正念場の夏がやってきた。
 クラブOBの石丸清隆監督が今季から指揮を執る愛媛FCは、7勝4分14敗の17位と苦しい戦いを余儀なくされている。ここ数年の愛媛は夏場に失速し、大きく順位を落とした。その反省を踏まえ、新指揮官は開幕前からフィジカル面での強化を図ってきた。ただ、7月に入って未勝利と、その成果は結果にあらわれていない。勝負の季節をいかに戦い、上位浮上を目指すのか。石丸監督を直撃した。
(写真:今季のスローガン「一丸」が改めて問われている)
――監督1年目で現時点での成績は決して満足いくものではないはずです。シーズン前の想定と比較しての誤算は?
石丸: 何より開幕前にケガ人が続出して、キャンプ中にチームづくりが十分にできませんでした。準備段階でのつまずきが痛かったですね。シーズンが始まっても、誰かが復帰すれば誰かがケガをする状態で、正直、紅白戦ができるようになったのも、ようやくこの夏場に入ってからなんです。

――長いシーズン、ケガ人はつきものとはいえ、愛媛の場合はその多さも指摘されています。原因はどこにあるのでしょう?
石丸: 実際に選手たちにトレーニングをさせてみると、こちらが設定した負荷に対して予想以上にフィジカルが強くなかった。経験の浅い選手が多いので、1シーズンをどう戦い抜くかという観点でトレーニングをやったことがなかったのでしょう。リーグ戦が開幕してしまうと、試合に向けた準備に追われ、フィジカル面で大幅に上積みするのはなかなか難しい。こちらも開幕に合わせて、ちょっと強化を急ぎ過ぎたところがあったので、そこは見極めが必要だったかなと反省しています。

――監督は就任時より、「ボールをしっかり動かして主導権を握る」ことをテーマに掲げてきました。しかし、現実はミスが多くてボールがつながらず、相手にペースを握られる時間帯が多くなっています。
石丸: だからと言って、やりたいサッカーを曲げようとは思っていません。確かに現状はプレースピードが上がると、イージーなミスが起きて失点につながってしまうケースが目立っています。でも、ミスを恐れて相手に合わせたサッカーをするのではなく、自分たちからどんどん仕掛けていきたい。これができないとチャンスも増えないから選手たちもおもしろくないでしょうし、見ている方も楽しくないと思うんです。もちろん理想に近づくには基本となる部分を構築する必要があります。この作業は本来ならばキャンプ中に徹底すべきだったのでしょうが、ケガ人が多かったこともあり、今、練習の中で実施している段階です。これは今後も積み重ねていくしかありません。

――愛媛のような下位の地方クラブは、どうしても選手の入れ替わりが激しく、今季もチームの半数近い10人が新加入でした。やりたいサッカーを浸透させるには他クラブ以上に時間がかかります。
石丸: しかも昨季の主力だった有田光希(ヴィッセル神戸)や、前野貴徳(鹿島アントラーズ)、内田健太(清水エスパルス)が抜けましたからね。普通は新しい選手を入れることで個々の能力が組み合わさって、さらにチーム力が高まるものですが、愛媛の場合、マイナスの部分を何とか新戦力で埋めて、それでも足りない部分を組織で補うスタイルにせざるを得ません。

――過去には期限付き移籍で他の強豪クラブから来た若手がブレイクし、チームを活性化させてきました。今回、東アジア杯の日本代表にも選ばれた高萩洋次郎(サンフレッチェ広島)、森脇良太(浦和レッズ)、齋藤学(横浜F・マリノス)は愛媛で飛躍のきっかけをつかんだ選手です。今季も京都サンガF.C.から来た伊藤優汰や、横浜FMから来た松本翔らが注目を集めていましたが、ここまでは持ち味を発揮できていません。
石丸: そうですね。このチームには絶対的なレギュラーはいない代わり、誰にでもチャンスはある。若い選手がチーム内で競争して、試合に出ることで成長し、いい影響をもたらせてくれればと考えていたんです。その点では、少し彼らには物足りなさを感じますね。能力はあるのにケガをしてしまったり、私生活も含めてプロとしては甘い部分も見受けられます。若手に限らず、体も心も「タフさ」が足りない選手が多いのは残念です。

――まずはプロとしての心構えや、厳しさも教えなくてはいけない段階だと?
石丸: 何もないのに、とりあえず試合で使ってみようというやり方はしたくありません。試合に出たいなら、やはりトレーニングでアピールしてほしい。練習でおとなしいのに、少々、ボール扱いがうまいくらいでは試合で使ってみようという気は起こりにくいでしょう。

――成績が低迷する中、監督も開幕前から勝負どころと定めていた夏がやってきました。打開策はありますか。
石丸: 今から特別なことをしてもうまくいかないでしょうし、プロセスも大事にしながら、これまでやってきたサッカーを徹底することに尽きると考えています。四国ダービー(14日、対徳島ヴォルティス)では、今季初めて先に失点しないよう最終ラインを下げて守備を重視する作戦をとり、最終的には負けてしまいました。これは僕のプランがまずかったと思っています。ここまでの戦いを振り返ってみると、どこが相手であっても自分たちの目指しているサッカーでチャンスはつくれていました。その点は前向きにとらえてやっていきたいですね。

――たとえばホームでのガンバ大阪戦(5月26日)でも、日本代表のMF遠藤保仁やDF今野泰幸ら擁する相手に前半で先制し、相手ゴールに迫るシーンも何度かつくれていました。
石丸: 他との対戦でも、あと一歩の部分で点が獲れなくて負けたり、引き分けているゲームが多い。プレーの質や精度はもちろん、貪欲にゴールに向かう意識を個々の選手が高めてくれれば結果はついてくるとみています。

――決定力不足はかねてからの課題のひとつですが、「シュートが打てるのにパスを出そうとしてチャンスを潰している」と声も聞こえてきます。選手の中では「ボールをつなぐ」という意識が強すぎる面はないでしょうか。
石丸: 確かに、きれいにサッカーしようとしている部分はあるかもしれませんね。ゴール前では「チャンスならシュート」というシンプルな考えでいいと思います。相手の守りを見て、どのプレーを選択するか。状況判断を磨く必要があるでしょうね。

――重松健太郎や高橋泰(18日にカマタマーレ讃岐へ期限付き移籍)といったJ1でも経験のあるストライカーが故障もあって、なかなか試合に出られなかったのも痛かったですね。
石丸: 中盤の河原和寿らを無理やりトップに置いてやってきましたが、どうしても点を獲る部分に関しては本職のFWにかないません。シュート数で相手を上回っていても、枠に行っている本数は少ない試合もありましたから……。

――明るい材料といえば、その重松でしょうか。昨年、左ヒザを手術した影響で開幕から出遅れていましたが、ようやく本来の動きをみせつつあります。
石丸: まだ彼にとっては100%の状態ではないかもしれませんが、今後のカギを握る存在と言えるでしょう。他の選手にはないスピードがあり、能力は高い。早く1点でもゴールを決めて、波に乗らせてあげたいなと思っています。

――両サイドハーフの石井謙伍、三原向平は開幕から固定されていますから、うまく連係を高めて攻撃力をアップさせたいところです。
石丸: 石井、三原に関してはずっと使っていますが、プレーの精度はまだまだ足りません。特に三原はもう5点くらい獲って、得点にたくさん絡んでいてもおかしくはない。運動量の豊富さはとても魅力的で、彼が高い位置にいられるかどうかはチームのバロメーターになっています。ただ、キックの精度が低いため、決定的な仕事をした印象は薄いですよね。試合経験が少なかったので焦ってしまう部分もあるのでしょう。練習ではタッチの仕方も含めて、いろいろアドバイスしていますから、なんとか課題をクリアしてほしいですね。

――上位との差が開いてくると、目標設定が難しい時期にもなってきます。残り試合、何をテーマに戦っていきますか。
石丸: 結果が出ていない点は、サポーターの皆さんはじめ、本当に申し訳なく思っています。この成績であれば、何かを変えるという選択肢もあるでしょう。ただ、場当たり的に取り繕っただけでは本当のチーム力は高まっていきません。志を下げてしまうとサッカーのレベルも下がってしまいます。だから、今、取り組んでいること、目指していることをブレずにやり続ける。そして、愛媛のスタイルをしっかり確立させる。強くなっている、うまくなっているという実感を選手にも、観ている方にも持っていただけるよう、「継続は力なり」で頑張っていきます。

石丸清隆(いしまる・きよたか)プロフィール>:愛媛FC監督
1973年10月30日、大阪府出身。現役時代は主にボランチで活躍。枚方FC、阪南大学を経て、96年にアビスパ福岡に加入。1年目から主力としてプレーする。01年にはJ2の京都パープルサンガ(当時)に移籍して、同年のJ1復帰に貢献。02年には天皇杯優勝も経験する。05年途中から当時JFLだった愛媛に移り、クラブはJ2昇格を果たす。翌06年限りで引退。07年からはトップチームのコーチ、10年からはユース監督と愛媛で指導者としての経験を積む。今季より監督に就任。現役時代の通算成績はJ1リーグ戦173試合9得点、J2リーグ戦102試合6得点。

(聞き手:石田洋之)