二宮: 鈴木選手は遠征や大会など、海外経験も豊富ですが、バリアフリーという点では、海外と比べて日本はいかがでしょう?

鈴木: 日本は遅れている、という人もいますが、意外に海外よりも進んでいる面もあると思いますよ。特に公共施設は、ほとんど不自由なく利用することができます。ただ、「障害者」というイメージだけでルールが決められてしまって、逆に不自由を感じることも少なくありません。

 

二宮: 例えばどんなことでしょう?

鈴木: 僕が日ごろ感じているのは、障害者にも一人でできることはたくさんあるということが知られていないことです。例えば、新幹線の乗り降り。駅はそれこそバリアフリーが進んでいて、特に新幹線が通っている駅では、必ず車いすでも通ることのできる広めの改札口がありますし、ホームまで行けるエレベーターがあります。ですから、僕は一人でも何不自由なく新幹線の乗り降りができるんです。ところが、駅によっては障害者には必ず駅員がホームまで付き添って、新幹線に乗せなければならないというルールがあるようで、僕がいくら「一人でも大丈夫です」と言っても「ルールですから」と言って、絶対に一人では行かせてくれません。

 

二宮: 家族や友達など健常者が一緒にいたら、どうなのでしょう?

鈴木: これも駅によってですが、厳しいところは他に人がいたとしても付き添ってきますね。これじゃ、例えばカップルだったら、たまったもんじゃないですよね。手をつなぐことも、秘密の話をすることもできませんよ(笑)。

 

二宮: 確かにそうだ! 規則に柔軟性を持たせてほしいと?

鈴木: そうです。もちろん、介助が必要な人には手を差し伸べてほしいのですが、僕のように一人でできる人にまで同じようにしなくてもいいのにな、とは思ってしまいますね。配慮してもらえるのはとてもありがたいことですが、もう少し柔軟に対応してもらえると嬉しいですね。

 

 真の意味での一本化

 

二宮: 鈴木選手は2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致アンバサダーとしても活躍されています。今年1月には国際オリンピック委員会(IOC)に「立候補ファイル」を提出するため、同じ招致アンバサダーの澤穂希選手たちとスイスに行きました。その後、ロンドンで記者会見を開きましたが、海外からの反響はいかがでしたか?

鈴木: IOC委員も海外メディアも東京の招致に対して、いい印象でいてくれているのではないかという感触を持ちました。

 

二宮: ロンドンではパラリンピックもオリンピックにひけをとらないほど盛り上がりました。日本でもそうなるためには、「パラリンピアン=アスリート」だという認識が必要になるでしょうね。

鈴木: その通りだと思います。オリンピアンと同じように、僕たちパラリンピアンも絶え間ない努力をし、何度も壁にぶち当たりながらも、その壁を乗り越えようと必死になって自分のパフォーマンスを磨いているということを、もっと知ってほしい。そうすれば、ひいては障害者を見る目も変わってくるのではないかと思います。

 

二宮: オリンピックとパラリンピックは、今や世界のアスリートが集うスポーツの祭典として、徐々にその垣根が低くなっています。その延長で東京招致を考えたいですね。

鈴木: そうですね。20年に東京で開催されることになった場合、オリンピックとパラリンピックが、本当の意味でひとつのコンセプトで行われる大会となればいいなと思っています。興味や関心がオリンピックだけで終わるのではなく、オリンピック開幕からパラリンピック閉幕までの期間を、ひとつのスポーツの祭典として捉えて、パラリンピックも観て、応援して、楽しんでもらいたいです。

 

(おわり)

 

鈴木孝幸(すずき・たかゆき)プロフィール>

1987年1月23日、静岡県生まれ。先天性四肢欠損。5歳から水泳を始め、小学校時代は水泳教室に通う。中学時代は吹奏楽部に所属するも、高校から水泳を再開。3年時にはアテネパラリンピックに出場し、メドレーリレーで銀メダルを獲得。早稲田大学に進学し、4年時に出場した北京パラリンピックでは、50メートル平泳ぎ(運動機能障害)で金メダルに輝いた。卒業後、ゴールドウィンに入社。昨年、ロンドンパラリンピックに出場し、50メートル平泳ぎと150メートル個人メドレーで銅メダルを獲得した。50メートル平泳ぎの世界記録保持者。

株式会社ゴールドウイン http://www.goldwin.co.jp/


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