(写真:優勝カップで乾杯のポーズをとる水谷と早田)

 3日、「LIONカップ 第22回ジャパントップ12卓球大会」が東京・駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場で行われた。男子は水谷隼(木下グループ)が張本智和(JOCエリートアカデミー)を4対2(8-11、11-8、5-11、11-6、11-9、11-6)で下し、3大会ぶりに4度目の優勝。女子は早田ひな(日本生命)が全戦ストレート勝ちで制した。

 

 全日本選手権のリマッチは水谷が張本にリベンジを果たした。「自分もまだまだやれると見せられて良かった」。全日本9度の優勝、オリンピックのメダリストが意地を見せたかたちだ。

 

「今日の1日のプレーは良くなかった」(水谷)

「決勝までいいプレーできなかった」(張本)

 互いに本調子とは呼べない中で、決勝では好勝負を展開した。

 

(写真:張本<左>のサーブを水谷は通常より台に近付いて対処した)

 第1ゲームを張本が取ると、水谷が第2ゲームを取り返す。第3ゲームは張本が2-2から怒涛の8連続ポイント。そこから3点を返されたが、最後は得意のバックハンドを叩き込み、11-5でモノにする。第4ゲームは水谷が得点を重ね、11-6。ゲームカントは2対2となった。

 

 流れがどちらに転がってもおかしくない中、勝敗を分けたのは第5ゲームだった。水谷が畳み掛ける。6-5から4連続ポイントを挙げ、ゲームポイントを獲得した。「この試合、勝てるんじゃないかと思った」と気が緩んだのか、張本に3点を返される。ここで水谷がタイムアウトを要求。相手の流れを切ろうとした。

 

 しかし次の得点は張本。水谷が「“やばい”と思ってタイムを取ったが、流れが変わらなかった」と語ったように点差はあと1点となった。すると今度は張本がタイムアウトを取る。「そんなに連続で取れるわけではない。しっかり心を落ち着けて、5ゲームが勝負だと思っていた」

 

(写真:多彩なサーブも水谷の持ち味。この日はあえてシンプルなものを繰り返した)

 ここがカギと見て、仕掛けた張本だったが裏目に出た。「相手がタイムアウトを取ってきたことによって、考えていることを外そうと思いました」と水谷。サーブ権は水谷にあった。選んだのは逆回転のYGサーブ。この日、この試合で初めて繰り出したサーブで崩した水谷が、このゲームを取って3対2でリードを奪った。第6ゲームは11-5で、試合を決めた。

 

 引き出しの多さが目立った。サーブの種類も豊富な水谷だが、あえて普通のサーブを繰り返した。この狙いを水谷は「チキータ(バックハンドで横回転をかけるレシーブ)を封じたかった」と説明した。相手のフォア側を中心に攻め、張本が得意とするバックハンドでリズムに乗らせなかった。

 

(写真:勝利を決めて客席に向かってガッツポーズ。エースのプライドを覗かせた)

 駆け引きでも上回った。サーブレシーブの際には「いつもより半歩前」(水谷)とリスクを背負ってでも張本にプレッシャーをかけた。「今回はヤマを張って待った」と言うがカウンターは面白いように決まっていた。チキータも「練習を兼ねて」と多用した。

 

「試合をしていて非常に楽しかった。互いに戦術を見せ合って、ワクワク感があった」と水谷は言う。ハイレベルのラリーに観客をも楽しませていた。対張本3連敗を阻止した日本のエースは「まだまだ張本はこんなもんじゃない」と気を引き締める。2人の対決は今後も楽しみだ。

 

 

 女子は石川佳純(全農)、伊藤美誠(スターツSC)、平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園高)という最新のITTFランキングで3位、5位、6位につける日本のトップ3が出場しなかった。優勝候補の筆頭に挙げられていた同12位の早田が優勝した。グループリーグ2試合に準決勝と決勝。そのすべてでストレート勝ちを収めた。

 

(写真:コンディション的には万全でなかったが「一戦一戦戦った」という)

 日本代表として2月下旬にイギリス・ロンドンで開催されたITTFチームワールドカップに参加した。石川、伊藤、平野と世界を相手に戦った。「メンバーの中で私だけが(シングルスで)全日本を優勝していなかった」。全日本ではないが国内上位大会で手にしていない個人タイトル獲得のチャンスだった。

 

 12人が4組に分かれて行うグループステージ。各組のトップのみが準決勝に進める。グループCの早田は森薗美月(サンリツ)、佐藤瞳(ミキハウス)を連破して次のステージへとコマを進めた。いずれもストレート勝ちとはいえ、第1ゲームを接戦でモノにしたことが大きかった。

 

 準決勝は安藤みなみ(専修大学)にも4対0(11-9、11-7、11-6、11-2)で勝利した。決勝は橋本帆乃香(ミキハウス)。今大会ではグループステージの佐藤に続くカット主戦型だ。カットマン対策は日本代表でも練習していた。「私は(カットマンに対し)スマッシュのミスが多い。打ち抜いていこうとし過ぎた。今日の試合でも相手に受けさせる意識でした」

 

(写真:得意なフォアハンドで何度も得点を決めた)

 早田は166cmの長身から繰り出されるフォアハンドが武器だ。彼女は粘り強く返してくるカットマンに対して無理に攻め急ぎ過ぎないことを心掛けた。それでも威力は十分。台上に強烈なボールを打ち込んだ。第1ゲームは6-7から5連続ポイントで奪取した。その後も勢いは衰えることなく11-7、11-5、11-6と連取して、勝負を決めた。

 

 この日は3月3日のひな祭り。早田は「ダブルひなでいいかな」と笑った。大会後すぐにカタール、ドイツオープンに出場する。いずれもプラチナランクのITTFワールドツアーで中国のトップ選手もエントリー予定だ。17歳は日本で掴んだ自信を胸に再び世界に挑む。

 

(文・写真/杉浦泰介)