カープはこれまでに、のべ6人のベストナインキャッチャーを送り出している。達川光男が3回、(84、86、88年)、西山秀二が2回(94、96年)、石原慶幸が1回(16年)だ。

 

 参考までに紹介すれば、キャッチャーでベストナインに選ばれた回数が最も多いのは野村克也(南海)の19回、以下、伊東勤(西武)の10回、古田敦也(ヤクルト)、阿部慎之助(巨人)の9回、森昌彦(巨人)の8回、土井垣武(大阪、毎日)、城島健司(ダイエー・ソフトバンク)の6回、田淵幸一(阪神)、木俣英司(中日)の5回、藤尾茂(巨人)の4回と続く。これがベスト10だ。

 

 キャッチャーは一度、ポジションを獲れば、長きに渡ってレギュラーを張り続けることができる。キャリアを積めば積むほどリードに味が出てくるからだ。レギュラーの座を追われるのは肩が弱くなってきた時だと相場は決まっている。

 

「キャッチャーは早いうちに仕込んだ方がいい。できれば高卒の方がいい」

 野村克也の指摘だ。自らがそうだったからだろう。大学-社会人を経てプロ入りし、ベストナインに9度も輝いた古田敦也などは、野村にすれば異例中の異例だ。

 

 そこで中村奨成である。高卒のドラフト1位捕手となると、カープでは広陵の先輩・須山成二、白濱裕太に次いで3人目だ。しかし中村にかかる期待は先の2人の比ではない。甲子園6本塁打のパワーに加えて、俊足、強肩。キャッチャーとしては「20年にひとり」の逸材である。

 

 不安材料はないのか。高校時代、「強肩」を売り物にしながら、プロでは芽のでなかった元キャッチャーが、こんなことを言っていた。

「キャンプでは見たこともない程の報道陣がくる。肩もまだできていないのに、いいところを見せようと二塁に思いっ切り放ったところ、ブチッと音がした。痛みをこらえながらやっていたが、これがよくなかった。出遅れを取り戻そうとして焦り、肩を痛める繰り返し。中村君に僕がアドバイスできるとしたら、“春先からいいところを見せよう”と思わないこと。最初のうちは“何だ、たいしいたことないや”と思われるくらいがちょうどいいんです。高卒捕手の場合、本当の勝負は3年目ですから……」

 

 往々にして人は「得意で失敗」するものだ。苦手は慎重になるが、得意分野ではついついアクセルを吹かせ過ぎてしまう。張り切り過ぎないことが肝要だ。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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