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(写真:会見で意気込みを語るキルケリー監督<中央>)

 日本が過去最多41個のメダルを獲得したリオデジャネイロ五輪。28競技で唯一、男女共に日本代表の出場がなかったのが、ハンドボールだった。熱狂の蚊帳の外に置かれる屈辱を味わった。自国開催を控える中で、日本はヨーロッパから新たな指揮官を招聘した。

 

「変わらなきゃ笑われてしまいますよ」。そう苦笑を浮かべたのは日本ハンドボール協会の田口隆強化本部長だ。「2020年東京五輪には自動的に出場できますが、このままでいたら、誰にも相手をされなくなってしまう危機感があります」

 五輪だけで言えば、男子は1988年ソウル大会、女子は76年モントリオール大会以来、出場から遠ざかっている。だからこそ実績のある外国人監督を呼んだのだ。

 

 男子はダグル・シグルドソン(アイスランド)、女子はウルリック・キルケリー(デンマーク)。シグルドソンはドイツ代表を率いて、リオ五輪で銅メダル獲得に導いた。キルケリーはデンマーク代表のコーチとして13年の世界選手権3位に貢献した実績を持つ。

 

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(写真:練習中も積極的に選手たちへ声をかける)

 先に公式戦初陣に臨んだのは女子日本代表(おりひめジャパン)だ。13日からスタートしたアジア選手権(韓国)で準優勝。決勝で韓国に敗れたものの、上位3カ国までに与えられる世界選手権(12月、ドイツ)の出場権を手にした。まずは第一関門を突破したというとことだろう。19年は熊本での世界選手権、20年は東京五輪と自国開催のビッグゲームを見据える上でも、ひとつステップを刻んだと言っていい。

 

 おりひめジャパンのキルケリー監督は昨年6月に就任。過去にバーレーン、サウジアラビアのコーチを経験するなど、アジアへの造詣も深い。3月2日の記者会見では「変わること、勝つことに対するハングリー精神が大切」と語り、「私はチームが良い時も悪い時も一緒に戦える、一緒に強くなれるメンバーを選びたい」とコメントしていた。「経験が足りないということは理解している。これから積み上げていきたい」。まだ、おりひめジャパンが発展途上であることも強調した。

 

 キルケリー監督と日本ハンドボール協会はともに「育成」をキーワードに掲げている。トップだけでなくユースやジュニアなど下の世代の強化も今後の計画に盛り込んでいる。この点はキルケリー監督はデンマーク代表でも育成部門にいたこともあり、適任のはずだ。また田口強化本部長が「現在のデンマーク代表監督よりも彼の方が評判は高い」というキルケリー監督が持つ世界へのネットワークにも注視したい。日本ハンドボールとしても強化の拠点を国内のみならず世界に広げたい思惑がある。

 

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(写真:「日本は若くて才能にあふれるチーム」と、キルケリー監督も成長に期待を寄せる)

「将来的にはヨーロッパのレベルに近付ける」

 そのためにキルケリー監督は選手に強さを求めている。フィジカルトレーニングを増やし、身体的な強化はもちろんのことメンタル面の強化にも力を入れるという。「ハングリー精神とファイトを見せることが大事」と指揮官は口にする。田口強化本部長によれば、キルケリー監督は「1ウェイではなくて2ウェイができる指導者」だ。厳しさを持ち合わせつつ、選手の自立心を養わせる側面がある。

 

 キルケリー監督は現在デンマークのクラブチームを指揮しており、おりひめジャパンの専任になるのは7月からである。これからの日本ハンドボールについて「スタイルを申し上げるのは難しい」と明言しなかった。東京五輪での目標を問われても、威勢の良い言葉は出てこなかったことからも極めてリアリストな人物であると思われる。

 

「これまではできない理由を考えてしまっていた。これからはメダルを獲りに行く、成長するために何をすべきかを探していく姿勢に変える」と田口強化本部長。日本ハンドボールは変革へ明確に舵を切った。女子はリアリストのデンマーク人を船頭に置き、新たな航海へと飛び出した。

 

(文・写真/杉浦泰介)