25日、都内のホテルでNPB(日本プロ野球機構)の「新人選択会議」(ドラフト)が行なわれた。昨年、巨人への思いを貫き大学に留年した菅野智之(東海大)は巨人が単独指名。春夏連覇を達成し、甲子園を沸かせた藤浪晋太郎(大阪桐蔭高)は地元の阪神が、大学No.1投手の東浜巨(亜細亜大)は福岡ソフトバンクが、競合の末に交渉権を獲得。そして宣言通り北海道日本ハムが、既にメジャーリーグ行きを表明している大谷翔平(花巻東高)を1位指名した。
「北海道日本ハム 大谷翔平 投手 花巻東高校」
 静まり返っていた会場が、大きくざわめいた。その中で栗山英樹監督は口を真一文字に結び、厳しい表情を崩さない。
「(進路を決めるのに)どれだけ苦労したかわかるので、本当に申し訳ないという気持ちがある」

 インタビューで栗山監督は開口一番にそう言って、既にメジャーリーグに行く決意を表明した大谷への思いを次のように語った。
「うちの選手たちと一緒に野球をやることが、必ず大谷君のプラスになると信じて指名した。話を聞いてもらえるチャンスをもらったと思っている。来てもらうということではなく、まずは我々の思いを聞いてもらうことから精一杯やっていきたい。明日(26日)から(日本)シリーズ練習があるが、できるだけ早く、何度でも花巻に足を運ぶ」

 これに対して、大谷は「指名をしてくれて、評価してもらったことはありがたい」としながらも、「気持ちは変わらない」という言葉を何度も口にし、海を渡ることを決心した気持ちにブレがないことを強調した。果たして、日本ハムは18歳右腕を振り向かせることができるのか。交渉の期間は3月31日までだ。

 最多の4球団が競合したのは、春夏連続で甲子園優勝投手に輝いた藤浪だ。オリックス、千葉ロッテ、阪神、東京ヤクルトが1位指名し、クジの結果、交渉権を獲得したのは過去12連敗中の阪神だ。重責を背負ってクジを引いた和田豊監督は満面の笑みを浮かべ、少し興奮気味に喜びを語った。

「(クジを)左手で下から取ることは決めていた。でも、当たるとは思っていなかった(笑)。これも藤浪君の運。甲子園のマウンドが似合うということ。チームは低迷しているが、新しいチームをつくり上げていくので、その一員として頑張って欲しい」
「12球団OK」と語っていた藤浪も、大阪府堺市出身で大阪桐蔭高だけに、地元球団の交渉権獲得に思わず笑みがこぼれた。197センチの長身右腕が、甲子園に戻る日もそう遠くはない。

 藤浪を外したヤクルトは最速146キロの直球と豊富な変化球をもつ182センチ長身本格派右腕、石山泰稚(ヤマハ)、ロッテは最速150キロを誇る即戦力サウスポーの松永昴大(大阪ガス)、そして松永をも外したオリックスは最速149キロの直球を軸に、緩急をつけた巧みなピッチングに定評のある松葉貴大(大阪体育大)を指名した。

 昨日の青山学院大学戦でリーグ奪三振記録を塗り替えたばかりの東浜を1位指名したのは、横浜DeNA、ソフトバンク、埼玉西武の3球団。クジの入っているボックスの前には、中畑清監督(DeNA)、王貞治球団会長、渡辺久信監督(西武)と錚々たるメンバーが並ぶと、会場に緊張感が走った。

 東浜は沖縄尚学高校時代にはセンバツ優勝し、一躍ドラフト候補となったものの、プロ志望届は出さずに亜大へ進学。入学直後から主力として活躍し、4年間で着実に力をつけてきた。その東浜が満を持して臨んだ今年のドラフト。「大学No.1投手」との交渉権を獲得したのはソフトバンクだった。

「久しぶりにドキドキしていた。とにかく即戦力として十分に10勝以上期待できるし、評価は1位だったので、彼を指名することは簡単だった。問題はクジ。何チームくるかだったが、3チームだったのが運が良かった」
 王会長はそう言って、安堵の表情を浮かべた。

 東浜を外した西武は最速152キロの直球を武器に、先発も抑えもできる即戦力右腕の増田達至(NTT西日本)を、DeNAは今春に打率3割9分5厘をマークし、首位打者を獲得した強肩強打の白崎浩之(駒沢大)を指名した。

 1年の歳月を経て、“相思相愛”を実らせたのは、菅野だ。ドラフト前には「巨人以外なら米国に行く」という報道もあり、改めて巨人への強い思いを示していた菅野。他球団からの強行指名があるか否かが注目されたが、指名したのは巨人のみ。2年越しに“一本釣り”を成功させた巨人・原辰徳監督は「本人も苦しい1年だったと思う。しかし、結果として遠回りではなかった」と、監督として、そして伯父として、喜びを露わにした。

 巨人同様、“一本釣り”を成功させたのは中日だ。予定通り、地元の愛知県出身で最速155キロを誇る福谷浩司(慶応大)を指名した。横須賀高時代からスカウトの目に留まるほどの逸材で、大学2年秋には斎藤佑樹、大石達也、野村祐輔という錚々たる投手陣を抑え、ベストナインに輝いた。3年春には防御率0.59で最優秀防御率を獲得している。また、理工学部に在籍し、ピッチングフォームを画像解析するという異色の存在でもある。

 一方、昨年の野村祐輔に続いての“1本釣り”に失敗したのは、広島だ。将来性のある高校生左腕・森雄大(東福岡高)を予定通り1位に指名すると、そこにライバルが登場。闘将・星野仙一監督率いる東北楽天だ。交渉権獲得のクジを引き当てたのは、8月に就任したばかりの楽天・立花陽三球団社長。立花球団社長の力強いガッツポーズに、席上から見守っていた星野監督も満面の笑みを浮かべた。目論見が外れた広島は外れ1位に増田を指名。しかし、ここでも東浜の外れ1位に指名した西武との競合に敗れる。ここで投手から野手へと転換し、高校通算43本塁打を誇る高橋大樹(龍谷大平安高)を指名した。

<交渉権獲得決定選手>

巨人
【1位】
 菅野智之(東海大・投手)
【2位】
 大累進(道都大・内野手)
【3位】
 辻東倫(菰野高・内野手)
【4位】
 公文克彦(大阪ガス・投手)
【5位】
 坂口真規(東海大・内野手)
【育成1位】
 田原啓吾(横浜高・投手)
【育成2位】
 松冨倫(別府大・内野手)

北海道日本ハム
【1位】
 大谷翔平(花巻東高・投手)
【2位】
 森本龍弥(高岡第一高・内野手)
【3位】
 鍵谷陽平(中央大・投手)
【4位】
 宇佐美塁大(広島工高・内野手)
【5位】
 新垣勇人(東芝・投手)
【6位】
 屋宜照悟(JX-ENEOS・投手)
【7位】
 河野秀数(新日鉄広畑・投手)

中日
【1位】
 福谷浩司(・投手)
【2位】
 濱田達郎(愛工大名電高・投手)
【3位】
 古本武尊(龍谷大・外野手)
【4位】
 杉山翔大(早稲田大・内野手)
【5位】
 溝脇隼人(九州学院高・内野手)
【6位】
 井上公志(シティライト岡山・投手)
【7位】
 若松駿太(祐誠高・投手)

埼玉西武
【1位】
 増田達至(NTT西日本・投手)※東浜の外れ指名
【2位】
 相内誠(千葉国際高・投手)
【3位】
 金子侑司(立命館大・内野手)
【4位】
 高橋朋己(西濃運輸・投手)
【5位】
 佐藤勇(光南高・投手)
【育成1位】
 水口大地(四国IL香川・内野手)

東京ヤクルト
【1位】
 石山泰稚(ヤマハ・投手)※藤浪の外れ指名
【2位】
 小川泰弘(創価大・投手)
【3位】
 田川賢吾(高知中央高・投手)
【4位】
 江村将也(ワイテック・投手)
【5位】
 星野雄大(四国IL香川・捕手)
【6位】
 谷内亮太(国学院大・内野手)
【7位】
 大場達也(日立製作所・投手)

福岡ソフトバンク
【1位】
 東浜巨(亜細亜大・投手)
【2位】
 伊藤祐介(東北学院大・投手)
【3位】
 高田知季(亜細亜大・内野手)
【4位】
 真砂勇介(西城陽高・外野手)
【5位】
 笠原大芽(福岡工大城東高・投手)
【6位】
 山中浩史(Honda熊本・投手)
【育成1位】
 八木健史(BC群馬・捕手)
【育成2位】
 大滝勇佑(地球環境高・外野手)
【育成3位】
 飯田優也(東京農業大北海道オホーツク・投手)
【育成4位】
 宮崎駿(三菱中京大・外野手)

広島
【1位】
 高橋大樹(龍谷大平安高・外野手)※森、増田の外れ指名
【2位】
 鈴木誠也(二松学舎大付高・投手)
【3位】
 上本崇司(明治大・内野手)
【4位】
 下水流昴(Honda・外野手)
【5位】
 美間優槻(鳴門渦潮高・投手)
【育成1位】
 辻空(岐阜城北高・投手)
【育成2位】
 森下宗(愛知工業大・外野手)

東北楽天
【1位】
 森雄大(東福岡高・投手)
【2位】
 則本昴大(三重中京大・投手)
【3位】
 大塚尚仁(九州学院高・投手)
【4位】
 下妻貴寛(酒田南高・捕手)
【5位】
 島井寛仁(熊本ゴールデンラークス・外野手)
【6位】
 柿澤貴裕(神村学園高・投手)
【育成1位】
 宮川将(大阪体育大・投手)

阪神
【1位】
 藤浪晋太郎(大阪桐蔭高・投手)
【2位】
 北條史也(光星学院高・内野手)
【3位】
 田面巧二郎(JFE東日本・投手)
【4位】
 小豆畑眞也(西濃運輸・捕手)
【5位】
 金田和之(大阪学院大・投手)
【6位】
 緒方凌介(東洋大・外野手)

千葉ロッテ
【1位】
 松永昴大(大阪ガス・投手)※藤浪の外れ指名
【2位】
 川満寛弥(九州共立大・投手)
【3位】
 田村龍弘(光星学院高・捕手)
【4位】
 加藤翔平(上武大・外野手)

横浜DeNA
【1位】
 白崎浩之(駒沢大・内野手)※東浜の外れ指名
【2位】
 三嶋一輝(法政大・投手)
【3位】
 井納翔一(NTT東日本・投手)
【4位】
 赤堀大智(セガサミー・外野手)
【5位】
 安部建輝(NTT西日本・投手)
【6位】
 宮崎敏郎(セガサミー・内野手)
【育成1位】
 今井金太(広島国際学院高・投手)

オリックス
【1位】
 松葉貴大(大阪体育大・投手)※藤浪、松永の外れ指名
【2位】
 佐藤峻一(道都大・投手)
【3位】
 伏見寅威(東海大・捕手)
【4位】
 武田健吾(自由ヶ丘高・外野手)
【5位】
 森本将大(BC福井・投手)
【6位】
 戸田亮(JR東日本・投手)
【育成1位】
 原大輝(BC信濃・捕手)
【育成2位】
 西川拓喜(BC福井・外野手)