四国アイランドリーグPlusは後期シーズンが開幕して1カ月が経過した。NPB入り、または復帰を目指してプレーする選手たちにとっては野球人生を賭けた熱い夏が続いている。
 前期は最下位に終わり、低迷する高知において、今秋のドラフト候補として期待されているのがエースの井川博文だ。サイドからMAX149キロの速球とスライダーを投げ込み、ここまでリーグトップの112個の三振を奪っている。今季は開幕から先発を任され、5勝7敗と黒星先行ながら、防御率はリーグ4位の2.50。7月19日の香川戦では9回1死までノーヒットに封じる快投をみせた。四国にやってきて3年目。今年こそNPB入りを狙う右腕に残るシーズンへの決意を語ってもらった。
(写真:お手本とするピッチャーはヤクルトにいた林昌勇(現カブス))
――このリーグで先発に転向したのは昨季後半から。それまでは抑えや中継ぎが主でした。「長いイニングを投げられるところをみせたい」との定岡智秋監督の考えですが、ピッチングに変化はありましたか。
井川: リリーフの時は1球1球、全力投球していましたが、先発になってからはペース配分しながら投げています。高知は決してリリーフ陣が安定しているとは言えないので、クローザーの吉川(岳)さんに直接バトンを渡すつもりでマウンドに上がっています。

――チームは負けが込み、なかなか勝ち星が伸びませんが、前期は同じくドラフト候補の又吉克樹(香川)と8回まで0−0の投手戦を演じた試合(6月22日)もありました。
井川: 又吉は同じサイドで、いいピッチャーなので試合前から意識していました。ゲームのテンポが良かったので、いつもは三振を狙うところでも、どんどん打たせるように投げたのが好投につながったと感じています。0−0の試合でしたから、絶対に先にマウンドは降りたくなかったですね。

――しかし、又吉は9回1死までパーフェクトに抑える完璧な内容。井川さんは8回までわずか2安打に抑えながら最終回にサヨナラホームランを浴びて、負け投手になってしまいました。それから約1カ月後、再び直接対決(7月19日)がありましたね。
井川: 前回やられていたので、負けたくない気持ちは強かったです。調子は普通でしたが、課題の立ち上がりをうまく乗り切れたので、今日は行けるという気になりました。

――四死球を与えながらも、ノーヒットピッチングが続きました。記録を意識したのは?
井川: 7回くらいです。その時点では、もうランナーを四死球で何回も出していたので、あまり緊張はしませんでした。ただ、ノーヒットが終盤まで続くのは野球人生で初めての経験。さすがに9回は「いつ打たれるかな」と少し弱気になって、心理状態がおかしかったです。それで甘く入ったところを打たれてしまいました。

――記録達成は逃したものの、9回1死まではノーヒット。又吉にも投げ勝ちました。
井川: 前回とは逆のかたちでやり返せたのはうれしかったですね。欲を言えば、最後まで投げ切りたかった(初安打を許した直後に吉川へ交代)。それは反省点です。

――現在、奪三振はリーグトップ。三振へのこだわりはありますか。
井川: 今年は奪三振王のタイトルを開幕前から狙っていました。自分が一番、アピールできるのは三振がとれるところ。追い込んだら、絶対に三振をとるつもりで投げています。

――ウイニングショットはサイドから投げ込むスライダーですね。
井川: スライダーに関しては、このリーグでは打たれるイメージがありません。「いつでも三振はとれるぞ」という思いでマウンドに上がっています。
(写真:頻度は少ないがナックルも投げる)

――スライダーには、何か打たれない秘訣があるのでしょうか。
井川: 自分自身は特別曲がりが大きいとは思いませんが、高校(倉吉農)時代からなぜか空振りがとれたんです。握りはボールの縫い目と縫い目の間が狭くなっている部分に人差し指と中指を両方かけています。そして親指を深めに握り、ひねる感覚で投げるんです。

――スライダーは一般的には、縫い目に指を沿わせ、切るように投げるイメージが強いですが、これは独特ですね。
井川: その投げ方だと、うまく曲がらないんです。今の握りを見つけたのは小学校の時。遊びで先輩がスライダーを投げるのを見ていて、「指を1本かけるより、2本かけたほうがもっと曲がるのでは?」という素朴な疑問から試したのがきっかけですね。

――倉吉農高を経て、金沢学院大時代はチームの中心投手として活躍。4年秋には4試合連続完投勝利をあげています。ただ、卒業後は一般企業に就職しました。
井川: 大学の時点でプロの道は一度、諦めていました。仕事をしながら軟式野球をしていたのですが、正直言って、レベルが違うので全くおもしろくない。仕事内容も営業で、性格的に合わないと感じていたので、もう一度、硬式できちんと野球をやりたい気持ちが強くなっていきました。

――それでアイランドリーグを受験してみたと?
井川: いえ。最初は大学が金沢だったこともあって、BCリーグのトライアウトを受けようと考えていたんです。するとアイランドリーグのトライアウト会場が神戸のスカイマークスタジアム(現ほっともっとフィールド)だと知りました。「プロも使う球場で1回投げてみたい」。これが受験の動機です(笑)。

――気軽な応募だったんですね(笑)。それでもトライアウトに合格。2011年にまず愛媛に入団します。独立リーグに入っての印象は?
井川: 職業として野球をする厳しさを知りました。軽い気持ちで受けたトライアウトで採用されて、少しナメていた部分もあったのでしょう。練習はキツいし、監督やコーチからもいろいろ言われる。最初は反発しかかった時もありました。ただ、元プロの指導は納得できることばかりで、とても勉強になるんです。おかげで、球速ひとつとっても四国に来た頃は140キロを出すのがやっとだったのに、常時、140キロ台を投げられるようになりました。愛媛での1年間で、肉体的にも考え方もプロとして野球をやる基礎ができたと感謝しています。

――2年目の昨季からは高知に移籍しますが、愛媛で教わったことがベースになっていると?
井川: 個人練習では愛媛でやっていたメニューを今もやっています。教わったこともノートに書くようにしていたので、時々、見返すんです。「ピッチングはバランスが大事」とか、書いた時は理解できなかったことが、高知に来て意味が分かってきました。それを、また日々の練習で意識して取り組めるので、本当に役立っていますね。

――ドラフト指名を受け、NPBで活躍するには、もうワンランク高みを目指すことが求められます。克服すべき課題は?
井川: 制球力と緩急をつけることですね。緩いボールはぜひ習得したくて、チェンジアップを覚えたら、腕を振って投げているうちに速いシンカーのようになってしまいました(苦笑)。やはり、バッターが完全に体勢を崩して空振りしてしまうような遅いボールを投げたい。そうすれば、もっとストレートも生きてくるはずです。
(写真:野球を始めた時からサイドスロー。「肩のつくりが他の人と違っているので上からは投げにくかった」と明かす)

――このリーグでは交流試合やフェニックス・リーグなどでNPBと対戦する機会も多く設けられています。実際に対戦してみると、課題がより明確になるのでは?
井川: そうですね。やはりNPBのバッターはレベルが高い。昨年のフェニックス・リーグでは北海道日本ハムの1軍メンバーと対戦しました。すごいメンバーでしたが、とりわけ糸井(嘉男)さんのスイングスピードには驚かされました。アウトローに投げて始動のタイミングが遅かったので、「これは当たってもファールだろう」と思っていたら、バッとバットが出てきて、ピッチャー返しの打球を打たれました。

――それは直接対戦したからこそ気づくことですね。
井川: しかも打球が、ものすごく速い。なんとかグラブを出して捕りましたけど、少しコースがずれたら、体に直撃していたかもしれません。「当たったら野球ができなくなっていたかも」と怖くなるほどでした(苦笑)。

――NPB行きへ定岡監督からは「もっとストレートで押せるピッチャーに」と注文されたとか。
井川: はい。だから後期はスライダーに頼らないピッチングを追求しています。スライダーを投げれば三振をとれる場面でも、敢えてストレートを選択している割合が増えていると思います。甲子園が終われば、スカウトも本格的にチェックに来ると聞いていますから、その時はストレートで凡打を打たせたり、空振りを奪えるところを見てもらいたいです。今年、MAXが149キロまでアップしました。残り試合でキリよく150キロ以上を出す。これが今の目標です。

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(聞き手:石田洋之)