いよいよ2012年のプロ野球のフィナーレが近づいてきた。27日、東京ドームで日本シリーズが開幕する。今季の対戦カードは3年前と同じ巨人と北海道日本ハムだ。クライマックスシリーズファイナルステージでは3連敗からの崖っぷちから這い上がってきた巨人に対し、日本ハムは無傷の3連勝と波に乗っている。一方、過去2度の日本シリーズでの両軍の対戦は、いずれも4勝2敗で巨人に軍配が上がっている。果たして、3度目の頂上決戦は――。
流れを引き寄せる中継ぎ陣の踏ん張り

 日本シリーズ進出をかけて行なわれた福岡ソフトバンクとのファイナルステージ、日本ハムは投打ともに安定感を発揮し、怒涛の3連勝を果たした。とはいえ、3試合ともに3点差以内のロースコアでの接戦。一つのプレーやミスで、試合をひっくり返される恐れは常にあったはずだ。勝因に挙げられるのは、チャンスを確実にモノにした打線と鉄壁の守り、そして何よりも投手力であろう。先発、中継ぎ、抑えがそれぞれ自分たちの役割をしっかりとこなした故の結果だった。

 なかでも日本ハムの安定した投手力を支えているのは、先発から抑えにつなぐリリーバーたちの存在だ。ファイナルステージを振り返ってみたい。第1戦では7回表に先発の吉川光夫がソフトバンクに2点を先制されたが、その裏に日本ハムは糸井嘉男の2ラン、代打・二岡智宏のタイムリーですぐに逆転している。しかし1点差だけに、この時点ではまだ試合の行方はわからなかった。

 やや傾きかけた試合の流れを引き寄せたのは、8回表だ。この回、マウンドに上がったセットアッパー増井浩俊は2死から連打を浴びたものの、ファーストステージから好調だった内川聖一を内野ゴロに仕留め、無失点で切り抜けている。もし、ここで同点に追いつかれていれば、その後の結果はわからなかった。さらに言えば、2戦目以降、増井への起用は不安視され、レギュラーシーズンで築き上げてきた信頼関係が崩れた可能性もあった。

 第2戦では先発の武田勝が6回を散発3安打無失点の快投を披露した。その後、7回を石井裕也、8回を増井でつなぎ、武田久へと完封リレーを展開。まさに投打ががっちりとかみ合った日本ハムらしい勝利となった。一方、ソフトバンクは1点差を追う7回裏、2死二塁の場面で絶対的な信頼を寄せていたセットアッパーの森福允彦が糸井に2ランを浴びた。日本ハムにとっては貴重な、そしてソフトバンクにとってあまりにも痛い2点となり、日本ハムが連勝を収めたのだ。

 そして迎えた第3戦、この試合で大きな仕事をやり遂げたのが石井だ。4−0と日本ハムリードで迎えた7回表、先発のブライアン・ウルフがウィリー・モー・ペーニャに一発を浴びた。ここで栗山英樹監督は迷うことなく石井をマウンドに上げた。迎えるバッターはこの試合、負ければ引退となる小久保裕紀。主将で主戦の彼は、まさにソフトバンクの大黒柱であった。その小久保が追い上げムードになりつつあったこの場面で、ヒットを放てば、それが打線の口火を切ることになる可能性は決して小さくはなかったはずだ。

 その小久保を、石井はショートフライに打ち取った。そして、続く多村仁志を空振り三振に切ってとり、出かかった反撃の芽をつんだのだ。その後、8回表に3連投の増井が1失点を喫している。もし石井が7回に追加点を奪われていれば、それこそ点差は1点あるいは同点になっていた可能性があった。そう考えれば、石井の力投は、非常に大きな意味を持っていた。

 翻ってソフトバンクはというと、先発の摂津正が初回にまさかの3失点。その後は2番手・藤岡好明が5回まで無失点の好投を見せたが、もう1点もやれない6回裏、3番手の吉川輝明が無死からいきなり中田翔、稲葉篤紀と連打を浴び、ピンチを招いた。この試合を落とせば、ファイナルステージ敗退が決まる大事な一戦と考えれば、終盤での逆転を信じ、森福を投入してもいい場面だった。だが前日の森福は同じような場面で一発を浴びていただけに、指揮官は出したくても出すことができなかったのだろう。秋山幸二監督は吉川をそのまま続投させた。その結果、ダメ押しとなる1点が日本ハムに入り、試合の主導権を握ったのだ。

 3試合を通して言えることは、ファイナルステージの結果は、中継ぎの出来に大きく左右されたということだ。日本ハムの栗山監督は、日本シリーズでも戦い方を変えてくることはしないだろう。先発が最少失点に抑えて試合をつくり、打線がチャンスを確実にモノにする。そして、最後は継投で逃げ切る――これが日本ハムの勝ちパターンだ。

 しかし、1、2点リードで終盤に入った場合、強力な巨人打線にはそれをひっくり返すポテンシャルは十分にある。そのため、いかに中継ぎが巨人打線を勢いづけることなくリードを守って、守護神につなぐことができるかが、日本ハムにとって重要なカギとなる。

待ち望まれる阿部の完全復活

 セ・リーグ初の最終戦にまでもつれこんだファイナルステージを制した巨人。3連敗後に3連勝し、打線の調子も徐々に上向いてはいたが、果たしてその勢いはホンモノなのか。日本シリーズではそれが問われることになる。カギを握るのは、やはり打線だろう。その理由のひとつには、投手陣に不安要素が存在するからだ。抑えの西村健太朗である。今回のCS初登板となった第2戦、2−4と2点ビハインドの場面で9回表にマウンドに上がった西村は、1死からトニ・ブランコ、平田良介と連打を浴びると、森野将彦には四球を出し、続く谷繁元信の犠牲フライで1失点。2点差なら逆転もあり得るとの考えで起用したはずの守護神が、逆に点差を広げてしまったのだ。

 そして第3戦はまさしく不安が的中した。4−4で延長に入り、10回表に原辰徳監督は西村をマウンドに上げた。ところが、西村は代打・堂上剛裕に決勝打を打たれ、負け投手となったのだ。この敗戦で、巨人はもう1敗もできないところまで追い込まれてしまった。第4、6戦はセーブを挙げたものの、いずれも先頭打者をヒットで出し、ベンチやファンを不安視させた。特に最終戦は先頭の代打・堂上直倫にいきなり二塁打を浴び、2死後には大島洋平にタイムリーを打たれて2点差に迫られた。結果的には“胴上げ投手”となった西村だが、ファイナルステージでは4試合に登板し、8安打3失点。どの試合も3人で終わらせてはおらず、必ずピンチを招いている。

 こうした西村の調子を考えれば、巨人としては終盤までにできるだけ点差を広げておきたい。だからこそ、打線がカギなのだ。なかでも、やはりキーマンは主将で4番の阿部慎之助だろう。レギュラーシーズンに見せた圧倒的な勢いは、阿部を軸にして戦ってきたからこそのものである。ファイナルステージでも、ベンチやスタンドが最も盛り上がるのは阿部が打った時だ。逆に阿部以外の選手が活躍して勝ちにつなげても、阿部が浮かない顔をしていれば、チームの盛り上がりはイマイチであろう。周囲に与える影響が大きいからこそ、大黒柱の存在は重要なのだ。

 その阿部だが、ファイナルステージでは勢いをつけるどころか、打線のブレーキになる場面も少なくなかった。初戦では初回、1死一、二塁と先制のチャンスの場面で内野ゴロに倒れた。中日の先発、2年目の大野雄大はCS初登板の緊張からか、先頭の長野久義を四球で出し、坂本勇人にヒットを打たれており、明らかに不安定だった。ここで巨人が先制していれば、大野を早いうちにKOできた可能性は大きかった。第2戦には第3打席でようやく初ヒット放ったものの、得点に結びついてはいない。逆に3番の坂本が無死からヒットを放った第1、4打席には空振り三振をし、ここでもチャンスの芽をつぶした。巨人が崖っぷちに立たされた第3戦は5打数1安打に終わっている。

 ようやく4番としての役割を果たしたのが、第4戦だ。この試合では4打数2安打2打点と活躍。なかでも第2打席はチームにとっても大きかった。0−0で迎えた3回裏、坂本のタイムリーで先制した巨人は、なおも2死二塁。ここで阿部にもタイムリーが出て、巨人は貴重な追加点を挙げた。これで試合の流れは完全に巨人へと傾いた。澤村拓一が6回まで7安打ながら無失点と力投し、その後は中日に1点を返されたものの、3−1で逃げ切った。怒涛の3連勝はここから始まったのだ。

 日本シリーズでは、第1、2戦は東京ドームで行なわれる。ホームで阿部が本領を発揮すれば、巨人が勢いに乗ることは間違いない。加えて第1、2戦はともにエースを立ててくることが予想されるだけに、ここでの敗戦は両者にとって痛いはずだ。そういう意味でも、ファイナルステージを教訓にし、日本シリーズではスタートダッシュをしたい。

 今季の交流戦での対戦成績は2勝2敗の五分。しかも4試合中、2試合が1点差、1試合が2点差と、まさにがっぷり四つの戦いだった。それだけに、日本シリーズでも激戦が繰り広げられることが予想される。リーグ覇者同士、真の頂上決戦は27日に火ぶたが切って落とされる。