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(写真:鈴木<左>、鍋島らクイーンズ駅伝を制した日本郵政グループは3名が参加)

 日本陸上競技連盟は19日から3日間、都内のナショナルトレーニングセンターで女子長距離合宿を実施した。リオデジャネイロ五輪代表の鈴木亜由子(日本郵政グループ)、上原美幸(第一生命)ら実業団14名に加えて学生5名が参加。最終日の21日は、約10kmのポイント練習を公開した。

 

「スピード強化」をテーマに掲げた今回の合宿。2日目には2000mのタイムトライアルを行い、強度のあるトレーニングを実施した。血液検査、骨密度や乳酸値を測るなど科学的なアプローチも用いた。集められた各実業団の女子トップランナンナーたちにとってもいい刺激となったようだ。

 

 これまではオリンピック、世界選手権前に代表選手を集めて合宿を行うことはあった。だが、短期間ではあるものの、この時期にそしてこれだけ広くメンバーを集めて実施するのは珍しいという。

 

 日本陸連の野口英盛女子長距離オリンピック強化コーチは、東京五輪に向けて今後も定期的に合宿を行う意向を示した。3月下旬にはアメリカでの合宿も実施する予定だ。

 

 強化部として8月の世界選手権(イギリス・ロンドン)では1万mはトップ10、5000mは複数の決勝進出者を出すことが目標だ。それをステップに東京五輪では入賞を目指す。

 

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(写真:選手たちに意識付けを図る野口強化コーチ<中央左>)

 野口強化コーチによれば、合宿中のミーティングでは選手たちにこう意識付けしたという。

「東京オリンピックまでに日本記録を作ろう」

 

 トラック長距離の主な日本記録は5000mが福士加代子(ワコール)の14分53秒22、1万mが渋井陽子(三井住友海上)の30分48秒89。いずれも現役ランナーによるものだが、記録自体は10年以上前に更新されてから止まっているのが現状である。野口強化コーチも合宿は選手・スタッフへの意識改革が狙いにあると認める。

 

 入社1年目で日本郵政グループの全日本実業団女子駅伝(クイーンズ駅伝)初制覇に貢献した鍋島莉奈は「目指していたものではありましたが、より色濃くなりました」と語った。リオを経験した上原は1万mで6月の日本選手権優勝、渋井の記録更新に意欲を燃やす。「改めて日本記録を目指していくモチベーションが高まるいい合宿になりました」と手応えを口にした。

 

 女子の長距離種目は一部種目が新たに設けた派遣設定記録Sを世界選手権の選考要項に加えなかった。これについて野口強化コーチは「クリアできる目標にしたかった」と、世界大会入賞圏内の記録はハードルが高過ぎるという判断があった。

 

 長距離種目は短距離種目やフィールド種目と違い日本選手権までのレースを複数回チャレンジできるわけではない。選手たちには5000mは15分10秒、1万mは31分10秒と、派遣設定記録Aを上回る目標を伝えたという。

 

 北京での15年世界選手権、リオデジャネイロ五輪と直近の世界大会では入賞者は出せていない。まずは派遣設定A、日本記録と目標を上方修正しながらロンドン、東京へと向かう。

 

 好調・日本郵政、代表候補の新星現る

 

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(写真:2泊3日の短期合宿を敢行。陸トレ以外にも勉強会やミーティングなども開催した)

 今回の合宿で最多3名が参加した日本郵政グループ。リオ五輪には鈴木と関根花観が出場し、創部3年目でクイーンズ駅伝を制するなど勢いに乗っている。好調のチームで頭角を現してきているのが23歳の鍋島だ。ルーキーイヤーはクイーンズ駅伝で5区区間賞。最優秀選手賞も獲得した。その1週間後の記録会でも5000mで自己ベストをマークした。

 

 彼女を指導する髙橋昌彦監督が「馬力のある走りをします。勝負勘もありますし、十分代表に届くような可能性のある選手だと思います」と期待を寄せる逸材だ。鹿屋体育大学時代もトラックや駅伝で結果を残していが、昨年は春先のケガに泣いた。6月からようやく本格的に練習を積めるようになり、そこから冬の飛躍に繋がった。

 

 鍋島にとって日本陸連主催の合宿参加は初である。本来であれば世界大会の代表でなければ、合同で練習することはない。間口を広げて選手を集め、若手がトップ選手の実力や調整法を肌で感じられる絶好の機会である。「ライバルになるような選手たちと走るのは初めてですし、鈴木や関根が行っていた場所に自分も入れたことが励みになっていると思います」と髙橋監督。鍋島本人もこの合宿で刺激を受けたようだった。

 

「スピードを生かした5000mで勝負していきたい」

 今後は3月下旬のアメリカ合宿を経て、カージナル招待で5000mに出場する予定だ。まずは派遣設定記録(15分4秒94)突破を目指す。6月の日本選手権では5000mにエントリー。そこからのロンドン行きをにらんでいる。鈴木、関根に続く日本郵政の新星が、代表入りを狙う。

 

(文・写真/杉浦泰介)