日本史上初の現役王者同士による王座統一戦から3カ月、激闘を制したWBA世界ミニマム級王者・井岡一翔(井岡)は、2階級制覇へ向けて次戦以降はライトフライ級に上げる考えを表明している。もともとプロデビュー時よりライトフライ級で戦っており、減量が楽になる分、さらに成長した姿をリング上で見せてくれそうだ。そんな今をときめく若きチャンピオンに二宮清純が約1年ぶりにインタビュー。勝負に対する王者ならではの考えを訊いた。
(写真:「負けは怖いし、不安もあるけど、やるしかない」と試合に臨む心構えを語る)
二宮: 試合が近づくと緊張感からか、試合の夢を見る選手も多いと聞きます。井岡選手はどうですか? 
井岡: 夢はしょっちゅう見ますね。誰かに追われている感じの夢が多い。試合にまつわる夢は、負けている内容が多いです。僕は、普段からボクシングもそれ以外のことも、常にいろいろと考えるタイプ。だから、寝ている間も常に何か考えているんでしょうね。いつも熟睡している感覚はありません。

二宮: これから階級を上げて、25歳、30歳と、こんなボクサーになりたいというプランは描いていますか?
井岡: 今後について年齢で区切って考えたことはないですね。今は1戦でも早く2階級制覇して、タイミングを見計らって3階級、4階級制覇を達成する。それから自分にとってベストの階級で防衛を重ねることが目標です。その上で自分の強さに満足したら辞めます。現時点では30歳までやるつもりはありません。あと5年くらいが勝負だと……。

二宮: もし、井岡一翔というボクサーがもうひとりいたとしたら、どう戦いますか?
井岡: 決着がつかず、ドローになりそうですね。特別、自信があるわけじゃないですが、全体的にバランスのいいボクサーにはなってきているとは思います。ただ、まだまだ歯がゆいことも多いですね。

二宮: 自分の理想形にはまだ程遠いと?
井岡: やっと土台が備わってきたな、という感じです。

二宮: 城でいえば、まずは城壁が完成したといったイメージでしょうか。天守閣ができるのは、5、6年後くらいですか?
井岡: 理想に到達するには、あまり残り時間はないので、急がなきゃいけないという気持ちは持っていますね。

二宮: 井岡選手は、プロでは負け知らずですが、アマチュア時代には敗戦もありました。一番悔しかった試合は、どの試合ですか。
井岡: これはいつも言っていることですが、「一番悔しい」ということはありません。負けた試合はどの試合も悔しいし、勝った試合はどの試合もうれしい。1試合1試合にいろんなことが詰まっています。だからこそ、負けて学ぶこともあるのではないでしょうか。

二宮: 大学時代は北京五輪を目指していましたが、全日本選手権の決勝で僅差の判定負けを喫し、五輪出場の夢が断たれました。それがきっかけでプロ転向を決断したわけですね。
井岡: 確かに五輪に行けなかったという点では、全日本選手権の負けは大きかったです。だけど、その悔しさを引きずって忘れずに戦ってきたからこそ、今があると思うし、また、そうしないといけないと思います。もし負けるようなことがあれば、それは過去の敗戦の悔しさや涙を忘れていることになってしまう。勝つことによって自分の過去を変えなきゃいけない。

二宮: 普通、「未来は変えられるけど、過去は変えられない」と言います。でも、井岡選手の考えでは「過去を変えられる」と?
井岡: もし、周りの人たちが「あの時の負けがあるからこそ、今の井岡がある」と言ってくれるのであれば、それは過去が変わったことになるのではないでしょうか。負けたつらい過去が輝く大切な過去になる。逆に、「あの時に負けていなかったら、井岡はもっといいところまで行けていたはずなのに」と言われるようであれば、それは、ただの惨めな負けです。たとえ、あの時、僕が試合に勝って五輪に行けたとしても、その後、世界チャンピオンになっていなかったら、今度は「あの時は良かったのに」と言われますよね。良かったはずの過去がそうではなくなります。だから過去は今の自分によって変わっていくと感じるんです。

<現在発売中の『第三文明』2012年10月号では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>