14日、世界選手権バルセロナ大会の代表選考を兼ねた第89回競泳日本選手権最終日が行なわれ、男子200メートル背泳ぎで6冠に挑んだ萩野公介(東洋大)は、同種目ロンドン五輪銀メダリストの入江陵介(イトマン東進)に敗れて2位だった。それでも派遣標準記録を突破し、6種目目の世界選手権代表の座を手にした。男子200メートル平泳ぎでは同種目世界記録保持者の山口観弘(志布志DC)が初優勝。2位に約2秒差をつける2分9秒31で、世界選手権代表に内定した。また、女子200メートル平泳ぎでは、同種目北京五輪代表の金藤理絵(Jaked)が、ロンドン五輪銀メダリストの鈴木聡美(ミキハウスY)を下して2度目の優勝を果たした。金藤は派遣標準記録も突破し、世界選手権代表に内定した。
 背泳ぎのエースがリベンジ

 11日に開幕した日本選手権。ここまでは5冠を獲得した萩野の大会と言っても過言ではなかった。
 その最強の18歳の6冠目を阻止したのは、背泳ぎのエース・入江陵介だ。

 2日前の100メートル背泳ぎでは、萩野に僅差で敗れていた。終盤に怒涛の追い上げを見せ、「めちゃめちゃ怖かった」と萩野を脅かしたが、わずかに届かなかった。この日の200メートルは、ロンドン五輪で銀メダルを獲得した種目。第一人者としての負けられない思いは強かった。

 序盤は入江がリードを奪い、萩野が追う展開。萩野はターンでの得意のバサロキックで差を詰める。ラスト50メートルを切って萩野が逆転をした。「バサロが上手な選手なので、そこで離されるのは分かっていた」と、入江は慌てない。自信のある泳ぎの部分で勝負した。伸びのある泳ぎで萩野を抜き返し、1着でゴール板を叩いた。

 この種目は実質7連覇(11年大会は中止で、代表選考会というかたちで開催)となったが、入江は納得はしていない。「タイムは遅いですし、萩野君も納得いっていない。あくまで僕たちの勝負の舞台は夏」と、背泳ぎのエースの視線はバルセロナに向かっている。

 敗れた萩野は、最終日を勝利で飾れなかったものの、間違いなく今大会の主役だった。
 5冠達成は史上初の快挙であり、出場した6種目すべてで派遣標準記録を突破。そのうちの2種目は日本新記録を叩き出した。

 4日間で12レースをこなしたタフネスぶりを発揮したが、「意外にダメージないかなと思っていたんですけど、(最後は)疲れてしまった」と振り返る。それでも「課題が見つかって、水泳って面白い」と語り、「自分にはのびしろしかない」と貪欲な姿勢をのぞかせた。

 18歳・山口、最速の証明

 18歳の世界記録保持者は、その実力をいかんなく発揮した。
 200メートル平泳ぎを制したのは、山口観弘。2位に2秒近い差をつける圧勝だった。

 アテネ、北京五輪の金メダリストの北島康介(アクエリアス)が出場していないとはいえ、ロンドン五輪銅メダリストの立石諒(ミキハウス)、11年の代表選考会を制した冨田尚哉(チームアリーナ)に加え、同い年の瀬戸大也(JSS毛呂山)らが顔を揃えた。

 山口は序盤、2番手につけ、先頭を泳ぐ冨田を追った。100メートルの折り返しでトップに立つと、そのままひとり旅。世界最速の男は、他を突き放しにかかる。2分9秒31の好タイムで優勝。派遣標準記録を突破し、世界選手権代表の切符も手繰り寄せた。昨年は派遣標準記録をクリアしながら3位に終わり、ロンドン五輪出場を逃した雪辱を晴らした。

 世界記録を樹立して、初めての日本選手権。山口は「ここまで苦しいとは」と本音を漏らした。大会初日の100メートルでは北島に惜敗。「100分の3秒差で競り負けて、大丈夫かなという思いもあった」と、不安を抱えたレースでもあった。

 それでもしっかりと結果を出したことで強さを証明した。「この種目は、代々日本人が強い。それを受け継いで、今持てる力を出し切れた」と新王者は胸を張った。

 日本記録保持者、復活の勝利

 女子200メートル平泳ぎは、ロンドン五輪代表の渡部香生子(JSS立石)がまさかの予選落ち。同五輪銀メダリスト・鈴木聡美の独壇場になるかと思われた。しかし、鈴木の今大会平泳ぎ3冠を阻止したのは、北京五輪代表の金藤理絵だった。

 序盤は鈴木にリードを許したが、後半のターンで抜け出した。最後は体ひとつ分リードして、2分23秒11でフィニッシュ。派遣標準記録を突破し、世界選手権代表に内定した。金藤は4年ぶりの日本選手権優勝。昨年はロンドン五輪の代表権を逃しており、「ここ数年間つづいてたモヤモヤがちょっと吹っ切れたかな」と、すっきりした表情を見せた。鈴木と並ぶ日本記録を持つ金藤が復活をとげた。

 2位に終わった鈴木は、スタートの50メートルを日本記録を上回るペースで泳いだが、「持久力が足りなかった」と語る通り、後半は伸びを欠いた。それでも規定(ロンドン五輪の個人種目のメダリストは出場すれば世界選手権代表に内定)によりバルセロナ行きは決まった。

 また、12歳の今井月(本巣SS)が3位に入る健闘を見せた。自己ベストを更新して、予選トップで決勝に進出。決勝でも2分25秒14で2人のオリンピアンに食らいついていった。今春に中学校に入学したばかり。将来が楽しみな新鋭が誕生した。

 大会4日間を振り返ると、10代の活躍が目立った。全32種目中14種目が10代の優勝者。全体の4割を超える数字に世代交代を感じさせた。今大会は7月に開催される世界選手権バルセロナ大会への代表選考会を兼ねていた。そんななか派遣標準記録突破などで代表内定者は延べ21名生まれた。ただ自由形は男子400メートルの萩野のみと他種目に比べ物足りない。ロンドン五輪では戦後最多の11個のメダルを獲得したトビウオジャパン。16年のリオデジャネイロ五輪に向けて、夏のバルセロナは重要なステップボードである。世界選手権代表は明日15日に正式に決定する。

 主な結果は次の通り。

<男子50自由形・決勝>
1位 塩浦慎理(中央大) 22秒3 ※日本新記録も派遣標準記録に届かず
2位 伊藤健太(ミキハウス) 22秒21

<男子100メートルバタフライ・決勝>
1位 藤井拓郎(コナミ) 52秒23 ※派遣標準記録に届かず
2位 小堀勇氣(セントラルスポーツ) 52秒38 

<男子200メートル背泳ぎ・決勝>
1位 入江陵介(イトマン東進) 1分55秒50 
2位 萩野公介(東洋大) 1分56秒11

<男子200メートル平泳ぎ・決勝>
1位 山口観弘(志布志DC) 2分9秒31 
2位 小日向一輝(セントラルスポーツ) 2分11秒27 ※派遣標準記録に届かず

<男子800メートル自由形・決勝>
1位 山本耕平(鹿屋体育大) 7分54秒59 ※派遣標準記録に届かず
2位 平井彬嗣(柏洋・柏) 7分54秒秒84

<女子50メートル自由形・決勝>
1位 松本弥生(日体大大学院) 25秒46 ※派遣標準記録に届かず
2位 上田春佳(キッコーマン) 25分54

<女子100メートルバタフライ・決勝>
1位 星奈津美(スウィン大教) 58秒53 ※派遣標準記録に届かず
2位 加藤ゆか(東京SC) 58秒98

<女子200メートル背泳ぎ・決勝>
1位 赤瀬紗也香(日本体育大) 2分9秒37 ※派遣標準記録に届かず
2位 大塚美優(日本体育大) 2分11秒2 

<女子200メートル平泳ぎ・決勝>
1位 金藤理絵(Jaked) 2分23秒11 
2位 鈴木聡美(ミキハウスY) 2分24秒80

<女子1500メートル自由形・決勝>
1位 藤野舞子(拓大職員) 16分26秒32 ※派遣標準記録に届かず
2位 小口綾乃(セントラル目黒) 16分30秒64 

※選手名の太字は世界選手権代表に内定

(杉浦泰介)