この7月に日米通算2000本安打を達成したロッテの井口資仁は、日本人内野手としてメジャーリーグでも活躍した数少ない選手だ。ホワイトソックスではセカンドのレギュラーで世界一に貢献。堅実な守備のみならず、バッティングでも制約の多い2番を任されながら、2005年、06年と2ケタ本塁打をマークしている。日本球界に復帰して今季が5年目。打率3割、21本塁打と好調なベテランに日米の野球を比較してもらった。
(写真:2000本目のヒットは楽天・田中からのホームラン。相性が良く今季は11打数4安打)
二宮: 近年の日本人内野手はメジャーリーグでレギュラーすら獲れない状況が続いています。米国でプレーするにあたって、ひとつのネックになっているのが守備です。日本の球場は人工芝が多いため、メジャーの天然芝に適応するのに時間がかかるとの意見があります。井口さんはいかがでしたか?
井口: 僕はあまり気にならなかったですね。むしろ米国の球場はグラウンドがビックリするくらいきれいで好きでしたよ。日本人内野手がなかなかレギュラーになれないのは、環境の問題よりも身体能力の差が大きいのではないでしょうか。たとえばボテボテの打球をそのままつかんでランニングスローするとか、日本人ができないプレーをメジャーの選手はできる。ただ、セカンドであれば一塁までの距離が短いので、そこまで問題にはならないはずです。

二宮: ショートでは簡単には太刀打ちできないと?
井口: 天然芝と土のグラウンドでは人工芝と比べると打球の勢いが弱まりますから、ショートは一歩目で出遅れると、ほぼセーフになります。ボールがバットに当たった瞬間に、打球の方向とバウンドを予測して動ければ大丈夫ですが、それができないと難しくなりますね。

二宮: 自著の『二塁手論』(幻冬舎新書)では<確かにメジャーの二塁手は上手かったけれど、こいつには負けるという選手にはついに出会わなかった>と書いています。海を渡ってセカンドの守備にはさらに自信を深めたのではないでしょうか。
井口: ゲッツーのスピードなどは誰にも負けない自信がありました。それだけ、ダイエー時代に内野守備コーチだった森脇(浩司)さんに連日、特守で鍛えていただきましたから。失策数だけみれば、1年目は14個と多かったのですが、自分の中では大丈夫という感覚でしたね。

二宮: 4年間を米国で過ごし、09年に日本球界に戻ってきました、久々の日本で野球の変化は感じましたか。
井口: 日本のピッチャーのレベルが相当上がったと思いました。ダイエーにいた頃は150キロを出すピッチャーがほとんどいなかったのに、ロッテに入った時には150キロを出すのが当たり前のようになっていました。ダルビッシュ有(現レンジャーズ)みたいに背も高い選手が増えていましたね。それに変化球も多彩になりました。昔はツーシームなんて投げている選手は珍しかったのに、今では投げるのが普通ですから(苦笑)。

二宮: ピッチャーのレベルが上がった上に、一昨年、昨年は“飛ばないボール”に変わって、バッターには受難の時代だったと思います。今年はまた仕様が変わり、バッティングに変化はありますか。
井口: 去年とおととしは、ポイントを近くすると、フェンスオーバーやフェンス直撃だった打球が全部外野手に捕られていました。だから少し前でとらえて、しっかり振り抜くイメージで打っていたんです。

二宮: では、今年はスタイルを元に戻したと?
井口: ええ。春先に「なんか、ボールが飛ぶぞ」と感じて、実際にポイントを近くしてコンパクトに打つと打球がスタンドインする。だから今年はダイエー時代のようにインパクトの瞬間だけを大事にして打っていますね。去年まではフォロースルーを大きくしないと飛距離が出ない感じでしたけど、今年はインパクトの瞬間にパッとヘッドを走らせたらボールは飛びます。
(写真:今季はファーストに転向。「体的にはラクになった」と打撃に集中できるのも好調の要因)

二宮: 感覚としてはどのくらい飛距離は違いますか。
井口: 昨年より5〜10メートルは飛んでいると思います。昨年のボールでもメジャーの公式球よりは反発係数が高いといわれていますが、実際に打った感触では明らかに日本のほうが飛びませんでしたよ。まぁ、今のボールでも10年前と比べると飛びません。あの頃は広い福岡ドームでもこすっただけでフェンスオーバーしていました(苦笑)。だから、「今年は“飛ぶボール”を使っている」という表現はやめてほしいですね。

二宮: これからシーズンが佳境に入ります。日本とメジャーでの5度のチャンピオン経験が若い選手の多いチームには貴重でしょうね。
井口: いえいえ。僕から若手にあれこれ言うことはありません。ただ、聞かれたらアドバイスはします。試合中はベンチの真ん中で一番前に座っているので、若手が横に座って質問してくれれば何でも答えますよ。今年のチームに関して言えば、そういったベンチ内のコミュニケーションはよくとれているかなと思います。首脳陣も伊東勤監督が率先して声を出しているのでまとまりがあります。

二宮: 緊迫した展開になると、なかなか普段通りのプレーはできないものです。そういった選手には、どうアドバイスしますか。
井口:「あれもこれも」と欲張るのではなく、「何をしなくていいか」「どうすれば楽にできるか」を考えたほうがいいでしょうね。守備にしても、たとえばセカンドで、どうやったら楽にひとつのアウトがとれるかを考える。そうすれば、ボテボテの当たりなら無理に送球しなくても、走ってくるランナーにタッチするとか必要な動きがわかってくるはずです。そうやってシンプルに整理して引き出しを増やしていけば、どんな場面でも落ち着いてプレーできるのではないでしょうか。

<現在発売中の講談社『週刊現代』(2013年9月14日号)では井口選手の特集記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>