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(写真:「感謝の気持ちすべてがこみ上げてきた」とコートにうずくまった)

 31日、バドミントンの日本ランキングサーキット大会各種目決勝がさいたま市記念総合体育館で行われた。男子シングルスは桃田賢斗(NTT東日本)が上田拓馬(日本ユニシス)を2ー1で下した。違法賭博行為による無期限試合出場停止処分から復帰した桃田は今大会が1年2カ月ぶりの実戦だった。1ゲーム目は21-13で取った桃田だが、2ゲーム目は14-21で落とす。ファイナルゲームは一進一退の攻防の末、21-19で制した。

 

 こみ上げる感情を我慢し切れず、コートにヒザをついたまま立ち上がれなかった。桃田は相手が打ち返したシャトルを見送り、優勝が決まった瞬間、ガッツポーズを作ったばかりだった。約1時間半まで及んだ熱戦に精根尽き果てたというわけではないはずだ。立ち上がってユニフォームで顔を拭ったのは、汗だけではない。

 

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(写真:大会には連日、多くの報道陣が詰め掛けた)

 桃田は昨年4月に違法カジノ店で賭博行為が発覚し、日本バドミントン協会から無期限試合出場停止を科されていた。処分は今月15日に解除され、今大会が昨年4月のマレーシアオープン以来の復帰戦だった。多くの報道陣が会場には詰め掛け、彼の一挙手一投足に注目が集まった。一方の桃田は感謝や恩返しの想いを胸にプレーした。

 

 27日に開幕した日本ランキングサーキット大会。男女混合の国・地域別団体対抗戦スディルマンカップに出場しているナショナルチームのメンバーはいないが、それ以外のナショナルメンバーや元日本代表が出てくる。決してレベルの低い大会ではない。それでもかつては日本のエースにまで上り詰めた男だ。ブランクも何のその1回戦から準決勝までストレートで勝ち進んだ。

 

 決勝の相手はナショナルチームA代表の上田である。2014年には桃田と共に国・地域別男子団体対抗戦トマスカップ優勝に貢献した。強烈なスマッシュを武器とする実力者だ。第1ゲームは桃田が「自分らしい積極的なプレーができた」が支配した。巧みなラケットワークで上田を翻弄し、キレのあるスマッシュをコートに叩き込む。上田が「何もできずに終わってしまった」と振り返るように、桃田が圧倒していたように見えた。このゲームは桃田が21-13で先取した。

 

 だが上田にも意地がある。「このまま簡単に負けるの嫌だった」。力強いスマッシュを決めて、上田が1点を先取して第2ゲームをスタートさせた。「上田選手がスピードが上げてきて、ショットに迷いが出てきた」と桃田。返球がネットに阻まれる場面が目立つ。長いラリーの末に放ったスマッシュもアウト。桃田は14-21で第2ゲームを上田に取られた。

 

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(写真:1プレー1プレーに執念のようなものを感じさせた)

 迎えたファイナルゲーム。実戦復帰後初の3ゲーム目である。序盤は上田が5連続得点を挙げるなど、最大3点のリードを奪った。桃田は粘りのバドミントンで相手のショットを根気強く拾い続けた。8-10から3連続ポイントで逆転した。約1分のインターバルが明けてもシーソーゲームは続く。

 

 11-12の場面で桃田のスマッシュがアウトのコール。桃田はチャレンジを申請した。映像検証の結果、インに判定は覆った。チャレンジ成功で同点となった。実は桃田、直前の場面でもスマッシュをコートわずか右に外していた。狙ったコースはほぼ同じである。「相手が勢いに乗りそうな場面。あそこで逃げて、違うコースに打っていたらそのまま流れは持っていかれた。強い気持ちで“もう1回、そこに打とう”と」。強気の姿勢を貫き、相手に主導権を譲らなかった。

 

 ところが16-14から4連続得点を許し、16-18と劣勢に追い込まれた。ファイナルゲームは「自分が何を打ってもすごくいい返球をしてきた。(相手の)ネットインも多かった」と、桃田にとって流れが良いとは言えなかった。それでも心までは折れない。上田のスマッシュを飛びついて拾ったものの、相手にチャンスボールが渡ってしまった。

 

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(写真:死闘を繰り広げた両者に試合後大きな拍手が送られた)

 大ピンチを迎えた桃田に追い風が吹いた。ネット際に詰めた上田が痛恨のミスショット。17-18で流れは桃田へと一気に傾く。ここからさらに3点を加えて、マッチポイント獲得。1点を返されはしたが、最後は上田のショットがコートをオーバーし、桃田が熱戦を制した。「1回戦から身体がガチガチで疲労も溜まった状態での連戦だった。最後は強い気持ちが相手選手より少し上回った」

 

 試合終了後、桃田がすぐに立ち上がれなかったのは「すべての感謝がこみ上げてきた」からだ。「何度もあった」という苦しい時期を乗り越えて掴んだ勝利は感慨もひとしおだった。立ち上がって涙を拭くと、今大会から続けている四方に深々と一礼をして、コートから出る際にも頭を下げた。

 

 1年2カ月の謹慎期間、ランニングやウエイトトレーニングなどフィジカル強化に努めた。視察に訪れていた日本代表のパク・ジュボンヘッドコーチ(HC)は「フィジカル面では準備ができていた。昨年と同じくらいかな」と評価。対戦相手の上田は「前よりも動きが切れていた。スピードも上がっていた印象」と語った。

 

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(写真:完全復活とは言えないまでも、高いテクニックを披露した)

 それでも「まだまだ」と桃田は満足していない。決勝を振り返り、「相手の調子を上げさせてしまうような消極的なプレーしまう場面が多々ありました。そういった場面でも押し返せるような強さを身につけないといけない」と口にした。得意のネットプレーで上田に押される場面も見受けられた。パクHCは「今日は緊張感からか硬かった」と見ている。指揮官が「世界トップレベル」と称える桃田のテクニック。今後は実戦経験を積むことで、錆を落とす作業になるだろう。

 

 一時はBWF(国際バドミントン連盟)世界ランキング2位までになった桃田。現在は圏外である。7月のカナダオープン、USオープンにエントリー。世界ランキングで出場が優遇されるため、桃田が大会に出られるかはまだ決まっていないが、自力でランキングを上げていく他ない。ナショナルチーム入りも、現実的には11月の全日本総合選手権大会終了後になると見られる。

 

 3年後の東京五輪を目指すにしても越えなければならないハードルは少なくない。だが今回の優勝は次へのステップに向けて弾みにはなったはずだ。「目標はまだまだ先にある。気を引き締めていきたい」。まずはひとつずつ。帰ってきた“スーパーマン”が再び世界へと挑む。

 

(文・写真/杉浦泰介)