ここ数年、「サッカーはコミュニケーション・スポーツである」との思いを強くしている。
 野球であれば、それまで所属していたチームで残した成績は、かなりの確率で新天地でも通用する。勝てる投手は勝ち、打てる打者は打つ。所属しているチームは変わろうとも、選手個人が持っている能力は変わらないからである。
 だが、サッカーの場合は、点を取りまくっていたストライカーが、移籍を機にさっぱりになってしまう、といったことが当り前のように起こりえる。メッシでさえ、アルゼンチン代表では輝けない時期が長く続いてきた。サッカーは、周囲によって個人が変わってしまうスポーツなのである。

 それだけに、自分は何をしたいのかを伝え、周囲は自分に何を期待しているのかを感じとる能力は、サッカー選手にとって必須といっていい。

 つまりは、コミュニケーション能力である。

 実を言えば、以前のわたしはこの能力をさして重要視はしていなかった。環境が変わると輝けなくなってしまう選手は、単にサッカーの才能が不足しているから――そんなふうに考えていた。

「おや?」と思うようになったのは、JFLの試合を多く見るようになってからである。
 目下のところ、J2の下に位置するこのリーグは、J昇格を狙うチームとそうでないチームが同居する形になっている。だが、昇格のために元Jリーガーを集めたチームのほとんどは、Jを目指さないチームを順位で上回ることができず、昇格規定に救われる形でJ2に上がって行った。立ちはだかったのは、アマチュアで構成された企業チームである。

 そのうちの一つが、SAGAWA SHIGAだった。

 率直に言って、わたしは彼らのサッカーから感銘を受けたことはない。確かに強い。安定もしている。けれども、そんなこと以上に驚かされたのは、選手たちの社会性の高さだった。会場ですれ違う見も知らずのスタッフに、彼らはきちんと頭を下げる。わたしのような他のチームの人間(FC琉球スーパーバイザー)に対しても、積極的にコミュニケートしようとする。Jリーガーの社会性のなさに辟易することもあった人間にとって、SAGAWA SHIGAの選手たちの「きちんとした社会人ぶり」は大いに新鮮だった。

 そして、おそらくはそうした社会性の高さこそが、彼らの強さの理由だった。個々の技量で勝っても、意思疎通がスムーズでないチームは勝てない――SAGAWA SHIGAは、そのことをわたしに教えてくれた。今年限りでの活動停止は、残念の一言に尽きる。

<この原稿は12年10月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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