元日本代表キャプテンの宮本恒靖がJ3に参戦しているガンバ大阪U-23の監督に就任した。一昨年はU-13コーチ、昨年はユースチームの監督を務めており、指導者として着々とステップアップしている。ここで「結果」を残すことができればトップチーム監督の座も見えてくるに違いない。

 

 U-23チームの「結果」とは、若い選手の能力をいかに引き上げてトップチームで通用する選手を育てていくことができるか。しかしながら勝負ごとである以上、成績を無視するわけにもいかない。昨年は16チーム中9位。上位進出できるかどうかは、青年監督の手腕に懸かっている。

 

 彼が指導者の道に進むとは正直、思わなかった。

 

 宮本は2011年シーズンをもって34歳で現役を引退すると、世界のスポーツ機関を支える人材育成を目的とするスポーツマネジメント専攻の大学院「FIFAマスター」に入学。イギリス、イタリア、スイスで歴史、経営、法律を学び、卒業してからも日本サッカー協会の国際委員、Jリーグの特任理事に加え、FIFAテクニカルスタディグループの一員としてブラジルW杯を視察などと、世界と日本のサッカーをつなぐキャリアを歩んできた。併行して指導者ライセンスの取得にも励んでいたとはいえ、活躍の場をFIFAや日本サッカー協会などスポーツマネジメント業に移していくものだと勝手に思い込んでいた。

 

 だが彼は現場を選んだ。

 

 育成年代の指導に関する興味がきっかけの1つに違いなかった。FIFAマスターでスイスに留学した際、欧州流の指導に感じたことがあったようだ。卒業した後、宮本はこのように語っていた。

「スイスで見た育成年代のチームは、ある程度自由にプレーさせていました。ちょっと大袈裟に言うならコーチと選手が対等に近い関係。指導者は上からばかりモノを言うのではなく、子供たちの自由な発想を消さないアプローチを大切にしていました。この年代にとって何が一番大事なのかを考えさせられましたね」

 

 自由な発想を消さないアプローチ。U-13コーチに就任してからも彼が大切にしてきたことだ。

「問題があったシーンに対して、『どう思ってこのプレーを選択した?』と、まずは子供たちの考えを聞くようにしています。僕が気付かなかったアイデアを持っている場合だってありますから。やるべきプレー、僕が思う正解を伝えるにしても押し付けであってはならないし、子供たちが持っている考え方自体を大切にしたい。『こういう選択視もあるんじゃないか』と投げ掛けて、考えさせるよう意識しています」

 

 U-13コーチ、ユース監督を経て「指導者として試行錯誤の毎日」はいまだに続いているのかもしれない。だが彼が信念を持って取り組み、クラブもその姿勢に対して評価していることは十分にうかがえる。

 

 G大阪U-23の2020年東京五輪代表世代言えばMF堂安律をはじめ、DF初瀬亮、MF市丸瑞希、FW高木彰人、DF野田裕貴らとタレントが揃っている。

 

 東京五輪に臨む新体制は2018年1月に発足する予定だという。監督候補には5大会ぶりにU-20W杯本大会出場を決めた内山篤監督の他、ガンバ大阪の長谷川健太監督、サンフレッチェ広島の森保一監督の名が挙がっているとみられる。

 

 実績はないとはいえ、堂安たち若い才能を伸ばしながらJ3を戦う宮本監督の評価が上がってくれば、ネームバリューやスター性を考えても急浮上する可能性がないとは言い切れない。

 

 宮本恒靖監督の采配に、要注目である。


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