(写真:ベテラン、サバシアの言葉通り、ヤンキースはアンチの多いチームに戻ったのか Photo By Gemini Keez)

「去年、ウチはみんなから愛されるチームで、心が温まるようなストーリーになった。しかし、ジャンカルロ(・スタントン)の加入で再び嫌われるチームに戻る。そんな立場を気に入っているよ。毎試合ですべてのチームを叩き潰さなければいけない」

 1月中旬、MLBネットワークの番組に出演したヤンキースのCC・サバシアがそう語ったことが大きな話題になった。

 

 37歳の大ベテランの言葉は真実を伝えているのだろう。このチームとしては珍しい“再建期間”を迅速に終え、名門は再び“パワーハウス”と呼び得る陣容を整えている。

 

 2017年は予想外の形でワールドシリーズまであと1勝に迫ったヤンキースは、今オフにサバシアと再契約し、田中将大もオプトアウト(契約破棄)権を行使しないことを表明。12月9日には昨季ナ・リーグMVPを受賞したジアンカルロ・スタントンをマーリンズからトレードで獲得し、全米を驚かせた。

 

 この補強策によって、昨季メジャー1位の241本塁打、2位の858得点を挙げた打線がグレードアップしたことは確実。先発投手陣も、田中、ルイス・セベリーノ、ソニー・グレイ、サバシア、ジョーダン・モンゴメリーという昨季と同じローテーション5人を保っている。何より、アロルディス・チャップマン、デビッド・ロバートソン、チャド・グリーン、トミー・ケーンリー、デリン・ベタンセスといった本格派揃いのブルペンは強力だ。

 

(写真:ジャッジ<左>、スタントンが揃ったことで打ち取りやすい打線になるリスクはあるが、それでも魅力は誰も否定できまい Photo By Gemini Keez)

 充実した戦力がゆえに、「Vegasinsider.com」の優勝オッズではヤンキースが優勝候補筆頭と目されている。今季開幕後、ニューヨークに大きな注目が注がれることは間違いない。

 

 そんなヤンキースにも、課題がないわけではない。スターリン・カストロ、チェイス・ヘッドリー、トッド・フレイジャーが抜けたため、実は現時点で実績あるセカンド、サードのレギュラーが不在。同タイプのスタントン、アーロン・ジャッジが打線の2、3番、あるいは2、4番に入り、三振を連発して相手投手を助けてしまう可能性は否定できない。

 

 先発ローテーションにはもう1枚を加える見込みと目されたが、それも叶っていない。サバシアは高齢、モンゴメリーはまだフルシーズンを通じて働いた経験はないだけに、シーズン中に人員不足になっても驚かないだろう。

 

 見どころ満載の魅力的な球団に

 

(写真:グレゴリアスは攻守両面の要の役割を果たせるか Photo By Gemini Keez)

 ただ、そんな要素を考慮した上でも、2018年のヤンキースが誰も無視できないチームになったことは明白だ。空回りするリスクはあっても、昨季に合計144本塁打を放ったスタントン、ジャッジ、ゲイリー・サンチェスの打席は必見。グレッグ・バード、ディディ・グレゴリアスも含め、どこからでも1発が飛び出すラインアップを観たくないスポーツファンは存在しないだろう。チャップマン、セベリーノの豪速球、田中のスプリッター、さらには新監督に就任したアーロン・ブーンまで含め、見どころは他にも数多い。

 

 特筆すべきは、今季のヤンキースは過去のように散財せずに現在のロースターを作り上げたことだ。ブライアン・キャッシュマンGM以下の賢明な政策のおかげで、年俸総額は贅沢税が課される1億9700万ドル以内に抑えることができそう。だとすれば、将来的にもよりフレキシブルなチーム作りが可能になる。

 

 しかし、例えそうだとしても、ベースボールファンは過去数年のようにもうヤンキースを“アンダードッグ”とみなしはしないだろう。資金力にものを言わせ、昨季のMVP選手を“強奪”した大都市チームと考えるはずだ。冒頭のサバシアのコメントには、そんな思いが込められていたのだ。

 

(写真:昨季、マーリンズで59本塁打を放ったスタントンはNYの新たな呼び物になる Photo By Gemini Keez)

 かつて、ヤンキースは強かった。それだけではなく、“悪役”の呼称が似合うチームでもあった。デレック・ジーター、マリアーノ・リベラ、アンディ・ペティートといった生え抜きの主力を軸に据え、毎年のようにジェイソン・ジアンビ、ゲイリー・シェフィールド、アレックス・ロドリゲスのような外様スターをFAやトレードで獲得。少々強引なチーム作りを続け、優勝争いに絡み、他チームのファンの神経を逆なでしていったのだった。

 

 時は流れ、2018年――。しばらくは“普通の大都市チーム”だったヤンキースが、短いリビルド(再建期間)を終え、嫌われるスター軍団に戻ったことを喜びたい。ハリウッド映画はヒールが強い方が面白い。この方がメジャーリーグは確実に盛り上がる。多くのベースボールファンも、表向きの嫌悪の言葉とは裏腹に、ヤンキースがダース・ベイダーのような存在に戻ったことを心底では喜んでいるに違いないのである。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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