(写真:16年11月より2度目の代表監督に就任した宇津木監督<左> ©日本ソフトボール協会)

 2020年東京五輪で12年ぶりの復活が決まっている女子ソフトボール。日本は08年北京五輪に続く12年かけての“連覇”がかかる。日本代表の宇津木麗華監督は8月に千葉での世界選手権を控え、昨年11月から国内外での合宿を敢行。台湾でのアジア選手権、オーストラリアでのアジアパシフィックカップを全勝で制した。指揮官に日本代表の現状と、東京五輪への思いを訊いた。

 

――2016年11月より2度目の日本代表監督に就任しました。昨年1年チームを見ての感想は?

宇津木麗華: 正直に言って北京五輪の頃と比べると、チームの質は落ちていると思います。ただエースの上野(由岐子)は現在も力を維持できています。

 

――上野投手は北京五輪金メダルの立役者です。日本リーグでは昨シーズン13勝無敗、防御率0. 56と大活躍。ビックカメラ高崎BEE QUEENの2年ぶりの日本一に貢献しました。

宇津木: 彼女は世界一のピッチャー。ピッチング技術はこれ以上成長するところはないというレベルまできていると思います。一昨年、ケガをしたことによって、“身体を強くしていこう”との思いがすごく強くなっています。ひとつひとつの動きは昔と全然違って、足の踏ん張りなどは2008年の時より強いと思います。

 

――現在35歳ですが、まだまだ成長している部分があると?

宇津木: 全日本の合宿でショートに起用すると、それを見たお客さんから「すごいショートがいますね」と言われるんです。お客さんに開放しているのは外野なので、距離が遠くて肉眼では誰かわからない。だから「いやぁ、ありがとうございます。あれが上野です」と答えると、すごく驚かれます。それくらい彼女の身体能力は高い。

 

(写真:上野は昨季、最多勝や最優秀防御率などのタイトルを獲得し、MVPに輝いた)

――上野投手は出会った瞬間からモノが違っていましたか?

宇津木: ええ。彼女が高校1年生の頃、たまたま近くの練習試合に来ていて、「すごいピッチャーいるぞ」と聞いて見に行ったんです。その頃はボーッとしていて身体が細かった。でも高1でこんなに速いボール投げられるピッチャーは彼女が初めて。今でも覚えているのは彼女のボールをキャッチャーが泣きながらボールを捕っていました。

 

――上野投手ほどの衝撃を受けたことは?

宇津木: ないですね。その時の私が言ったのは100年に1人の選手。上野ほどのピッチャーは他にはいません。それははっきり言えます。

 

――エースに次ぐ存在として期待しているのは?

宇津木: タイプは違いますが面白いのは勝股美咲。かつて日本代表で活躍した高山樹里に近いライズボールを投げます。

 

――高山さんはアトランタ、シドニー、アテネのオリンピック3大会に出場したライズボールの使い手です。

宇津木: これは持っている才能に依るものが大きいと思います。高山のライズもそうですが、人に教えてもらうものではありません。彼女たちのライズを打つのは難しい。

 

――変化が独特なのでしょうか?

宇津木: 回転数ですね。打てそうな感じで打てない。まだ高校生ですので、アメリカのナショナルチームレベルを相手にしたら難しいかもしれません。でも、いずれはとても面白い存在になると期待しています。

 

――勝股投手は多治見西高校からビックカメラ高崎への入社が決まっています。上野投手という最高の教科書がある一方で、濱村ゆかり投手と中野花菜投手と日本代表のピッチャー陣がいます。なかなか登板機会を得られないのでは?

宇津木: 本当に良いピッチャーには1年目、2年目というのは関係ありません。ここで投げるチャンスがなければ、全日本に行っても投げるチャンスはないということです。それは濱村にしても中野にしてもそう。上野の背中を見て、“私が日本のソフトボールをつくる”くらいの気持ちが必要ではないかと思うんです。上野が引退したらエース、2番手、3番手になれるとの順番待ちの姿勢ではなく、上野がいる時にエースの座を奪うくらいの気持ちでないと。そういう意味では上野は若い時から意欲がものすごく高かった。やはりエースに年齢は関係ないです。ピッチャーに必要な能力は頭の能力だと思っています。ただ力だけで勝負して、我が道をいくピッチャーでは私は打たれると思います

 

 扇の要・我妻の成長

 

(写真:キャプテン就任1年目でリーグ制覇という結果を残した我妻)

―― ソフトボールにおけるバッテリーの重要性は高い。ビックカメラ高崎と日本代表で正捕手を務める我妻悠香選手に寄せる期待は?

宇津木: 昨年のアジア選手権では全7試合でマスクを被り、無失点でした。これは誰が見ても我妻のリードを評価すべきです。2020年の時に上野をはじめ他のピッチャーがいかに失点せずに投げられるか。彼女の配球に懸かっています。

 

――監督がビックカメラ高崎で指揮を執っていた時代に我妻選手を「日本代表のキャッチャーに育てたい」とおっしゃっていました。初めて見た時から彼女に光るものがあった?

宇津木: 身体(身長172cm)の大きさと肩の強さ。あとは自然体で、キャッチャーらしい性格をしています。やはりキャッチャーはサインを出す時にブレないということが大事。その資質を考えた時に“彼女しかいない”と思いました。ビックカメラ高崎時代は正捕手に据えた1年目(2015年)に我妻の配球で優勝できました。今も全試合、彼女に託しています。

 

――昨シーズンの日本リーグではビックカメラ高崎のキャプテンとしてチームを牽引し、王座奪還に大きく貢献しました。岩渕有美監督をはじめ、我妻選手の成長を認めています。彼女のキャプテン就任は監督の意向も?

宇津木: 私がまだビックカメラ高崎の監督を務めていた2016年に彼女を副キャプテンにしました。その時には“次のキャプテンにしようかな”という考えはありました。シーズン終了後、私が日本代表を率いることになり、チームを離れましたので、その決定権はなかった。ただ後任の岩渕監督も「キャプテンは我妻しかいない」と思ってくれていたようです。

 

――彼女のレベルアップが今後のビックカメラ高崎、日本代表の成績に繋がると思います。我妻選手は大柄で、当たれば飛ぶ。バッティング面での課題は?

宇津木: 3年前は打率3位(4割1分4厘)に付けました。ただ今はキャッチャーとしての勉強に集中して、ほとんどバッティングの練習ができていない。チームにも代表にも良いピッチャーが多いので、どうしても球を受ける時間が多くなってしまう。その点では少し可哀そうな面もありますね。バッテリーとしての完成度がもう少し上がってくれば、バッティングを集中して教えようと思っています。

 

――バッティング面はまだ伸びしろがあると?

宇津木: そうですね。今年は本人に少しだけバッティング理論を教えています。それもキャッチャーのためですが、あまり詰め込み過ぎてはパニックになってしまう。少しずつではありますが、教えていきたいと思っています。

 

 カギを握るのは右バッター

 

――最大のライバルと目されるアメリカにはトヨタ自動車レッドテリアーズのモニカ・アボット投手、豊田自動織機シャイニングベガのケイラニ・リケッツ投手という日本リーグで活躍中の大型サウスポーがいます。彼女たちを打ち崩すことが勝利のカギを握りますが、バッターの中で期待している選手は?

宇津木: ビックカメラ高崎の山本優はとても良い状態にあります。2年後は31歳になりますが、ケガさえなければ身体能力は最高のレベルに達する。日本の4番として安心して見ていられます。

 

(写真:現役時代は日本の主砲として活躍した宇津木監督<右> ©日本ソフトボール協会)

――昨シーズンは打率4割7分1厘、7本塁打、18打点と大活躍しました。監督から見て、山本選手の良いところは?

宇津木: まず打席での雰囲気が良い。アボットのボールをとらえたらホームランにできるパンチ力もある。昨シーズンはトヨタ自動車との試合でホームランを打って、上野が投げ勝っている。アボットにとって3連打は怖くないんです。要はアボットを1球で泣かせる、つまり一振りで仕留められるバッターじゃないといけません。

 

――打者では北京五輪金メダルを経験している日立サンディーバの山田恵里選手もいます。

宇津木: 山田も上野同様に能力を維持しているので、大丈夫だと思います。ただ山田は左なので、アボットからどれくらいホームランを打てるか私にはわからない。身体能力とソフトボールに対する知識は素晴らしいものを持っています。とりあえず彼女を山本の前に置くと思います。

 

――2人が現段階では軸になると?

宇津木: そうですね。そうなると、やはり2人の前に貯めるバッターが必要です。昨年、日米対抗の時に1-3で負けていた場面で山本が逆転満塁ホームランを放ちました。そういうパターンをつくるのが理想です。その時はアメリカの若手ピッチャーが相手でしたが、アボット相手だったらそううまくいくとは限らない。日本で1試合に3、4失点する場面はほとんど見たことがない。日本代表の左バッターがアボットからホームランを打つのはよっぽどの交通事故じゃないと難しいかもしれません。

 

――ランナーを貯める選手に加え、還す役割を担う右バッターがさらに必要になりますね。

宇津木: はい。私はビックカメラ高崎の大工谷(真波)に期待しています。

 

――2015年のプレーオフ決勝では優勝を決める勝ち越し打を放ちました。

宇津木: 彼女は昨年、ヒザを手術して復帰したらアボットから2安打です。肩も強いですし、まだ25歳。そう考えると彼女の伸びがすごく楽しみです。

 

 金メダルを獲る使命

 

――今年は7月に千葉で世界選手権が行われます。プレッシャーはありますか?

宇津木: 私自身はプレッシャーを感じていません。“優勝できなかったらどうしよう”なんて考えるんだったら、最初からやりません。ただ私がトップを狙うのは一生涯の使命です。2位は私にとって何も意味がない。勝負をした瞬間から勝つことしか考えていません。まずは2020年ですね。これ以上の勝負は私にない。

 

(写真:昨年度は将来を見据え、若手も多く招集した ©日本ソフトボール協会)

――目先の結果にとらわれないと。

宇津木: よく「世界選手権は優勝しないとダメだ」と言われますが、私は“どうして?”と思う。もちろん優勝を目指します。世界選手権では上野を使ってギリギリの勝負ができるかもしれない。でも彼女に“おんぶにだっこ”ではいけない。どうやって2020年で金メダルを獲るかが大事です。私が思っているソフトボールに選手たちがついてこられるかどうか。ついてこられないのであれば、違う案を考えなければいけません。

 

――監督はインタビューなどで「人間力が大事」だとおっしゃっていますが、指導する上で強く意識していることは?

宇津木: 選手から監督になった時に感じたのは、人間力ない選手はそれ以上伸びない。身体能力が高いのに、考える力がない選手を見ると、すごくもったいないと思います。せっかく伸びるチャンスがあるのに“私は今日、調子が悪いから近くに寄らないで”と周りをシャットダウンしてしまう。喜怒哀楽が出過ぎる選手は自分の身体能力を抑えてしまうんです。だから常に「人間力は大事だよ」と言っています。

 

――指導者人生でのターニングポイントは?

宇津木: 一昨年は私の人生の中で一番苦しいシーズンでした。上野がケガするまでは彼女のピークと呼べるぐらいの調子が良い時で、22戦全勝できる自信さえあった。しかし、エースが抜けたことで生まれたチーム作りの難しさを感じましたね。選手との人間関係に葛藤したこともありました。それだけ勉強になった年。監督の能力は言葉ひとつにしても、どうやって選手を成長させるか。すごく日本語の難しさ、壁にぶつかりました。

 

(写真:世界選手権は2014年以来の優勝がかかる。最大のライバルはアメリカ ©日本ソフトボール協会)

――16年は前年の優勝から4位に終わりました。監督は試合後、「負けた時こそ自分たちのソフトボールを変えなければいけない」とおっしゃっていました。

宇津木: そう考えた時に、16年の経験が昨シーズンの優勝に繋がったかなと思います。選手たちが「教えに来てください!」と言ってくるので、私は「いい加減にしろよ。いなくなってから恋しいと思っても大間違いよ」と冗談で返した。その時の反応が良かった。だから、選手たちを指導していく上で、ただ誉めるだけでなく、そういったコミュニケーションも必要なんだなと思いました。

 

――その経験が生きている?

宇津木: はい。本当にいろいろ勉強させていただきました。私自身、今監督をやっていてとても面白い。バラエティー番組を見て勉強していますが、出演者がとても頭良いなと感じます。外国出身の私でも笑ってしまうほどですから。言語力をもっと学ばなければいけないなと感じています。

 

――さて、2年4カ月後に迫る東京五輪ではどんなソフトボールを見せたいですか?

宇津木: まず金メダルを獲れるチームをつくることが私の使命。ただ2020年で終わりではなく、その後のことも考えなければいけません。皆に強くて愛されるソフトボール。ともかく観たら“面白い”と思わせて、子どもたちが“自分たちもやりたい”というソフトボールをしたいです。

 

宇津木麗華(うつぎ・れいか)プロフィール>

1963年6月1日、中国・北京生まれ。14歳からソフトボールを始める。88年に来日し、95年に日本国籍を取得した。日本代表の主砲として活躍。2000年シドニー、04年アテネ五輪に出場し、2大会連続のメダル獲得に貢献した。指導者転身後は11~15年まで日本代表監督。2度の世界選手権制覇に導いた。16年11月、2度目の代表監督に就任した。

 

 BS11では今シーズンも日本女子ソフトボールリーグを中継します。開幕戦(ビックカメラ高崎BEE QUEENvs.太陽誘電ソルフィーユ)は4月1日(日)19時にオンエア。昨シーズンの上位対決をお楽しみください!


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