、14名(チーム)のアスリートたちが総額1500万円の協賛金をかけて公開オーディションに臨んだ。その結果、当HP編集長・二宮清純ら7名の審査員と参加者の投票により、7名のWorld Challengersが選ばれ、自転車ロードレースの小橋勇利(ボンシャス飯田/愛媛・松山工高3年)が協賛金300万円を獲得した。またハンググライダーの鈴木由路(ウインドスポーツ)に200万円が贈られた。
(写真:「気持ちを言葉に表せない」と感極まり、涙を流した小橋)
 同プロジェクトは昨年よりスタートし、今年が2回目。昨年11月に開催された第1回ではトランポリンの伊藤正樹(金沢学院大クラブ)が300万円、近代五種の黒須成美(東海東京証券)が200万円の協賛金をゲットし、先のロンドン五輪にも出場した(協賛金獲得者ではライフル射撃・小西ゆかり(飛鳥交通)も出場)。

 今回は前回を上回る657名(チーム)が応募。書類審査を経て、14名(チーム)がこの日の最終オーディションに参加した。オーディションは3部構成で実施され、5分間のフリープレゼンテーション、各ブースによる交流会、MCとのトーク&PRを通じ、各アスリートが競技の魅力や資金難の現状、今後の夢を審査員や参加者にアピールした。
(写真:デモンストレーションで競技を紹介するラクロス・長谷川玄)

 登場したアスリートは、いずれも日本ではトップクラスの実力ながら、マイナー競技ゆえ、その現状は極めて厳しい。「アルバイトをしているが時給は700円。大会参加が多かった先月は1カ月で1万円しか稼げなかった」(サーフィン・高橋みなと)、「カヌーが1艇50万円もするので5、6年前の古いモデルを使わざるを得ない」(カヌー・小松正治)、「リーマンショックでサプライヤーが倒産したり、買収されたりした上に、自分も派遣切りにあった」(スキー(スロープスタイル)・大久保亜弥)と苦しい実情を明かした。
 
 それでも自らの目標に向かって挑戦したいという気持ちはどの選手も人一倍持っている。「ロンドンパラリンピック出場を逃した悔しさを力に変え、リオデジャネイロではメダルを獲りたい」(車椅子卓球・中出将男)、「世界中の大会でメダルを獲りつくし、最強の腕力を手に入れたい。アームレスリング界に革命を起こす」(アームレスリング・山本祐揮)、「将来は金メダルを獲り、世界に通用するチームをつくりたい。イベントや講習会を開催し、競技を知っていただくきっかけをつくる」(セパタクロー・増田蕗菜)などとアスリートたちは夢を熱く語っていた。
(写真:資金難で世界選手権出場を断念したという山本には二宮清純賞が送られた)

「順位をつけるのがもったいない。皆に300万円を獲ってほしい」と審査員を務めた魔裟斗氏も悩んだ末、もっとも高額の協賛金を手にしたのは、今回のオーディションでは最年少の参加となった小橋だ。北海道出身ながら、より自転車に打ち込める環境を求めて愛媛の高校へ進学。史上初めて1年生でインターハイを制した期待の若手である。「日本人が達成していないツール・ド・フランスでのステージ優勝」を掲げる17歳は実力を高めてプロレーサーとなるため、高校を卒業する来春より本場のヨーロッパに渡ることを決めている。300万円の協賛金が発表された際には、両手を挙げてガッツポーズ。「300万円をいただいたからには夢を実現しないといけない責任を感じている。自分にプレッシャーをかけて頑張る」と飛躍を誓った。

 小橋に次ぐ200万円を獲得したのが、ハンググライダーの鈴木だ。競技に専念するため、昨年、勤めていた会社を辞めた。海外では公園でテントを張って寝泊りし、川のエビを捕まえて食べるなど遠征費を切り詰めて大会に参加している。その結果、昨年の世界選手権では自身最高の27位に。プレゼンテーションでは飛行中の上空からの映像を見せながら、「世界で一番、鳥に近い人間になる」と訴えかけた。協賛金の使い道については「2013年の世界選手権でメダル獲得を目指す。そのために最新鋭のグライダーを購入し、現地でのフライト経験を積みたい」と話した。

 オーディション会場には第1回の参加者も駆けつけ、ロンドン五輪で4位入賞を収めたトランポリンの伊藤は「関係者以外からも自分の演技を見て感動したという声をいただけた。結果に悔いはない。4年後は金メダルを獲れる力をつけたい」と悲願の五輪表彰台へ決意を口にした。同プロジェクトを主催する株式会社マルハンの韓裕代表取締役社長は「今後も多くの方の挑戦のサポートをしていきたい。長く支援を続けていきたい」と取り組みの継続を約束する。選手たちにとって今回のオーディションはゴールではない。協賛金を有効に活用し、世界で活躍することで、自身の競技はもちろん日本のスポーツ界全体を盛り上げる存在になってほしい。

 その他の協賛金、審査員賞を得たアスリート(チーム)は以下の通り。

・World Challengers(100万円)
サーフィン・高橋みなと(ASP)
セパタクロー・増田蕗菜(くにたちキャッツアイ)
リュージュ・金山英勢(札幌学院大)
カヌー・小松正治(宮城県カヌー協会)
アームレスリング・山本祐揮(RISE)

・Finalist(50万円)
キックボクシング・Little Tiger(宮内彩香、F.TEAM TIGER)
スキー(スロープスタイル)・大久保亜弥(NANOSH湘南)
ラート・堀口文(筑波大)
総合格闘技・松田干城(Team Sityodtong Boston)
ラクロス・長谷川玄(FALCONS)
車椅子バスケットボール・NO EXCUSE
車椅子卓球・中出将男(日本肢体不自由者協会)

・審査員賞(30万円)
乙武洋匡賞 車椅子バスケットボール・NO EXCUSE
大畑大介賞 ハンググライダー・鈴木由路
川上直子賞 セパタクロー・増田蕗菜
魔裟斗賞 総合格闘技・松田干城
二宮清純賞 アームレスリング・山本祐揮
(写真:審査員とWorld Challengersに選ばれたアスリートたち)

※なお当サイトではコーナー「マイナースポーツのヒーローたち」を設け、第1回の最終オーディション出場者のその後の活躍を順番に紹介しています。第2回の出場者についても今後、掲載予定です。