NPB12球団のキャンプが一斉に始まり、今年も野球シーズンが幕を開けた。四国アイランドリーグPlusでも新チームが動き始めている。昨季は高知出身の角中勝也(千葉ロッテ)が大ブレイク。独立リーグ出身者では初のタイトル(首位打者)に輝くとともに、3月のWBCの日本代表候補にも選出された。今季は昨年のドラフトで入団した2選手を含む、リーグ出身の19名が角中に続けとばかり、新たな1年のスタートを切っている。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちの今を追いかけた。
 1軍で5勝以上&日本一へ貢献を――岸敬祐 

 2013年最初の朗報は自宅のポストに封書で届いた。
「封を開けると球団からで、キャンプの案内が書かれていたんですけど日程が1軍のものだったんです」
 半信半疑で翌日、ジャイアンツ球場に行くと、キャンプの1軍メンバーに自分の名前が入っていた。3年目にして、初の1軍スタート。左腕は気持ちの高ぶりを抑えきれないでいた。

 昨季は飛躍の1年だった。中継ぎから先発に転向すると、ローテーション入りを果たし、安定した投球をみせる。そして7月、ついに念願の支配下選手登録を勝ちとった。背番号は「017」から「90」へ。あのミスタージャイアンツ、長嶋茂雄終身名誉監督が引退直後に指揮を執っていた時代に背負っていた番号である。

 支配下になってからも好投を続け、終わってみれば2軍で23試合に登板して8勝5敗の成績を残した。防御率2.36はイースタンリーグトップ。オフには表彰も受けた。「去年は去年。今年は関係ありません」と本人は至って謙虚だが、着実にステップアップしている姿が認められたことは明らかだ。

 1年間、コンスタントに結果を残せた理由はどこにあるのか。岸は持ち味である制球力に磨きをかけたことに加え、心のコントロールができるようになったからだと考えている。“精神安定剤”は日記だった。昨年からつけ始め、自宅で1日の出来事を振り返りながら、その時の心境を綴っていった。

「今になって読み返すと(支配下登録の期限が近づいた)6、7月は字が雑になっていました。その時は感じませんでしたが、やはり焦りはあったのかなと思います」
 それでも心の揺らぎがピッチングに大きな影響を及ぼさなかったのは日記があったからだ。日々、気持ちを言葉にすることで、自らの中で整理をしながら翌日を迎えられた。
「書いていると、“あ、今はメンタルの部分が崩れているな”と分かるようになってきたんです」
 人間は心の生き物である。どんなに肉体を鍛え、テクニックを極めても、メンタルが不安定では成功は続かない。ボールだけでなく気持ちの“制球力”が増したことがレベルアップにつながった。

 そして、長いイニングを投げる中で自分の性格もよく理解できた。
「先発だからといって“6回3失点でいいや”とペース配分するとダメなタイプだと分かりました。最初のバッターから全力で向かっていって、ひとつずつアウトを重ねていかないと結果が出ない。それは先発でも中継ぎでも同じだと思いました」
 まずは目の前のバッターに最大限、集中する。欲張らず、丁寧にアウトカウントを増やしていく。その繰り返しが1試合を終えての白星につながり、1年を終えての好成績につながる。先発を繰り返しながら、岸は一層、1球1球を重視するようになった。
 
 昨秋はクライマックスシリーズに向けて調整する1軍メンバーに交じって、紅白戦出場の機会も与えられた。先発を任され、3回を2安打1失点。1軍で1度も登板がないピッチャーとしては充分、評価できるものだった。
「1度だけですから、それで抑えたから良かったとは言えませんけど、自分のピッチングが半分以上は出せました。より相手を研究して投げていけば、もっと抑えられるようになるのかなという手ごたえは得られましたね」

 次なる目標はもちろん1軍で活躍することだ。ストレートの球速は130キロ台、驚くような変化球があるわけではない。海千山千のバッターを封じるための唯一にして最大の武器は投球術である。幸い、プロの世界には巧みなピッチングで勝ち星を積み重ねている左腕がいる。東京ヤクルトの石川雅規や北海道日本ハムの武田勝は、まさにお手本と言える存在だ。岸はそういったピッチャーたちの映像を食い入るように見つめ、ヒントをつかもうとしている。

 研究を重ねていくうちに、ひとつ発見したことがあった。それが緩急をつけるボールの重要性だ。「実際に1軍で結果を出しているピッチャーはチェンジアップをうまく使っている」と、昨季途中からはチェンジアップに挑戦している。これまでも岸は右バッター対策として、外へ逃げながら落ちるスクリューやフォークをモノにしようと励んできた。現在、追い求めているチェンジアップでは、それらをさらにスピードを落としたかたちで、変化させたいと考えている。

 独立リーグが日本に誕生して今年は9年目だ。これまでNPB入りした選手から昨季の首位打者・角中や、内村賢介(横浜DeNA)など野手ではレギュラークラスが出てきている。ただ、ピッチャーで完全に1軍定着した選手はまだ現われていない。岸の場合、関西独立リーグ、アイランドリーグと2つのリーグを渡り歩いてきた。それだけに「独立リーグは僕の原点。NPBに入った僕たちが頑張らないと独立リーグが盛り上がらない」との使命感は人一倍強い。

 今回の1軍キャンプ参加で、「雑草左腕」「山口2世」と周囲の注目度は高まってきた。だからと言って、それが成功を保証するものでは全くない。真の戦いはこれからだ。26歳という年齢を考えれば、この機会にアピールできなければ、若手に活躍の場所を奪われてしまうかもしれない。
「1軍メンバーに選ばれただけで満足してはいけないし、彼はそういう選手ではないと思います。角中みたいにブレイクしてスターになってほしいですね。彼のような叩き上げの選手が頑張れば、チームにとっても大きなプラスになりますから」
 2軍を統括する大森剛育成部ディレクターはそう期待を寄せている。

 当然、本人も絶好のチャンスを逃すつもりはない。1軍で投げられるなら、先発でも中継ぎでもワンポイントリリーフでもこなす覚悟だ。
「テレビで日本一の瞬間を見て、改めてあの舞台で日本一に貢献したいなと思いました。勝利に貢献できる仕事ができるなら、こだわりはないです」
 2軍で先発も中継ぎも経験したことは、ひとつの強みだろう。左腕で、かつ自滅するタイプではないだけに、うまく1軍に生き残れば貴重な戦力となるはずだ。

「開幕1軍は最低限の目標です。初勝利、そして5勝以上を目指していきたい」
 2013年の目標を訊ねると、即座に力強い言葉が返ってきた。次なる朗報は、自らの左腕で東京ドームから全国に届ける。


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(石田洋之)