(写真:その才能は誰もが認めるシンダーガードだが、昨季はケガに苦しみ続けた Photo By Gemini Keez)

「今のニューヨークはメッツの街なんだ」

 昨季のMLBシーズン開幕前、このコラムではメッツのノア・シンダーガードのそんな言葉を紹介した。当時、多くのタレントを擁し、2年連続でプレーオフ進出したメッツは話題性抜群。ニューヨークでの支持率も、すでに同市内に本拠地を置くヤンキースを上回ったと喧伝されたのだった。

 

 しかし、わずか1年で状況は大きく変わった。

 2017年のメッツは70勝92敗と負け越し、東地区首位のナショナルズに実に27ゲーム差をつけられる惨敗に終わった。一方、ヤンキースは予想外の快進撃でプレーオフ進出。さらに今オフにはジャンカルロ・スタントンを獲得するなどして地元の関心を呼び、“悪の帝国”らしい姿を取り戻している。そんなライバルにあっさりと逆転され、メッツは再びすっかり影が薄くなってしまった。

 

 昨季の二の舞は御免

 

 迎えた2018年。浮き沈みの激しい“NYのもう一つのチーム”は再び上昇できるのか。そのためにはメッツに何が必要なのか。

 

 去年のメッツにとって最大の誤算は故障者の続出で、特に先発投手陣は壊滅的だった。開幕前は“史上最高のローテーション誕生か”と喧伝されながら、1シーズンをフルに働けたのはジェイコブ・デグロムだけ。ノア・シンダーガード、マット・ハービー、スティーブン・マッツ、ザック・ウィーラーという俊才たちが次々と故障者リスト入りしたのであれば、勝負になるはずはない。

 

2017年のメッツ先発5本柱の成績

ジェイコブ・デグロム(29歳)  31戦 15勝10敗 防御率3.53

ノア・シンダーガード(25歳)  7戦 1勝2敗 同2.97

マット・ハービー(28歳)    19戦 5勝7敗 同6.70

スティーブン・マッツ(26歳)  13戦 2勝7敗 同6.08

ザック・ウィーラー(27歳)   17戦 3勝7敗 同5.21

 

(写真:セスペデスの打棒爆発はチームにとって絶対必須だ Photo By Gemini Keez)

 リベンジを期す今季に向けて、メッツのロースターには大きなテコ入れはなされていない。特筆すべき補強は昨季18勝を挙げてオールスターに選ばれたジェイソン・バルガス、36本塁打を放ったジェイ・ブルースの復帰くらい。あとはリリーフで昨季に実績を残したアンソニー・スワルザック、ベテラン野手のエイドリアン・ゴンサレス、トッド・フレイジャーと契約したのが目立つ程度。ヤンキースのように大物を獲得してファンをエキサイトさせているわけではない。

 

 打線は今年も主砲ヨエニス・セスペデス、ブルースのパワーが頼り。故障離脱中のマイケル・コンフォートが戻り、成長株のアーメッド・ロザリオ、ドミニク・スミスが本格化するまで、得点力不足に悩まされても不思議はない。

 

 ブルペンも故障明けのジェウリス・ファミリア、昨季移籍以降は不安定だったAJ・ラモスが中心では心許ない。この状況下では、結局のところ、今季の浮沈は先発投手陣の活躍に委ねられるところが極めて大きい。メッツが優勝争いに残るには、すべて20代後半と働き盛りの先発ピッチャーたちがコンディションを保ち、ベストに近い姿を取り戻す必要がありそうだ。

 

 問われる若き指揮官の用兵術

 

(写真:カリスマ性を備えたキャラウェイ新監督はチームの救世主になるか)

 このチームを率いるべく、テリー・コリンズに代わり、投手の起用法と調整を熟知したミッキー・キャラウェイを新監督に据えたのは適切な動きなのだろう。

 キャラウェイは2017年までインディアンス投手コーチを5年に渡って務め、投手王国誕生に大きく貢献した人物。コミュニケーション能力にも秀でていると評されており、昨季は内紛も指摘されたメッツの“復権の切り札”と呼んで大げさではない。

 

「(昨季の低迷は)故障者続出の結果だとしか考えていない。上手くいかない年というのはあるもので、このチームの投手陣が素晴らしい力を持っていることに変わりはない。これだけの人材が揃っていることにエキサイトしているよ」

 昨年10月の監督就任会見でキャラウェイはそう語り、投手陣を軸にした立て直しに自信を見せていた。中でも鍵となるのは、42歳の若き指揮官がシンダーガード、ハービー、ウィーラーをどう使いこなすかだろう。

 

(写真:1年後にはFAになるだけに、2018年はハービーにとって極めて重要な年になる Photo By Gemini Keez)

 オープン戦初登板から100マイルの速球、92マイルのチェンジアップを投げて周囲を驚かせたシンダーガードは、シーズンを通じてデグロムとともにローテーションを支えられるか。昨季は自信を喪失しているようにも見えたハービーは、“ダークナイト”という愛称で売り出された頃の迫力を取り戻せるか。バルガスの加入でブルペン行きが濃厚なウィーラーは、新しい役割に適応できるか。それぞれ容易な課題ではないが、対話力に富み、聡明さで知られ、投手育成の実績があるキャラウェイの存在は助けになるはずである。

 

 最近はブルペンを固めるのがメジャーの流行となりつつある中で、依然として先発が中心のメッツは時代に逆行したチームと言えるかもしれない。一般的に先発投手は野手よりも故障の可能性が高いと考えられており、リスキーなチーム作りでもある。しかし、わずか3年前には同じコアメンバーでワールドシリーズに進出しているわけで、このやり方が間違っているとは思わない。新監督がエナジーを注ぎ込み、同時に主力投手たちが健康を保てば確実に面白くなる。

 

「メッツはエース級のタレントが5人を揃えている。すべて良い方向に行った場合、史上最高級の先発ローテーションが生まれるかもしれない」

 去年の春、某ナ・リーグチームのスカウトがそう語っていたほどのタレント集団は、1年遅れでブレイクできるか。全員が開花するのは難しいとしても、再び上位進出を可能にするだけの力は残していると見る。もともとメッツは評価が低いシーズンの方が好結果を残すことが多いチーム。“ミラクル・メッツ”が、本格派先発投手たちの力で今季に復活しても驚くべきではない。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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