12日、世界選手権バルセロナ大会の代表選考を兼ねた第89回競泳日本選手権2日目が行なわれ、前日に400メートル個人メドレーを制した萩野公介(東洋大)が100メートル背泳ぎ、200メートル自由形でも優勝した。100メートル背泳ぎではロンドン五輪銅メダリストの入江陵介(イトマン東進)に、200メートル自由形では前年度覇者の松田丈志(コスモス薬品)に勝利。いずれも派遣標準記録を突破し、3つ目の世界選手権切符を獲得した。女子100メートル背泳ぎでは、ロンドン五輪銅メダリストの寺川綾(ミズノ)が58秒84の好記録で大会4度目の優勝を成し遂げた。同400メートル個人メドレーは、同種目のロンドン五輪代表の大塚美優(日本体育大)が連覇。4分37秒53で派遣標準記録をクリアし、世界選手権代表に内定した。また北島康介(アクエリアス)は男子50メートル平泳ぎに出場したが、28秒05で5位に終わった。
 最強の18歳、王者を連破

 ここまでの主役は、間違いなく萩野公介だろう。
 前日の400メートル個人メドレーに続き、この日は200メートル自由形、100メートル背泳ぎで優勝し、3冠を達成した。

 先に行なわれた200メートル自由形は、松田丈志に勝利した。松田の本職はバタフライとはいえ、前年度のチャンピオン。決して容易い相手ではない。“チーム平井”の同門対決は、「尊敬する先輩と練習をしていて、その効果が出た」と語った萩野が制した。

 前半50メートルでは、日本記録を0秒24上回るペースで泳ぐ先頭の小堀勇氣(セントラルスポーツ)を追いかけ、0秒07差の2位。後半つかまえると、ラストスパートで頭ひとつ抜け出した。1分46秒28は派遣標準記録を上回るタイムで、2つ目の優勝をあげた。

 続く100メートル背泳ぎは、得意種目だが、同種目にはロンドン五輪で銅メダルを獲得している入江陵介が立ちはだかった。ゴール後に雄叫びをあげたことからも、第一人者からの勝利に喜びもひとしおだったのだろう。

 レースは50メートルのターンまでは2位につけ、ラストの直線で先頭に立った。終盤に「めちゃくちゃ怖かった」と、入江の猛追を受けるも、なんとか逃げ切った。自己ベストを更新する53秒10は派遣標準記録もクリア。この日、出場した2種目は、いずれも前年度王者を下しての価値ある優勝だ。さらに世界選手権へ3種目の代表に内定した。「ひとつひとつの種目を強化していくことがメドレーにもつながる」と、ハードな日程にも萩野は力強く語った。

 前日の400メートル個人メドレーで4分7秒61の日本新を叩き出したものの、目標していた6分台に届かず、不満気だった。この日は対照的に「いいレースができて、ホッとしています」と安堵の表情を見せた。残り2日間で、200メートル個人メドレー、400メートル自由形、200メートル背泳ぎの3種目に出場する。最強の18歳は、前人未到の6冠に向けて、ひた進む。

 日本記録に100分の1秒届かず

「“もっと頑張れよ”ということだと思う」
 優勝の充実感と、あと一歩届かなかった記録更新への悔しさが混じった複雑な表情だった。

 ロンドン五輪100メートル背泳ぎで悲願の銅メダルを獲得した寺川綾。「積極的なレースを心がけた」と、序盤から飛ばして折り返しのターンでは自身の日本記録を上回っていた。前半突っ込んだ分、後半に響いた。最後はタッチの差、わずか0.01秒間に合わなかった。ゴール直後、会場からは大きなため息が漏れ、寺川も「私も同じ気持ちだった」と振り返った。

 ロンドン五輪後、一時は引退も考えたという寺川だが、国内外の大会で結果を残し、好調だった。日本選手権は4度目の優勝。それでも女王は上を見ている。「日本のトップになれたことはうれしい。ただ、日本のトップであり続けるだけではなく、世界のトップと戦って勝てるような選手になりたい」と語った。若手の台頭が目立つ今大会だが、ベテランが存在感を見せつけた。

 男子だけじゃない黄金世代

 萩野、山口観弘、瀬戸大也と同世代の台頭が目ざましい男子だが、女子競泳陣も負けていない。その代表格がロンドン五輪代表の大塚美優だ。18歳の大学1年生は、400メートル個人メドレーを制し、派遣標準記録を突破した。見事、バルセロナ行き決めた。

 バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎの300メートルで集団を引っ張り、リードを奪った。残り100メートルまでは田島寧子がシドニー五輪で出した日本記録を1分16秒上回るペースだったが、ラストは苦手の自由形。もう少し“貯金”が欲しかった。

 結局、日本記録が1分0秒98に対し、大塚は1分4秒61と4秒近く遅れた。最終的には1秒57及ばぬタイムでゴール。本人も「タイムは思ったようにいかなかった」と悔やんだ。高校生で優勝した昨年に続き、連覇を達成。しかし、大塚も満足する様子はない。「ここを通過点として、しっかりと夏(の世界選手権)を戦えるように頑張りたい」と前を向いた。

 主な結果は次の通り。

<男子50メートル平泳ぎ・決勝>
1位 崎本浩成(コナミ) 27秒58 ※派遣標準記録に届かず
2位 岡島佑樹(国士舘大) 27秒82

<男子100メートル背泳ぎ・決勝>
1位 萩野公介(東洋大) 53秒10
2位 入江陵介(イトマン東進) 53秒33

<男子200メートル自由形・決勝>
1位 萩野公介(東洋大) 1分46秒28
2位 松田丈志(コスモス薬品) 1分47秒12 ※派遣標準記録に届かず

<男子1500メートル自由形・決勝>
1位 平井彬嗣(柏洋・柏) 15分0秒66 ※派遣標準記録に届かず
2位 宮本陽輔(自体校) 15分5秒27

<女子50メートル平泳ぎ・決勝>
1位 鈴木聡美(ミキハウスY) 31秒57 ※派遣標準記録に届かず
2位 金藤理絵(Jaked) 32秒01

<女子100メートル背泳ぎ・決勝>
1位 寺川綾(ミズノ) 58秒84
2位 酒井志穂(ミキハウスY) 1分0秒99 ※派遣標準記録に届かず

<女子200メートル自由形・決勝>
1位 五十嵐千尋(横浜サクラ) 1分59秒50 ※派遣標準記録に届かず
2位 上田春佳(キッコーマン) 2分0秒43

<女子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 大塚美優(日本体育大) 4分37秒53
2位 高橋美帆(日体体育大) 4分40秒04 ※派遣標準記録に届かず

※選手名の太字は世界選手権代表に内定

(杉浦泰介)