小さなテークバックから切れのいいストレートとクセ球を表情ひとつ変えずに淡々と投げ込む薮田和樹投手には“眠狂四郎”のようなイメージがある。
眠狂四郎といっても、若い読者はピンと来ないかもしれない。柴田錬三郎の小説に登場する剣豪でテレビドラマでは田村正和さんや片岡孝夫さんらが演じていた。いずれもニヒルな二枚目だ。
薮田が二枚目かどうかはさておき、スパッスパッと打者を切り裂くピッチングは狂四郎の太刀捌きを彷彿とさせる。
言うまでもなく薮田は今、カープで最も頼りになるピッチャーだ。横浜DeNAを本拠地に迎えたファイナルステージ初戦は苦手な雨もものかは、5回を2安打無失点に封じた。雨の日はボールが飛びにくい。ストレート中心の強気なピッチングでコールド勝ちをたぐり寄せた。
薮田を見ていて思い出すのは、カープの3度の日本一(79年、80年、84年)に貢献した山根和夫だ。日本シリーズ5勝はチーム最多。この記録は未だに破られていない。
山根も闘志を内に秘めるタイプだった。84年の阪急との日本シリーズ、主砲ブーマー・ウェルズへの執拗な内角攻めは今でも語り草だ。
初戦、第4戦、第7戦に先発した山根は、白星こそ第7戦にあげたひとつだけだったが、4勝のうち3勝に貢献した。
今のカープ投手陣で山根の役割を担えるのは薮田だけだろう。33年ぶりの日本一は薮田の右腕にかかっている。
(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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