25日、8月のアジア競技大会(インドネシア・ジャカルタ)の日本代表選考会を兼ねた「東京マラソン2018」が東京都庁前から東京駅前までの42.195kmで行われ、設楽悠太(Honda)が2時間6分11秒の日本新記録で2位に入った。優勝はディクソン・チュンバ(ケニア)。2時間5分30秒で4年ぶりに同大会を制した。アモス・キプルト(ケニア)が2時間6分33秒で3位。日本人2位の井上大仁(MHPS)は日本歴代4位の2時間6分54秒で5位だった。そのほか女子エリートの部はベルハネ・ディババ(ケニア)が2時間19分51秒で3年ぶりにV。車いすの部男子は山本浩之が1時間26分33秒で、女子はマニュエラ・シャー(スイス)が1時間43分25秒で優勝した。

 

 日本男子マラソンに新たな扉が開いた。26歳の設楽が歴史を変えた。2002年10月のシカゴマラソンで高岡寿成が塗り替えて以来、止まっていた日本記録が約15年半の歳月を経て更新された。

 

 昨年からコース変更により、“高速化”が増した東京マラソン。今年の海外招待選手は2時間6分を切る自己ベストを持つアフリカ勢が8人も揃った。世界歴代4位タイの2時間3分13秒のウィルソン・キプサング(ケニア)は昨年、リオデジャネイロ五輪銀メダリストのフェイサ・リレサ(エチオピア)は2年前の優勝者だ。好記録をアシストすべくペースメーカーも複数名配置している。

 

 日本勢も期待の選手が名を連ねた。設楽、井上は昨年の“新コース”となった東京マラソンを経験。設楽は序盤から積極的に走り、日本新ペースでレースを展開した。2時間9分27秒で11位。初マラソンながら評価を上げた。一方の井上は粘りの走りで日本人トップとなる8位(2時間8分22秒)に入った。世界選手権の出場切符を勝ち取った。

 

 レースはペースメーカーが引っ張る展開。チュンバ、キプルト、リレサらアフリカ勢が先頭集団を形成した。設楽と井上も離されず積極的に前を追った。30kmを先頭が1時間29分20秒で通過。ここからペースメーカーが外れると、集団は横に広がった。井上はしばらくついていったが、設楽は少し遅れ始める。37km過ぎでチュンバがスパートをかけると独走状態に入る。日本人トップは依然として井上だった。

 

「32kmくらいで負けたと思っていた」と設楽。ここから粘りを見せる。まずリレサをとらえると、井上に追いつく。快調に飛ばして井上を突き放し、さらに順位を上げた。残り2kmを切ったところでキプルトを抜き去り、単独2位に。「前は見えていたんですが、あれが僕の限界でした」。2時間5分30秒でゴールしたチュンバには追いつくことはできなかったが、2時間6分11秒で日本人トップの2位に入った。日本記録を確信してか、右腕を突き上げてフィニッシュテープを切った。

 

 昨年の東京マラソン後はハーフマラソンで日本記録(1時間0分17秒)をマーク。2度目のマラソン(ベルリンマラソン)でも自己ベストを更新した。「今の練習は間違っていない。同じ練習をすれば必ず結果はついてくる」と設楽。フルマラソンでも日本記録を樹立し、大きな手応えを掴んだ様子だ。

 

 一方で今回は設楽に敗れた井上も2時間6分台の好タイムで5位に入った。「ただただ悔しい。目の前で日本記録を出されて、これ以上の悔しさはない」。2年連続の日本人トップとはならなかったが、日本歴代4位の好記録である。ただ本人は「タイムは何とも思っていない。負けたことが悔しい」と勝負にこだわっていた。

 

 冬の東京で、日本長距離界の春が訪れた。日本陸上競技連盟の瀬古利彦長距離・マラソン強化戦略は「一気に東京オリンピックに弾みが付く。これを目標にしていくからどんどん続いていくと思います」と、設楽の快挙に喜んだ。先に日本記録を更新された井上は「次は5分台を狙っていきたいと思います」と意気込んでいる。その他の日本勢は4人が2時間8分台をマーク。10位以内の6割が日本人というのも近年の東京マラソンでは珍しい。ここからアフリカ勢に大きな水を開けられていた日本の反転攻勢なるか。

 

(文/杉浦泰介)