(写真:垂直跳び80cm。馬場のダンクは見所のひとつだ)

 男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」のアルバルク東京は今季、“激戦区”東地区で首位を走る。前身のトヨタ自動車時代から常勝を義務付けられている名門チームだ。今年、2人の大学生が常勝軍団の門を叩いた。日本代表の馬場雄大、U24日本代表の齋藤拓実。1995年生まれの若き才能にスポットを当てる。

 

 東京経由アメリカ行き

 

 筑波大4年の馬場は卒業を待たずして、6月にA東京と契約した。開幕戦からコートに立っている。身長198cmのスモールフォワード。抜群の身体能力を生かしたダイナミックなプレーが持ち味だ。12月13日現在、20試合に出場し、1試合平均8.8得点を挙げた。大型ルーキーは期待に違わぬ活躍を見せている。

 

(写真:スピードも武器の馬場。スティールからの速攻でダンクを奪うシーンも)

 馬場の代名詞はダンクシュートだ。プロデビューとなった関東アーリーカップで挨拶代わりの一発を叩き込むと、リーグ戦がスタートしてからもたびたびダンクで観客を沸かせている。ホーム開幕戦の新潟アルビレックスBB戦では身長203cm、体重132kgの巨漢ダバンテ・ガードナーをかわし、ワンハンドダンクを決めた。自慢のスピードとジャンプ力を生かした圧巻の一撃だった。

 

 ダンクが安定してできたのは中学3年からだ。元日本代表選手である父・敏春との特訓で身に付けた。父親の回想――。

「私は身長200cmだったのですが、大学2年まではダンクができなかった。大学2年の終わりにウエイトトレーニングを継続していくうちにみるみるパワーがついて、3年になった頃にはダンクができるようになっていました。そこから自分がステップアップした経験があったので、雄大にも“リングに手が届くんだったらダンクのタイミングを取る練習をさせてやった方がいいんじゃないかな”と思ったんです。中学3年の時から瞬発力はあったので、それでアドバイスをしたんですね」

 

(写真:外からも狙うなどシュートエリアは広い。本人もオールラウンダーを目指す)

 ここまで馬場は計13本のダンクを決めている。2試合に1本以上のペースだ。スピード、跳躍力があり、フリーのチャンスであれば果敢にダンクへ挑む。シュートエリアも広く得点パターンは多い。華のある彼をファンも支持している。オールスターのファン投票で田臥勇太(栃木ブレックス)、富樫勇樹(千葉ジェッツ)ら日本バスケットボール界の顔を抑えて最多得票(11927)を集めた。日本代表にもコンスタントに呼ばれ、注目度は日に日に高まっている。

 

 11月にはFIBAバスケットボールワールドカップ2019アジア地区1次予選2試合に出場した。フィリピン代表、オーストラリア代表とアジアの格上相手に敗れたものの、馬場はスタメンでコートに立った。

「海外の代表選手たちとバチバチやれて、普段感じられない当たりの強さ、アグレッシブさを経験できた。これをスタンダードにしなければいけないと思いました」

 

 馬場が見据えるのは世界の舞台だ。アメリカ行きも視野にあった中で、B.LEAGUE入りを決めた。大学に通いながら国内のプロリーグでプレーする道を選んだ。

「4年生になって、このまま1年、大学でプレーしていいのかとずっと考えていました。日本代表のHC代行を務めていたルカ(・パヴィチェヴィッチ。現HC)や、筑波大の吉田(健司)先生に相談している中で教員免許も取りたいと思っていたんです。その中で何がベストかを考えてB.LEAGUEでやることが一番かなと」

 

(写真:コートに厳しい視線を送るパヴィチェヴィッチHC。熱血漢としても知られる)

 富山県出身の馬場にとって、パヴィチェヴィッチHCは“東京の父”のような存在だ。バスケットボールの指導は厳しいが、時に冗談を交え和ませてくれる。今年の春には、このモンテネグロ出身の指揮官にトレーニングを見てもらった縁もある。「細かく厳しく教えてくれる。スキルアップということを考えたら日本で一番のコーチかなと思います」。6月にパヴィチェヴィッチHCがA東京と契約したこともあり、「ここで成長できると感じました」と入団を決意した。

 

 22歳の若きダンクアーティストは東京経由アメリカ行きを目指す。

「先のことばかりを考えたりしていましたが、どちらにせよ自分の実力が伴わなければ、意味がない。今は毎日全力を出して成長することが自分に求められていること。最終目標はアメリカで、NBAで活躍するのが夢です。東京五輪に出場して、その後に海外へ行きたい」

 

 爪を研ぐスピードスター

 

(写真:大学最後のインカレでMIPを受賞するなど大きなインパクトを残してからのA東京入り)

 馬場より5カ月は遅れてチームに加入したのが明治大学4年の齋藤だ。身長172cmとバスケットボールプレーヤーとしては小柄ながらスピードとパスセンスが魅力のポイントガード(PG)である。齋藤は11月に特別指定選手としてA東京に加わった。

 

 特別指定選手とは全日本大学バスケットボール連盟および全国高等学校体育連盟バスケットボール部所属の満22歳以下の選手を対象にしたB.LEAGUEの強化・育成制度だ。明大での最後のインカレを終えた齋藤はこの制度を利用しての入団だった。

 

 大学バスケットボール界でも屈指の司令塔に触手を伸ばしたチームは少なくなかった。齋藤がいくつかオファーがある中で、A東京に決めた。それはなぜか。彼も馬場同様にパヴィチェヴィッチHCの存在が大きいという。

「プロでやっていくうえで練習場所や練習を見学させてもらって、環境の部分ですごく良かった。あとは明大の先輩だった(安藤)誓哉さん、同学年の(馬場)雄大もいました。でも一番大きかったのはルカHCから直接教わったことです。それでコーチ的にもすごくいいなと感じていたので。それが決め手となって入団させていただきました」

 

(写真:持ち味のスピードを生かしてゴールへ切り込む。その精度を高めるのも課題だ)

 齋藤はパヴィチェヴィッチHCからは3週間ほど手ほどきを受けた後は、李相伯盃日韓学生バスケットボール大会に日本学生選抜として出場。3戦全てでコートに立ち、いずれも2ケタ得点と活躍した。「李相伯の時にすごく手応えがあったのですが、それはルカHCに3週間みっちり教え込まれたのが大きかった」。馬場同様、その指導力に惚れ込んでの選択だった。

 

 しかし、齋藤は12月2日の第10節(対シーホース三河戦)からベンチ入りしたものの、まだ公式戦デビューは果たせていない。パヴィチェヴィッチHCも「まだまだプロの経験が足りていない」と注文を付けた。その一方で「若い選手だからこれからどんどん伸びていく」と期待を寄せている。A東京は安藤誓哉、小島元基が“1番”(PG)を担っている。日本代表候補にも名を連ねる2人の牙城は決して低くない。齋藤は語る。

「試合に出られないのは悔しくないと言ったら嘘になる。でも実際練習して成長できている部分もあります。今はベンチでしっかり学んでスキル面で成長できている。やりがいはあると思います」

 

(写真:安藤<左>は明大の3年先輩。ポジションも同じPGでアドバイスを受けることも多い)

 12月10日の第11節(対大阪エヴェッサ)の試合後、観客もいなくなったアリーナ立川立飛のコートでトレーニングする齋藤の姿があった。「自分に足りていないものはまだまだたくさんあります。シュート力、決定力、ディフェンスの質の高さ。フィジカルの部分も足りないので、少しでも早く慣れて試合に出られるようになって、勝利に貢献できるようになりたい」。プロデビューへ向けて今は爪を研ぐ時期だ。

 

 一足先にプロとしてコートに立つ馬場は同い年の司令塔のプレーを渇望している。

「常に落ち着ていて、選択肢も多い。フローターシュート、状況を見てのパス、アシストがうまい。シュートも大事なところで決められる。頼れる選手、ここ1本を任せられる選手です。早く一緒にプレーしたい」

 

(写真:齋藤<左>と馬場。東京五輪代表入りが期待されるホープである)

 齋藤もまた3年後の大舞台を意識している。「2020年東京五輪を目標にするためにもまだまだ足りない部分がある。そのために成長できるチームを選んだので、2020年東京五輪はまず狙える位置につけるように頑張りたいと思います」。日の丸を背負う司令塔は富樫、篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)らがいる。齋藤がそこに割って入るためには武器であるスピードを生かしながら、確実なプレーが求められる。「点数を取るにしても確率よく。アシストをするにしてもターンオーバーはゼロにしたい。それが理想だと思っています」

 

 馬場と齋藤――。22歳の新鋭2人が王座奪取を狙うA東京の勢いを加速させる。馬場は「年齢は関係なく2人で引っ張っていく気持ち、思い切りの良いプレーをしていきたいです」と意気込む。日本代表強化の役割も担うB.LEAGUE。大学生コンビの成長が日本バスケットボール界の未来を明るく照らす。

 

馬場雄大(ばば・ゆうだい)プロフィール>

1995年11月7日、富山県生まれ。富山第一高-筑波大学。ポジションはスモールフォワード。小学4年でバスケットボールを始める。父・敏春は元日本代表選手。筑波大進学後は1年から主力としてインカレ3連覇に貢献。3年時には大学3冠も達成した。15年に日本代表候補となり、今年2月に代表デビュー。今年6月にアルバルク東京とプロ契約を結んだ。身長198cm、体重90kg。背番号6。

 

 

 

齋藤拓実(さいとう・たくみ)プロフィール>

1995年8月11日、神奈川県生まれ。桐光学園高-明治大学。ポジションはポイントガード。父親がミニバスのコーチをしていた影響で、バスケットボールを始めたのは保育園の時。今年6月にU24日本代表に選出され、8月のユニバーシアードに出場した。11月には特別指定選手としてA東京に入団した。身長171cm、体重66kg。背番号2。

 

 

 

 BS11では「マイナビ Be a booster! B.LEAGUEウィークリーハイライト」(毎週木曜22時~22時30分)を放送中。12月14日(木)はB.LEAGUE期待の若手、千葉ジェッツの原修太選手を特集します。是非ご視聴ください!


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