3月2日、Jリーグの2013シーズンが開幕した。昨季は2位から10位までは勝ち点10差の間にひしめく混戦だった。今季はそんな“戦国Jリーグ”で、サンフレッチェ広島が史上4クラブ目の連覇を達成できるかが最大の焦点だ。チームのキーマンは昨季のリーグMVP&得点王のFW佐藤寿人。フィジカル面でもテクニック面でもずば抜けたものを持っていないストライカーが、ゴールを量産できる理由を二宮清純が訊いた。
二宮: 元イタリア代表FWのフィリッポ・インザーキが好きだとお聞きしました。
佐藤: ユベントスでプレーしていた時から好きですね。決してうまくはないですけど、点を取る。点を取る部分ではどのストライカーよりも秀でています。そこまで速くもないし、ヘディングも強くないのに、ヨーロッパの厳しい舞台で点をあげている。ボールのないところの動き、いわゆるオフ・ザ・ボールの動きが秀でているからだろうなと思います。

二宮: そういう意味では佐藤さんと共通している点が多い。佐藤さん自身が点を獲る上で一番大事にしていることは?
佐藤: 一番に危険なところを探すことですね。相手にとって、「ここに入って来られたらイヤだろうな」というところへ、自分がどう入っていくか。逆にそこに入るために相手を動かすことも必要です。
 あとは試合によって、相手がどういう特徴を持っていて、ウィークポイントはどこなのかもある程度、把握しておかなくてはいけません。相手のストロングポイントで勝負しないように。つまり、シュートを打つ段階では勝負は決めておきたいんです。最終的には、自分のシュートひとつでゴールか決まるか決まらないか。もしシュートが決まらない場合は、すべて自分の問題だというところまで持っていきたいんです。そうすれば、もし決まらなくても修正して次はゴールにつなげることができる。

二宮: そのために「iPad mini」でご自身のゴールシーンを繰り返しチェックするわけですね。具体的にどんなところを見るんですか?
佐藤: 相手がどこでボールを獲りたいか、どこをやられたくないか。相手側に立って考えるという部分もありますね。映像はサポーターがゴール裏から撮ってくれていて、ボールと自分がどういう動きをしているかが一度に見えるんです。また、ゴール決めた時の自分のイメージと違うことがあるので、それを映像で見ることで確認できます。

二宮: 使えるものは積極的に活用しているわけですね。ただ、ゴールを奪うためには自分以外の動きを注意するだけでなく、味方との呼吸を合わせることも重要です。
佐藤: そうですね。自分のイメージと味方、特にボール保持者、パサーのイメージが共有できないと、なかなかシュートシーンには至らない。シュートイメージをともに描けるように、トレーニングですり合わせていく作業が大事になります。

二宮: 今後も成功を積み重ねていくためには何が大事だとお考えですか?
佐藤: 向上心を持ち続けるかどうかだと思うんです。ゴン(中山雅史)さんが興味深いことを言っていました。「うまい選手は損をしている」「どこか足りない選手のほうが補おうとして努力ができる」「すべてにおいて能力が高いと現状に満足しがちだ」と。まさに僕は若い頃から、そういう気持ちでサッカーをしてきました。自分よりうまい選手、体の大きい選手はたくさんいます。そういう選手以上に結果を残すには、常に自分を客観視して、自分がどういう選手なのか、結果を出してプレーするにはどうしていかなくてはいけないのかを考える。自分の場合は、チームメイトとコミュニケーションをとって、いい関係を築けるかが生命線。自分のことをしっかりチームメイトに知ってもらう。また僕がチームメイトのことを知る作業が他の人以上に大切だと思います。

<3月20日発売の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2013年4月5日号)に佐藤寿人選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>