13日、世界選手権バルセロナ大会の代表選考を兼ねた第89回競泳日本選手権3日目が行なわれ、萩野公介(東洋大)が400メートル自由形、200メートル個人メドレーを制し、大会3日間で5冠を達成した。日本選手権での1大会5冠は史上最多。400メートル自由形、200メートル個人メドレーのいずれも派遣標準記録を突破し、5種目目の世界選手権代表に内定した。また200メートル個人メドレーでは1分55秒74の日本新記録のおまけつきだった。同種目の2位に入った瀬戸大也(JSS毛呂山)は派遣標準記録をクリアし、400メートル個人メドレーに続く代表内定を決めた。200メートルバタフライは、小堀勇氣(セントラルスポーツ)が1分55秒51で派遣標準記録を突破し、世界選手権代表の切符を初めて獲得した。女子50メートル背泳ぎでは、寺川綾(ミズノ)が27秒51の日本記録で優勝。同200メートルバタフライは、ロンドン五輪同種目銅メダリストの星奈津美(スウィン大教)が連覇した。寺川、星はともに派遣標準記録を上回り、世界選手権代表に内定した。
“水の怪物”の証明

 恐るべき18歳、圧巻の5冠達成だった。
 萩野公介がこの日も400メートル自由形、200メートル個人メドレーを制覇した。

 400メートル自由形では、最初の50メートルをトップと0秒21差の2位で入ると、100から150メートルの間に抜け出した。伸びやかなストロークと得意のドルフィンキックで距離を重ねるごとに他との差を開いていき、3分45秒42で優勝。3月に出した自己ベストも1秒47更新した。

 きわめつけは200メートル個人メドレーだ。バタフライでは「体が動いている感じがした」と連戦の疲れも見せず、しっかり先頭についていった。背泳ぎで一気にトップへ立つと、後は独壇場だった。ラストの自由形に入った時点で、日本記録より1秒57早いペース。競り合う相手がいなくても、その勢いは衰えなかった。高桑健が4年前に出した1分57秒24を大きく更新する1分55秒74を叩き出し、日本新で今大会5つ目のタイトルを手にした。

 日本選手権の5冠は女子の萩原智子、男子では松田丈志が達成していた4冠を抜き、史上初の快挙だ。ここまで3日間で5種目10レースのハードな日程をこなすが、「しっかりと自分らしいレースができた」と自然体で臨めている。

 最終日は200メートル背泳ぎに出場。同種目にはロンドン五輪銀メダリストの入江陵介もエントリーしている。100メートルでは萩野が優勝を果たしており、その雪辱を狙っているはずだ。“水の怪物”の異名を持つマイケル・フェルプス(アメリカ)とも比較される最強の18歳がどんなかたちで今大会をしめくくるのか、明日も目が離せない。

 10代の躍進

 10代の活躍は、今大会の主役・萩野だけにとどまらない。同い年のライバル・瀬戸大也は200メートル個人メドレーで萩野に敗れたものの、派遣標準記録を突破する1分58秒66で世界選手権代表に内定した。この日は200メートルバタフライでも2位に入り、派遣標準記録をクリアした。しかし、同種目はロンドン五輪銅メダリストの松田が出場すれば世界選手権切符を与える規定のため、バタフライでは瀬戸は惜しくも出場権を逃した。

 それでもここまで4種目中3種目で派遣標準記録を突破し、2種目での世界選手権への切符を獲得している。萩野の影に隠れてはいるが、明日の200メートル平泳ぎでは、ロンドンの銅メダリスト・立石諒(ミキハウス)、同学年の世界記録保持者・山口観弘(東洋大)に挑む。

 その200メートルバタフライで優勝したのも19歳の小堀勇氣。200メートル自由形では萩野に敗れており、その鬱憤を晴らす思いも強かったのだろう。1分55秒51のタイムで派遣標準記録を突破し、初優勝。タイムへの不満は口にしたが、「ここまで来れたのは周囲のおかげ」と鈴木陽二コーチや家族に感謝の気持ちを表した。

 一方で、この種目の大本命だった松田は1分56秒26の3位に終わり、小堀と瀬戸の後塵を拝した。長年連れ添ってきた久世由美子コーチから離れ、“チーム平井”入りしたが、「これが今の実力」と肩を落とした。

 女子も10代が躍進した。800メートル自由形を19歳の地田麻末が制し、200メートル個人メドレーでは16歳の渡部香生子が優勝。渡部は「競っていたのはわかっていたので、“絶対勝つ”という気持ちだった」と自己ベストを更新した。ロンドン五輪では平泳ぎで出場、久しぶりの個人メドレーに「とても楽しめた」と、明日の200メートル平泳ぎに弾みをつけた。

 第一人者の意地

 若手の台頭が目立つ今大会だが、女子の第一人者たちも負けていない。50メートル背泳ぎでは、寺川綾が自らの持つ日本記録を0秒20更新する27秒51で前日の100メートルに続く背泳ぎ2冠を達成した。100メートルでは、日本記録までわずか100分の1秒届かなかった。この日は「すごくいいスタートが切れた」と出足もよく納得の様子だった。「夏につながるレースができた」と、見据える先はバルセロナ。背泳ぎの女王は2種目で世界と戦う。

 200メートルバタフライでは、星奈津美がロンドン五輪銅メダリストの意地を見せた。2位に3分半以上の差をつける圧勝。規定により世界選手権代表は内定していたが、2分6秒12は派遣標準記録を上回っていた。昨年に続く連覇に「またひとつ自信になった」と胸を張った。

 100メートル自由形は、ロンドン五輪同種目代表の上田春佳が若手の内田美希(東洋大)を振り切っての優勝。55秒29は派遣標準記録には届かなかったが、実質の6連覇(11年は中止、代表選考会というかたちで開催)を果たした。

 主な結果は次の通り。

<男子50メートル背泳ぎ・決勝>
1位 古賀淳也(第一三共) 25秒12 ※派遣標準記録に届かず
2位 入江陵介(イトマン東進) 25秒24

<男子200メートルバタフライ・決勝>
1位 小堀元氣(セントラルスポーツ) 1分55秒51
2位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 1分55秒59
3位 松田丈志(コスモス薬品) 1分56秒26

<男子200メートル個人メドレー・決勝>
1位 萩野公介(東洋大) 1分55秒74 ※日本新記録
2位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 1分58秒66

<男子400メートル自由形・決勝>
1位 萩野公介(東洋大) 3分45秒42
2位 山本耕平(鹿屋体育大) 3分50秒37 ※派遣標準記録に届かず

<女子50メートル背泳ぎ・決勝>
1位 寺川綾(ミズノ) 27秒51 ※日本新記録
2位 諸貫瑛美(筑波大) 28秒71 ※派遣標準記録に届かず

<女子100メートル自由形・決勝>
1位 上田春佳(キッコーマン) 55秒29 ※派遣標準記録に届かず
2位 内田美希(東洋大) 55分43

<女子200メートルバタフライ・決勝>
1位 星奈津美(スウィン大教) 2分6秒12
2位 藤田湖奈(鹿屋体育大) 2分9秒73 ※派遣標準記録に届かず

<女子200メートル個人メドレー・決勝>
1位 渡部香生子(JSS立石) 2分12秒61 ※派遣標準記録に届かず
2位 寺村美穂(セントラルスポーツ) 2分12秒89

<女子800メートル自由形・決勝>
1位 地田麻末(東京SC) 8分38秒31 ※派遣標準記録に届かず
2位 藤野舞子(拓大職員) 8分43秒30

※選手名の太字は世界選手権代表に内定。瀬戸はバタフライで派遣標準記録突破も規定により内定ならず

(杉浦泰介)