11日、世界選手権バルセロナ大会の代表選考を兼ねた第89回競泳日本選手権が開幕した。男子400メートル個人メドレー決勝では、ロンドン五輪同種目の銅メダリスト・萩野公介(東洋大)が自らの日本記録を更新する4分7秒61で連覇を達成した。2位に入った瀬戸大也(JSS毛呂山)は派遣標準記録を突破し、世界選手権代表に内定した。同100メートル平泳ぎでは、北島康介(アクエリアス)が連覇も派遣記録に届かず、世界選手権への切符獲得はならなかった。女子100メートル平泳ぎは、ロンドン五輪銅メダリストの鈴木聡美(ミキハウスY)が1分7秒43で渡部香生子(JSS立石)に競り勝ち、その実力を見せつけた。
 萩野、圧勝でまず1冠

 他を寄せ付けない圧勝だった。
 昨夏のロンドン五輪400メートル個人メドレーで銅メダルを獲得した萩野。4分7秒61のタイムで優勝し、自らの日本記録を1分33秒更新したが、「目標は6秒台だったので悔しい」と唇を噛んだ。

 レースは序盤から飛ばした。苦手のバタフライで、ライバルの瀬戸に食らいつき、0秒53差で得意の背泳ぎにつないだ。背泳ぎで一気に加速し、先頭に立つとそこからは一人旅だった。折り返し地点で1分57秒31のハイペース。平泳ぎでも伸びのある泳ぎを見せたが、「ラストの自由形で苦しくなった」と、最後は伸びを欠いた。それでも2位に5秒以上の差をつけ、6種目にエントリーした今大会、まず1冠を達成した。

 2位の瀬戸は得意のバタフライで大きなリードを作れず、苦手の背泳ぎですぐに萩野につかまった。中盤までは瀬戸も日本記録ペースだったが、後半力尽きた。今大会までワールドカップ、世界短水路選手権など国際大会で結果を出していたが、同い年のライバルに力の差を見せつけられた。ただ4分12秒70のタイムは派遣標準記録?を突破し、世界選手権代表の座は掴んだ。この雪辱はバルセロナの地で果たすしかない。

 北島、不満の連覇

「このタイムで優勝できるとは思ってなかった」
 日本競泳界の第一人者・北島は、優勝にも不満を露わにした。1分0秒78のタイムには「この記録では強いと言えない」と厳しかった。ただ、ロンドン五輪後の本格始動は1月下旬。本人も「スタートが遅かったので、不安だった」と調整期間は短かった。それでも優勝をしてしまうところが彼の非凡さゆえだろう。復帰した“チーム平井”では2位に入った山口観弘(東洋大)とともに練習をしており、「彼と一緒に泳ぐのは楽しみ」と12歳下のライバルに日々刺激を受けている。

 一方の山口は「さすがですね」と勝者に舌を巻いた。200メートルの世界記録保持者だけに、周囲の期待は大きかった。しかし、北島に0秒03差の惜敗。世代交代の鐘の音を鳴らすことはできなかった。「後半勝負で最後差し切れなかったのは悔しい」とレースを振り返った。憧れでもある北島との直接対決はこの種目のみ。「日本選手権で(北島)康介さんに勝つのがひとつの夢だった。もう1回レースをやり直したい」とおどけたが、内心は歯がゆい思いがあるはず。3日後の200メートルでは世界最速の泳ぎを見せて欲しいところだ。

 女王が冷や汗の勝利

 女子100メートル平泳ぎは、昨年の女王が「ぎりぎりでしたね」と振り返る接戦だった。
 同種目の銅メダリストの鈴木は、16歳の渡部との競り合い、0秒04の僅差で勝利した。出だしの25メートルは渡部にリードを許したが、すぐに抜き去り前半は0秒42の差をつけた。後半は渡部に迫られるがなんとか逃げ切り、この種目の実質4連覇(11年は大会が中止となり、代表選考会として行なわれた)を達成した。

 大会初日を終え、派遣標準記録を超えたのは、萩野と瀬戸の2人だけ。女子100メートル平泳ぎの鈴木は、記録を下回るも規定(ロンドン五輪個人種目のメダリストは出場すれば内定)により世界選手権切符を手にした。標準記録の設定が世界ランキング16位に相当するタイムとなっているとはいえ、7種目中1種目は寂しい数字である。残り3日間で、トビウオジャパンとしての巻き返しに期待したい。

 主な結果は次の通り。

<男子50メートルバタフライ・決勝>
1位 高安亮(コナミ) 24秒00 ※派遣標準記録に届かず
2位 安江雄輔(日本大) 24秒13

<男子100メートル自由形・決勝>
1位 塩浦慎理(中央大) 48秒78 ※派遣標準記録に届かず
2位 伊藤健太(ミキハウス) 49秒23

<男子100メートル平泳ぎ・決勝>
1位 北島康介(アクエリアス) 1分0秒78 ※派遣標準記録に届かず
2位 山口観弘(東洋大) 1分0秒81

<男子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 萩野公介(東洋大)4分7秒61 ※日本新記録
2位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 4分12秒70

<女子50メートルバタフライ・決勝>
1位 加藤ゆか(東京SC) 26秒47 ※派遣標準記録に届かず
2位 吾郷みさき(イトマン) 26秒89

<女子100メートル平泳ぎ・決勝>
1位 鈴木聡美(ミキハウスY) 1分7秒43
2位 渡部香生子(JSS立石) 1分7秒47 ※派遣標準記録に届かず

<女子400メートル自由形・決勝>
1位 五十嵐千尋(横浜サクラ) 4分10秒67 ※派遣標準記録に届かず
2位 地田麻未(東京SC) 4分12秒46

※選手名の太字は世界選手権代表に内定

(杉浦泰介)