プロ転向を表明したロンドン五輪男子ボクシングミドル級金メダリストの村田諒太(三迫)が16日、プロテストを受験し、8回戦以上で試合可能なA級ライセンスを取得した。本来、A級ライセンスを得るにはB級ライセンス(6回戦以上)の合格を経る必要があるが、今回は日本ボクシングコミッションが実績を評価し、A級での受験を特例で認めていた。
 世界を制した実力をみせつけた。
 筆記試験、検診、シャドーボクシングなどの基礎テストを経て、最後に行われた3分3Rの公開スパーリング。相手は前日本ミドル級王者の佐々木左之助(ワタナベ)だった。

 だが、金メダリストはプロの実力者を圧倒する。「ガードだけのスタイルと思われるのはイヤだった」と本人が語ったように立ち上がりから村田の重いパンチがドスドスと打ち込まれた。左ジャブから右ストレートのコンビネーションや、上から下、下から上への打ち分けも巧みで、1Rから佐々木の顔面はヘッドギアをつけていたにもかかわらず、赤く染まった。

 2Rに入ると、右のストレートが確実に顔面をとらえ、佐々木の頭が飛ぶ。強烈な右を浴びせて、ロープ際に後退させる場面もあった。3Rもアッパーで相手のあごをはね上げるなど圧倒。守勢に回るとガードの上からとはいえ、連打を浴びるシーンもあったものの、文句なしの合格と言っていい内容だった。

「やっとスタートに立てた」
 リング上で合格通知を受け取った村田は笑顔をみせた。プロデビュー戦は8月頃に予定されている。

<アマ7冠・井上、3戦連続KO勝ち>

 高校で史上初のアマチュア7冠を達成した日本ライトフライ級6位の井上尚弥(大橋)が16日、東京・後楽園ホールで日本同級1位の佐野友樹(松田)に10R1分9秒TKO勝ちを収めた。これで井上は昨年のプロデビューから3戦連続のKO勝利。ランキング1位の選手を下したことで、田口良一(ワタナベ)が持つ日本王座挑戦へ大きく前進した。

 31歳のベテランを、ほぼ左一本で退けた。1Rから佐野が得意の右を繰り出す前に、素早く左を振り抜く。フックが顔面をとらえ、右の目尻をカットした。2Rも、この左がおもしろいように決まり、フックがアゴにクリーンヒット。尻もちをつかせてダウンを奪う。右をのぞかせての左はスピードがあり、経験豊富な佐野も反応できていなかった。

 4Rには相手が右を出してきたところへ左を合わせてぐらつかせると、連打でまとめてリングにひざまずかせる。佐野は右目尻からの流血が激しくなり、場内には早期決着の予感が漂い始めた。

 ところが、中盤に入って井上はややペースダウン。手数が少なくなり、佐野が右を出す場面も増えてくる。実は試合中、井上は右の拳を痛めてしまったのだ。プロ1戦目、2戦目と早いラウンドで倒してきた20歳にとって、初めてとも言える試練だった。

 ただ、「左手一本でコントロールできた」と本人が振り返ったように、速い左は佐野の右を封じるには十分だった。何とかつかまえようとするベテランのパンチを柔らかくかわしながら、的確に左を当てていく。きれいな顔のままの井上に対し、佐野の顔面はラウンドを追うごとに血で染まり、形勢は誰が見ても明らかだった。

 そして最終ラウンド、距離を詰めて左を振るうと、被弾した佐野の出血はさらに激しさを増す。レフェリーが、これ以上の試合続行は危険と判断し、試合を止めた。右拳を痛めた影響もあって仕留めるのに時間は要したが、スピード、テクニックは終始、ランク1位を凌駕した。夢は日本史上最速となるプロ6戦目での世界ベルト奪取だ。次戦に予想される日本王座挑戦を経て、“怪物”が階段を着実に上がっていく。