来年3月に開催される第3回WBCで3連覇を狙う日本代表(侍ジャパン)の監督に、元広島監督の山本浩二氏が就任することが10日、正式に決まった。都内ホテルで加藤良三コミッショナー、王貞治コミッショナー特別顧問(福岡ソフトバンク球団会長)とともに会見に臨んだ山本新監督は「3連覇目指して、気持ちをひとつに頑張りたい」と意気込みを語った。侍ジャパンは今後、11月のキューバ代表との親善試合(16日ヤフードーム、18日札幌ドーム)に臨み、WBCへ向けて活動を本格化する。
(写真:「こんなにフラッシュを浴びたのは久しぶり」と笑顔を見せる山本監督(中央)と加藤コミッショナー(左)、王特別顧問)
 気持ちをひとつに――。山本監督は会見で何度も、このフレーズを口にした。
 今回のWBC参加、代表監督選考を巡っては日本プロ野球界で、なかなか気持ちがひとつになれなかった。大会参加については昨年の時点で先に出場を表明したNPB(日本プロ野球機構)と、大会の収益分配見直しなどを主張した日本プロ野球選手会が対立。一時は選手会がWBC不参加を決議する事態になった。

 この問題は主催者側から代表スポンサー権が条件付きながら認められたことで選手会が不参加決議を撤回したが、今度は監督人事で行き詰った。NPBでは当初、現役監督では負担が大きすぎるとの理由からOBにも対象を広げたものの人選が進まず、現役監督から選ぶ方針に逆戻りした。そして、前年度日本一のソフトバンク・秋山幸二監督に打診。しかし王特別顧問の説得にも本人が固辞し、9月中に終える予定だった指揮官の決定がずれ込んでいた。

 そんな中、再び候補に浮上したのが、広島で延べ10年間に渡って指揮を執り、北京五輪で日本代表の守備走塁コーチも務めた山本監督だ。就任の要請があったのは9月末。「ありがたく光栄なこと。何も断る理由はなかった」と受諾した。来春のWBCでは3連覇に注目が集まり、重圧のかかる大役だが、「大変なことは分かっている。でも、誰かがやらなくてはいけない」と覚悟を決めた。ようやく監督問題が決着し、王特別顧問は「(山本監督は)若い選手とコミュニケーションをとるのが上手。短期間で選手たちも心を開いて、お互いにひとつの目標に向かって戦うには素晴らしい監督に引き受けてもらった」とホッとした様子だった。

 ただ、不安視されるのは現場から離れたブランクだ。広島の監督退任からは7年、北京五輪のコーチからも4年が経過しており、それを補うのがコーチ陣の役割になる。そこで野手総合コーチには前年まで北海道日本ハムで指揮を執った梨田昌孝氏が就任。作戦面で監督をサポートする。また前回大会に引き続いて与田剛投手コーチ、高代延博外野守備走塁コーチ、緒方耕一外野守備コーチが選ばれ、継続性も重視した。

 さらには43歳の立浪和義(元中日)が打撃コーチに。2009年の引退後、指導者経験はないが、「現役選手に近く、橋渡し役になれれば」と山本監督は期待を寄せる。球数制限など制約の多い投手部門は山本監督とも親交の深い東尾修氏(元西武監督)が総合コーチとしてまとめる。第1回大会の監督だった王特別顧問、第2回大会の原辰徳監督は、それぞれ侍ジャパンの特別顧問、シニアアドバイザーとなり、バックアップ体制もできた。山本監督は「王顧問、原監督にアドバイスをいただきながら、スタッフと心をひとつにチームを盛り上げていきたい」と力強く語った。
(写真:「普段からグラウンドにはしょっちゅう来ている」と本人には現場から離れている点に大きな不安はない)

 しかし、まだ日本球界がひとつになってWBCへ向かうにはクリアすべきハードルは少なくない。3連覇を狙う最強チームを結成するにはダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ)やイチロー(ニューヨーク・ヤンキース)などメジャーリーガーの出場は不可欠。しかし、青木宣親(ミルウォーキー・ブルワーズ)が所属チームの監督からWBC参加に難色を示されるなど、どこまで日本人メジャーリーガーが代表入りできるかは不透明だ。また、シーズン前に早めに状態を仕上げる必要があることから、前回同様、国内の選手でも参加を辞退するケースが考えられる。

 加えてWBC参加や監督選考にまつわる“迷走”で、選手たちのモチベーション低下も指摘されるが、山本監督は「僕も現役時代はそうだったが、大舞台での勝負を臨む選手は非常に多い。(代表に)選ばれたいという選手はたくさんいる」と心配していない。短期決戦だけに目指すスタイルは「1点も取られない投手力中心のチーム」。山本監督は代表選考の基準として「経験」を重視する意向を示し、「今年の成績も大事だが、トータルでみる。ベテランが多くなるかもわからない」と明かした。11月のキューバ戦での代表はWBCの候補メンバーをベースにしつつも、「若い選手はたとえ1、2試合でも経験することが大事」と将来を担う若手も加える。

「連覇は難しい。3連覇はさらに難しい」
 加藤コミッショナーはそう漏らす。第1回、第2回の連覇で国内は大いに盛り上がり、これまで以上に負けられないプレッシャーがチームにのしかかる。しかし、「勝利に向かって戦っていくのが侍ジャパン」と指揮官は言い切った。
「選ばれるのは素晴らしい選手ばかり。こちらがコーチングをすることは何もない。ゲームに対して気持ちがひとつになれるかだけ。戦いに向かう前の準備が大事」
 代表監督としての役割を山本監督はそう考えている。コミッショナー中心に新生・侍ジャパンを日本球界が一丸となって支え、監督が言葉通り、チームをひとつにまとめられるか。本番まで時間が限られている中でリーダーの手腕が問われる戦いになる。

 なお、会見前には侍ジャパンの新ユニホームも発表された。新たに侍ジャパンのダイヤモンドチームパートナーとなった株式会社ミズノが前回大会に続いて製作。色は従来用いられていたホーム用の白とビジター用の藍を踏襲しつつ、肩から脇にかけては「つなぎ模様」をアレンジしたラインを組み入れた。ラインには甲冑をイメージした金色がアクセントで入っている。機能的にも動きやすさを追求し、軽量化が図られている。
(写真:ビジター用の「JAPAN」のロゴは一新された)

 侍ジャパンのコーチ陣、スタッフのコメントは以下の通り。

投手総合コーチ 東尾修
「浩二さんが監督になられ、信頼されて指名されたことを光栄に思う。久しぶりのユニホームでもあり、刺激を持って臨みたい」
野手総合コーチ 梨田昌孝
「少しでも監督、チームをサポートし、みんなで協力して世界一を続けて取りたい」
投手コーチ 与田剛
「選んでいただき光栄に思う。精一杯チームの力になれるよう頑張りたい」
打撃コーチ 立浪和義
「選りすぐられた選手たちが集まると思うので、自分にできることは、選手の持っている力を存分に発揮できるように、いい状態でゲームに送り出して挙げることだと思う」
内野守備走塁コーチ 高代延博
「回を重ねるたびに、勝つことが難しくなってくると思うが、何とか期待に応えられるようチームに貢献したい」
外野守備走塁コーチ 緒方耕一
「日本代表という重責に身の引き締まる思い。前回同様、全力で務めさせていただく」

侍ジャパン特別顧問 王貞治
「野球の素晴らしさを日本の皆さんはもちろん世界中に感じていただくためにも侍ジャパンは頑張らなくてはいけない。常に山本監督のそばにいてお役に立てればと思う」
侍ジャパンシニアアドバイザー 原辰徳
「前回、指揮を執った経験が、侍たちにとって何がしかの力になるのであれば、恩返しをするのは一野球人として当然の務め。夢の3連覇実現のため、あらゆる協力を惜しまない」

(石田洋之)