(写真:記念撮影に応じる川淵氏<左>鈴木長官<中央>馳氏)

 12日、スポーツ施設に特化した総合イベント『スタジアム&アリーナコンファレンス2017』が千葉・幕張メッセで行われた。3日間開催の初日に登壇したスポーツ庁の鈴木大地長官は「スタジアム&アリーナ改革は構想から具体化へ入る時代になりました」と語った。衆議院議員で自由民主党スポーツ立国調査会の馳浩会長、日本トップリーグ連携機構の川淵三郎会長らがスタジアム・アリーナをテーマに熱弁をふるった。同イベントにはその他、国内外40社以上の企業が出展。幕張メッセ内でブースを設け、最新のテクノロジーや自社の取り組みをアピールした。

 

 日本開催2年目となる『スタジアム&アリーナコンファレンス』は初日から豪華な顔ぶれだった。ソウル五輪の金メダリスト(男子100m背泳ぎ)でスポーツ庁の鈴木長官、プロレスラーで元文科大臣の馳氏、サッカーとバスケットボールで協会のトップを務めた川淵氏をはじめ、日本バスケットボール協会(JBA)の三屋裕子会長、全日本スキー連盟(SAJ)競技本部長の皆川賢太郎常務理事が出席した。

 

 千葉市の熊谷俊人市長の挨拶後、ウェルカムスピーチとして先陣を切ったのが鈴木長官だ。スライドショーを使い、スタジアム・アリーナ改革についてスポーツ庁の取り組みを説明した。
「我々は『スポーツで稼いでもいい』と公言しております。スポーツで稼ぎ、その収益をスポーツに還元することが非常に重要です。稼がないと大きくならない。日本スポーツの市場は2012年のデータでは5.5兆円と言われています。実は2002年には7兆円あった。少し縮んでいるわけですね。これからスポーツ庁はスポーツ市場を2020年までに10兆円。2025年までに15兆円にしていくという野心的な目標があります」

 

(写真:「既成概念を取っ払っていくのが仕事」と述べる鈴木長官)

 市場拡大により、収益を得ることでスポーツ環境の整備を目指す。今年3月にはスポーツ基本計画第2期を策定した。そこには「2025年までに新たな20拠点のスタジアム・アリーナを建設していく」との目標を掲げている。鈴木長官は個人的な見解として「スタジアムは規模が大きく、お金もかかり時間もかかる。一方、アリーナの方は用途がたくさんあります。スポーツ以外のところでも使用できるので、非常に使い勝手がいい」と口にする。熊本県に行った際に熊本県の蒲島郁夫知事から「スポーツ施設をどんどんつくってください」と言われたエピソードを明かした。その理由は熊本県内のアリーナ施設が2016年4月に起きた熊本地震での防災拠点となったからだ。アリーナの活用法は興行だけにとどまらない。

 

 鈴木長官は結びにこう意気込んだ。
「スタジアム・アリーナ改革は構想から具体化へに入る時代となりました。スポーツだけの世界ではない。音楽、エンターテインメント、地域貢献、ビジネス……。いろいろな方々と一緒になって夢のある世界をつくっていける。スポーツが国民の関心を生んでいる時に大改革をしてまいりたいと思います」

 

 続いて登壇したのは馳氏。立法府の立場からスタジアム・アリーナ構想を語った。「我が国は2020年を境に劇的な変化をもたらせていく必要がある。立法や税制改正や地方創生という観点から取り組んでいく。鈴木大地長官がスポーツ庁としてのスタジアム・アリーナ構想について提言を既に出しています。その実現に向けてバックアップをしていく役割があると思っています」。スポーツ庁へのサポートを誓った。

 

(写真:「各競技団体が強くなるためにはリーグ強化が代表につながる」と話す川淵氏)

 3人目が川淵氏である。その辣腕を発揮し、バスケットボール界の救世主となったことは記憶に新しいが、「各競技団体は足の引っ張り合い。本当にひどいもんです。それを誰もチェックしてないんだから」と他競技の団体について声を荒げる場面もあった。本題から話は逸れかけたものの、80歳となっても川淵氏の熱量は衰え知らずだ。

 

「日本のスポーツ界を発展させるために何が大事かと言ったら、観る人をいかに増やすか。観る人のためのスタジアム・アリーナを用意して素晴らしいゲームをすることです。そしてそこにいろいろな機能を持たせる」

 川淵氏はスタジアム・アリーナの必要性を説く。「世界的なクラブになりたいなら世界的なスタジアムを持つべき。今は『ハコモノをつくると、無駄になる』と言う。無駄にならないようにどう工夫するのかが大事なんです」。その工夫のひとつに川淵氏は音楽業界との協力に注力する。アリーナに関して言えば、365日全てスポーツ興行を実施するわけではない。ライブやコンサート会場としても収益を出せれば黒字経営に繋がるということだ。

 

「使う側の立場に立って考えろ」
「もっと上を目指せ」
 御大は興奮気味にまくし立てる。ヒートアップしつつも、時間を迎えると「キレちゃいけないので、このへんで終わります」と会場の笑いを誘って締めくくった。

 

(写真:皆川常務理事はスキーの回転競技のオリンピアン。一昨年よりSAJの役員に就任した)

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの影響もあって、スタジアム・アリーナ構想は夏の競技ばかりが連想されがちだが、ウィンタースポーツも無関係なことではない。「スノーリゾートのスタジアム構想」というテーマで、SAJの皆川常務理事が観光庁の観光地域振興部・観光資源課長を務める蔵持京治氏とトークセッションを行った。

 

 現在、日本のスキー・スノーボードがレジャーとしては回復傾向にあるが、競技者は減少している。「根本的に通年化がまだまだできていない」と皆川常務理事。課題克服の一手として「スノーリゾートのスタジアム構想」を挙げる。かつて日本には千葉にSSAWS(ザウス)というスキードームがあった。当時は世界最大の規模を誇っていた屋内スキー場だったが、2002年9月に営業が終了した。今は日本に大規模なスキードームはゼロで、海外には36カ所あるという。

 

 普及、強化の両面で新しいスキードームの建設は大きな起爆剤となる可能性がある。皆川常務理事は「スキードームをつくることでリーグ戦やツアーが開催できる」と建設計画を進めている。海外のスキードームを例に挙げ、オランダのSnowWorldを「これからの理想型」と評する。それはここの会場がホテル、コンサート会場、レストランなど付帯産業があり黒字化できている点にある。多機能複合型のスタジアム・アリーナ建設はウィンタースポーツにおいても必要だと言える。

 

(写真:各ブースでスタジアム・アリーナに関する様々な技術などが披露された)

 スポーツを“する”“観る”“支える”人のためのスタジアム・アリーナづくり。それを実現できれば、無用の長物になることはないはずだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)