来春のWBCに出場する日本代表の候補選手は28日のスタッフ会議で33名に絞り込まれる見込みだ。その中から28名が予備登録メンバーとして12月1日までに大会主催者に提出される。イチローやダルビッシュ有をはじめ、メジャーリーガーが相次いで辞退を表明した中、国内組のみでどんなチーム編成を行うのか。舵取りを任された山本浩二監督にとって最初の難関が待ち構えている。3連覇へ向けて濃霧の中の船出となった新生・侍ジャパンを二宮清純が取材した。
(写真:メジャー組の不在は痛いが、山本監督は「いい意味で開き直ってやるしかない」と語る)
 星野仙一しかり、田淵幸一しかり、衣笠祥雄しかり。山本浩二は“戦友”を大切にする男である。
「もしワシが(代表監督に)なったら、投手コーチを引き受けてくれんか」
 東尾修の携帯電話に山本から連絡が入ったのは、9月上旬のことだった。

「浩二さん、肩透かしくらうんじゃないの?」
 絶妙な“いなし”を見せた東尾だが、腹の中は違った。
「そりゃ、うれしかったですよ。僕も現場を離れて時間が経つので“やってやろう”と燃えるものがありました。
 浩二さんとは彼が広島の監督時代から“おい、これについてはどうや?”とピッチャーに関する質問を受けていた。今回も“ピッチャーに関しては任せる”と。もちろん、僕もそのつもりですよ」

 投手総合コーチに就任した東尾が今、一番頭を悩ませているのがクローザー問題である。
「これは、という抑えがいないでしょう?」
 確かにその通り。今季の日本人の最多セーブ投手はセ・リーグが岩瀬仁紀(中日)で33セーブ、パ・リーグは武田久(北海道日本ハム)で32セーブ。例年に比べると低調だった。

 そこで浮上してきたのが、マー君こと田中将大(東北楽天)のクローザー転向案である。ダルビッシュと黒田が参加しない現状で、日本で最も球威のあるボールが投げられるピッチャーはマー君である。ここぞと言う時の集中力は鬼気迫るものがある。初めて代表に選出された北京五輪や、前回のWBCでもリリーフとして起用されており、経験上も問題はない。

 これについて指揮官は、どう考えているのか。
「いろいろな選択肢があるやろうね。田中のリリーフも、そのひとつ。どこかで適性を見ておかんといかんとは思うとる」

 頭痛のタネはクローザーだけではない。打線の軸である4番候補も中村剛也(埼玉西武)、中田翔(日本ハム)の故障により、見直しを迫られている。代表入り待望論もある松井秀喜(前レイズ)も長いブランクが気になる。「中心なき組織は機能しない」とは野村克也の口ぐせだが、打線の中心である4番問題は来春までに解決するのか。

「現時点で一番(4番に)近いのは巨人の阿部慎之助やろうね。今年の阿部は心技体が充実し切っている。今は足をケガしているようだが、来年の春までには治るやろう。また、治ってもらわんと困るけどな。
 チームの軸ということに関しては、ベテランにも期待しとる。たとえば稲葉(篤紀、日本ハム)あたりはリーダーシップの取れる選手として、現場からの評価も高い。五輪とWBCにも両方出とるから、その経験をいかしてもらいたいな」
(写真:阿部は「日本にいる選手だけで“これだけできる”というのをみせるチャンス」と意気込む)

 指揮官は一度、ここで言葉を切り、自らの経験を踏まえての抱負を改めて口にした。
「残念ながら北京五輪ではメダルを獲れなかった。あの時の反省として、選手のコンデョションを重視すべきやったという思いがある。シーズン中ということもあり、主力選手に故障者が続出した。新井(貴浩)、稲葉、川崎、西岡(剛)……。
 どんなに監督やコーチが尻を叩いたところで、結局、やるのは選手なんよ。選んだ選手が働きやすい環境をつくるのがワシらの仕事。要するにベンチとグラウンドが一体にならんことには勝負には勝てん。当たり前のことかもしらんが、皆の気持ちがひとつになるようなチームをつくりたいと思うとる」

 大器晩成と呼ばれた男の一世一代の大勝負。日の丸を背負う大いなる喜びと忍び寄る不安。
「野球人として、こんな幸せなことはないぞ」
 66歳は自らに言い聞かせるように語気を強めた。

<この原稿は『週刊現代』11月24日号に掲載された内容を抜粋したものです>
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