サンフレッチェ広島は昨季、悲願のJ1リーグ年間優勝を達成した。監督としてチームを頂点に導いたのが、クラブOBでもある森保一である。元日本Jリーガーの優勝監督は、史上初だった。Jリーグ創設から参加しているオリジナル10のなかで広島は唯一、三大タイトルと縁がなかった。44歳の青年監督はいかにしてチームを飛躍させたのか。森保と20年来の親交がある二宮清純が訊いた。
(写真:今季は史上4クラブ目のリーグ連覇に挑む)
二宮: 森保監督の前任であるミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現浦和監督)は、攻撃的なサッカーを志向していました。監督は、そこにうまく守備の意識を植え付けたように映りました。
森保: 攻撃は僕がペトロヴィッチさんの下でコーチしていた時も、いい部分が広島にはあると思っていました。10年、11年とアルビレックス新潟でコーチをしていて広島と対戦した時も、「やはり攻撃はいいところがある」と感じました。そして、僕が監督になることになって、「自分のどういう部分をチームに落とし込んでいったらいいのかな」と考えると、やはり守備的なところからアプローチしたほうがいいんじゃないかなと。結果は良かったとは思いますけど、やりながら怖かったですよ。

二宮: 怖いというのは?
森保: 周りの人はいいバランスになったと思ったかもしれません。でも、攻撃的なチームに守備のエッセンスを加えるとか、逆に守備的なチームに攻撃のエッセンスを加えていくのは言葉では簡単ですが、難しい。それをやっていくと、攻撃か守備かに偏ってしまうところがあるんです。ウチは攻撃的な組織に守備を付け加えたので、攻撃のいい部分まで崩れてしまわないかという恐怖心がありました。

二宮: 確かに、サッカーは攻守のバランスがいちばん大事ですからね。昨季の広島は継続するところと改革するところが非常にいい塩梅でした。やはり自分の今までの現役時代の経験、ボランチだった経験を生かして守りの意識を選手に植え付けていったと?
森保: 効率よく守るというところですね。攻撃から守備になった時に誰がどこのポジションにつくとか、どういうかたちで守るとか。そういうところから相手のボールにアプローチしていけば、ボールを奪った時の守備から攻撃への移行がスムーズにいく。無駄な体力ロスもなくなって、さらに攻撃のいい部分が出せると思っていました。

二宮: 以前お話しした時は最初の一歩目がすごく大事だとおっしゃっていましたね。
森保: 相手のボール保持者に対してのファースト・ディフェンダーですね。11人のなかのひとり目がうまくアプローチできないと、あとの10人がどうポジションをとっていいか決まってこないんです。

二宮: 守備における約束事を決めたわけですね。その成果は、はっきり数字にも表れました。
森保: そうですね。11年は失点49だったんですけど、昨季は34です。ひとりひとりの粘り強さが非常に出ましたし、守備の連係もよくなかったと思いますね。

<2月20日発売の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2013年3月5日号)に森保一監督のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>