(写真:代表発表後の記者会見に出席した井上。強さや勝つことにこだわりを見せる)

 16日、日本陸上競技連盟は都内で理事会を開き、8月にインドネシア・ジャカルタで開催される第18回アジア競技大会のマラソン日本代表選手男女各2名を発表した。男子は今年2月の東京マラソンで日本人2位(5位)の井上大仁(MHPS)、1月の別府大分毎日マラソンで日本人トップ(2位)の園田隼(黒崎播磨)を選出。女子は今月の名古屋ウィメンズマラソンで日本人3位(5位)に入った野上恵子(十八銀行)、同大会で野上に次ぐ日本人4位(6位)の田中華絵(資生堂)が選ばれた。

 

 男女各2名の補欠を合わせても全員がアジア大会初出場。フレッシュな陣容が発表された。

 

 主な選考基準はマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の出場資格を得た者だが、それぞれの強化方針で見送るケースも少なくなかった。代表例は男子が東京マラソンで日本記録を更新した設楽悠太(Honda)、昨年12月の福岡国際マラソンで日本人トップ(3位)の大迫傑(ナイキ・オレゴンプロジェクト)ら、女子は今年1月の大阪国際女子マラソンで優勝した松田瑞生(ダイハツ)、名古屋ウィメンズマラソン日本人トップ(3位)の関根花観(日本郵政グループ)などである。

 

(写真:「井上君には出てくれて本当に感謝している」と代表入りを喜ぶ瀬古プロジェクトリーダー)

 日本陸連の河野匡長距離・マラソンディレクターは「ネガティブな理由で辞めたのではなく、オリンピックを戦うためにそれぞれが戦略を持って選んだ」と理由を説明した。アジア大会を回避し、好記録を目指して別のレースへ参戦すること。または海外での合宿を含め強化の時間に充てることが狙いだろう。瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーも後ろ向きにはとらえていない。「彼らの目的はもっと高いところにある。『世界に近づく記録を出したいという目的がある』と聞いています。それが(達成できれば)東京を戦う上での自信がつくことだと思っております」

 

 今回のアジア大会は東南アジアで真夏に行われるレースだ。2020年東京オリンピックを前に、厳しい条件下でのレースを経験できる利点もある。代表に選ばれた井上は「厳しい環境下でどれだけ走れるか。暑さの中で勝負して勝つ」をテーマに出場を決めたという。「記録を狙うレースも考えたが、記録だけでは強さが身に付かない。自分は自分なりに勝負をして結果を出していく」。井上が所属するMHPSマラソン部の黒木純監督は「東京オリンピックを考えて暑熱対策も。勝ちという経験を積み上げていきたかった」と、その思惑を明かした。

 

 会見で井上は「強さ」という言葉を度々口にした。そこに彼のこだわりが窺える。

「昔の瀬古さんのようにどんな環境下でも負けないのが本当の強さです。今は根性論を否定されていますが、走る上で大事なのは気持ち。それを最後まで持ち続けられるのが強い選手だと思います」

 瀬古プロジェクトリーダーは現役時代、マラソンで10勝を挙げた。一方の井上はマラソン5レースで未勝利だ。勝利への渇望が彼のモチベーションとなっている。

 

「走りのリズムも良いのですが、何より一番は精神力。負けん気の強さが彼をここまで引っ張り上げている」

 そう井上を評価する黒木監督によれば「東京マラソンが終わってから一回も喜んでいない。『記事を見るのも嫌だ』と話していました」という。井上が東京マラソンでマークした2時間6分54秒は日本歴代4位の記録だ。本人は「(2時間6分台の)タイムのことは頭に入ってこない。全然大したことじゃないと思っている。それよりも負けたことが一番にきています」と話す。

 

(写真:2度目の代表選出。井上は「気持ちの面でだいぶ落ち着いて挑むことができそう」と前向きだ)

 初めて日の丸のユニホームを背負ったマラソンは、昨年8月のイギリス・ロンドンで行われた世界選手権。2時間16分54秒の26位だった。「すごく悔しいレース。惨めな結果」。決して満足のいくものではなかった。アジア大会での目標はマラソン初優勝だ。「やるからには金メダルを狙っていく。口にしたことでプレッシャーもかかりますが、その中で実行できれば、さらに強くなるきっかけになる」と井上。灼熱のジャカルタを駆ける42.195kmで、彼は真の強さを身に付けられるか。

 

 以下代表選手は次の通り。

 

◇男子マラソン◇

井上大仁(MHPS) 初出場

園田隼(黒崎播磨) 初出場

 

◇女子マラソン◇

野上恵子(十八銀行) 初出場

田中華絵(資生堂) 初出場

 

(文・写真/杉浦泰介)