(写真:3-0の判定で2つのベルトを手に入れた田口<右>)

 ボクシングのトリプル世界タイトルマッチが31日、東京・大田区総合体育館で行われ、WBA・IBFライトフライ級王座統一戦はWBA王者の田口良一(ワタナベ)がIBF王者のミラン・メリンド(フィリピン)を判定で破り、2団体王座統一に成功した。WBOフライ級では王者の木村翔(青木)と同級1位の五十嵐俊幸(帝拳)が対戦。木村が9ラウンド2分34秒TKOで木村が日本人対決を制した。IBFミニマム級は王者の京口紘人(ワタナベ)が同級3位のカルロス・ブイトラゴ(ニカラグア)に8ラウンド2分28秒TKO勝ち。木村と京口はいずれも初防衛を果たした。

 

 V7&王座統一、王者の成長

 

 大晦日の大トリを見事に果たした田口。WBA世界ライトフライ級7度目の防衛戦はIBF王者との統一戦というビッグマッチで実現させた。相手は八重樫東(大橋)との王座統一戦を1ラウンドTKOで制している猛者・メリンドだ。9月には元WBA世界ミニマム級スーパー王者のヘッキー・ブドラー(南アフリカ)に判定勝利。世界戦3連勝中だ。

 

(写真:3年前に獲ったWBAのタイトルの7度目の防衛に成功した田口)

 1ラウンドはメリンドに押された感があったが、2ラウンドは取り返す。3ラウンドはメリンドが左目、5ラウンドには右目を偶然のバッティングでカットした。9ラウンドには田口が側頭部を偶然のバッティングで切る流血戦は最終12ラウンドまでもつれた。田口は左ジャブを刺しつつ、接近戦でも連打を浴びせた。10ラウンドからは力を振り絞って、あわやダウンというところまでメリンドを追い詰める。

 

 田口陣営の中では9ラウンド終了時点で「見方によってはイーブンでおかしくないと思った。最後の3ラウンドを取られるとやばい」(石原雄太トレーナー)と感じていたという。田口も「中盤は明確にポイントを取れたラウンドはあまりなかった」との感触。コーナーに戻ると石原トレーナーから「このままでは負けるぞ」と背中を叩かれた。「そこでいくことができたのが勝因だと思う」と田口。気合いを入れ直した10ラウンド以降の猛攻に繋がった。

 

 死力を尽くした両者、判定は3-0(116-112、117-111、117-111)で赤コーナーの田口が勝利した。「めっちゃ重いです。今、疲れているのでうれしい悲鳴です」と、両肩に2つのベルトをかけ、喜びを語った。「心理戦でもありました。少しでも手を抜いたらすぐ持っていかれると感じました」とメリンドのプレッシャーは強かった。「気持ちと気持ちの戦い。実力は拮抗していましたので、最後全面に出せて良かったです」

 

 1年前の大晦日は、カルロス・カニサレス(ベネズエラ)に引き分けた。予想外に引いてくる相手にうまくできなかった。だが、その後もベルト守り続けた経験で田口の引き出しは増えた。「試合で修正がきくようになったことが大きいと思います。前はガムシャラにいくだけだったんですが、落ち着いて“こうした方がいい”というアドバイスを実行できるようになってきた」と石原トレーナー。田口本人も「いろいろな意味で成長できた1年でした」と振り返る。

 

(写真:尊敬するジムの先輩・内山氏<左>に祝福される田口)

「ワタナベジムを引っ張っていきたい」

 試合後、リング上でこう宣言した田口。ジムの先輩の内山高志が引退した今、“部屋頭”とも言える存在だ。石原トレーナーも「練習で背中を見せて引っ張っている」とジムでの意識の変化を口にする。「練習の集中度や態度、今までより全然高いところにあると思います」

 

 その自覚が好循環となって成長にも繋がっているのだろう。フィリピンの強敵を下し、日本人としては3人目の統一王者に輝いた。大田区出身の田口は、地元での大役を果たした。「来年はもっと強くなれるよう頑張ります」。31歳の王者は最強への道を邁進する。

 

「誰とでもどこでもやる」

 

 フライ級の木村が中国の英雄ゾウ・シミンから奪ったWBOのタイトルを、力ずくで守り抜いた。「最後の挑戦」と明言していた元WBC王者・五十嵐を退けた。

 

(写真:持ち味であるアグレッシブなファイトスタイルで苦手サウスポーを攻略した)

 接近戦に臨む木村と、距離を取る五十嵐。2人のスタイルはこれまでの歩みのように対照的だった。高校で一度ボクシングを辞め、プロデビュー戦は黒星。7月の上海で大番狂わせを演じたことで成り上がった“雑草”木村に対し、五十嵐は“エリート”と称される。アテネ五輪に出場するなどアマチュアでの実績も十分。2012年にWBCフライ級王座を奪取した。これが4年8カ月ぶりの世界戦だ。

 

 進退を懸けて臨んだ五十嵐に「意志の強さがすごく伝わってきた。とにかくかわされてもフルスイング」と言わしめた木村のボクシング。本人曰く「昭和のボクシング」は、1発もらったら2発返すというアグレッシブなスタイルだ。大振りで大雑把に見えるパンチも、「五十嵐選手は技術がある。当たらなかった。でも続けていけば後半になれば当たるラウンドも増えてくる。僕の持ち味はガンガンいくこと」と迷わず続けた。

 

 打ち疲れも心配されたが、スパーリングを300ラウンド以上こなすなどスタミナには自信があった。「12ラウンドは余裕で動く。1ラウンドで飛ばしたって大丈夫。打ち合っても負けない自信はあった。逃げるんだったら追っていくしかない」。愚直に攻める王者が挑戦者を追い詰める。8ラウンドには左フックでグラつかされると、倒しにいった。だが狙い過ぎてパンチも単発となり、仕留め切れなかった。

 

(写真:進退を懸けて臨んだ五十嵐<右>は初のKO負け。試合後引退を発表)

 8ラウンド終了後、セコンドに付いた有吉将之会長は「レフェリーが止めるまで殴り続けろ」と檄を飛ばした。すると9ラウンド、コーナーに五十嵐を追い込むと、猛ラッシュ。レフェリーが2人の間に割って入り、試合をストップした。KO負けのない五十嵐をTKOで下し、「自信になった」と手応えを口にする。デビュー戦ではサウスポー相手に敗戦。同じサウスポーの五十嵐を倒し、苦手意識は払拭した。

 

「まだまだ強くなれる」と王者は貪欲だ。「僕は1日でも長く、1回でも多く防衛したい。誰が相手だろうと、どこであろうと決まった試合を勝つだけだと思います」。あくまで攻めの姿勢を貫く。「八重樫さんのように激闘王になりたい。ボクシングをやってない人が見ても熱い試合をできていければいいと思います」。木村は元世界王者との激闘を制し、激動の1年を締めくくった。

 

 初防衛支えた図太いメンタル

 

(写真:日本人離れしたアッパーなどを駆使し、KO負けのない相手からストップ勝ちを奪った)

 プロデビューからわずか1年3カ月で世界のベルトを巻いた京口。その5カ月後に臨んだ初防衛戦だ。王座は奪うより守る方が難しい――。格闘技界でよく聞く言葉だが、24歳の若武者には当てはまらなかった。試合前に予告していた必殺パンチを繰り出すまでもなく、初防衛に成功した。

 

「変に見合ってしまうと相手がやりやすくなる」と序盤からプレスをかけた。前へ前へと積極的に手数を重ねる。対戦相手のブイトラゴが「速かった」と舌を巻いたパンチも左ジャブ、左ボディ、右のフックと当たり出す。大振りになり過ぎていると見るや、井上孝志トレーナーは「60%!」とセコンドから声をかける。5ラウンドにはロープ際に追い込むシーンも見られた。

 

 中盤以降も左ジャブで挑戦者の顔を弾く。「ナックルでいく意識」というジャブ。ジムの先輩・内山の「目を狙え」とのアドバイス通りに攻めた。「老獪な選手で、なかなか(心が)折れなかった」と苦戦したが、ダメージは確実に蓄積させた。腫れ上がるブイトラゴの顔が何よりの証拠だ。ほぼ一方的に攻める京口。再びロープ際に追い詰めた8ラウンド、2分28秒でレフェリーが試合を止めた。

 

(写真:キャリアのある挑戦者にパンチも浴びたが「怖さなかった」と圧倒した京口)

「すべてのラウンドで自分より上だった」と白旗を上げた挑戦者。事実、ジャッジペーパーを見ても3者ともフルマークで京口を支持している。本人は「60点」と辛口だったが、渡辺均会長が「80点」と評価すれば、井上トレーナーも「80点でも100点でも。今日は良くやった」と褒めた。

 

 24歳の王者は「前回はいっぱいいっぱいだった。今回は8ラウンドでも考えながら戦うことができた」と精神的余裕を成長に挙げた。リング上で硬さは見られなかった。京口の図太さを感じた井上トレーナーがこう証言する。

「全然リラックスしていましたね。こんな選手はいません。普通は無理ですよ」

 

 大晦日の興行は昨年も前座で経験している。京口は「チャンピオンとして戻ってこられた。来年はもっとビッグマッチ」と意気込む。最軽量級ながらKO率はこれで7割7分8厘を誇る。「海外のボクサーを見本としているので、角度のいいアッパーやフックを持っている」と井上トレーナー。日本人離れしたブローを武器に、魅せるミニマム級王者として、更なる飛躍を感じさせる。

 

(文・写真/杉浦泰介)