「6回で2点なら万々歳だと思っていたの。この回まで巨人の6対2。7回、8回の2回は中継ぎがしのぎ、9回をクローザーが締めれば、4人のピッチャーに勲章がつく。ひとりが勝利投手、ふたりがホールド、最後のひとりがセーブと。ところが、7回まで引っ張って打たれた。試合は6対3で勝ったけど、やはりあそこは6回で変えておくべきだったね」

 

 こう話したのは「継投の名手」として知られる権藤博である。第4回WBCでは侍ジャパンの投手コーチを務めた。

 

 権藤が俎上にあげたのは4月2日、東京ドームでの巨人対中日戦だ。巨人の先発・大竹寛は6回を5安打2失点に抑え、先発の役割を果たした。6回裏に巨人が4点をとり、ほぼ勝利投手の権利を手中におさめていた。

 

 7回表、セットアッパー投入かと思いきや、高橋由伸監督は大竹をそのままマウンドに送った。ところがいきなり平田良介にホームランを打たれ6対3。続く遠藤一星にもヒットを許したところでマウンドを降りた。

 

 権藤は語る。「先発投手にとってランナーを残してマウンドを降りるというのは屈辱なんです。恥をかかせるようなもの。プライドを傷つけることなくマウンドを降ろしてやらなければならない。僕は常にこのことを考えていましたよ」

 

 カープの試合でも似たような場面があった。5日、敵地での中日戦。先発のサウスポー床田寛樹は6回までを2点に抑える素晴らしいデビュー。スコアは2対2。ところが緒方孝市監督は7回もマウンドに上げ、1点を失った。9回表に追いついていなければ、好投のルーキーに黒星をつけさせるところだった。

 

 権藤は言った。「継投は夕立の傘と一緒。雲行きが怪しくなったら早くさすこと。ちょっとでも遅れたらズブ濡れですよ」。けだし名言である。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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