東北楽天はリーグ優勝へのマジックを3に減らし、最短で26日にも初優勝が決まる。
 今季の楽天の躍進を語る上で欠かせないのが、生え抜きの“星野チルドレン”の活躍だ。星野仙一監督が我慢強く起用した若手が結果を残し、チームに不可欠な存在になっている。その代表格が3番を任されている25歳の銀次だろう。現在、打率.319はリーグ3位。主軸のアンドリュー・ジョーンズとケーシー・マギーの前に出塁し、得点力アップに大きく寄与している。地元・岩手出身の新星が、二宮清純を「じぇじぇじぇ!」と驚かせた独自の打撃論を明かしてくれた。
(写真:初めての優勝争いも「毎日、野球が楽しい」と語る)
二宮: 一昨年は2軍で首位打者を獲得し、実質1軍1年目となった昨季も打率.280。もともとバッティングには定評がありましたが、今季は一時、首位打者に立つほどブレイクした理由はどこにあると分析していますか。
銀次: ひとつはボール球に手を出さなくなったことでしょうね。去年、1軍でだいぶ経験させてもらって余裕が出てきました。今は打席の中でもストライクを打つことを一番に意識しています。去年よりはボールの見極めが良くなったかなと感じますね。

二宮: 1軍の打撃コーチは田代富雄さん。どんなアドバイスを?
銀次: すごくシンプルで、“真っすぐを打て”と言われています。ストレートを狙いつつ、追い込まれたら、どんなボールにも対応できるように粘る。ファーストストライクから積極的に打ってOKという方針なので、個人的にはすごくやりやすいです。

二宮: 練習では平石洋介打撃コーチ補佐とティーバッティングに随分、力を入れていますね。
銀次: そうですね。ティーを始める時には、まず芯の部分を平らにした短いバットを用意します。それを右手一本で持って打つんです。これで右手の使い方をしっかり覚え込ませます。その後は、普通の長さで同じように芯の部分を平らにしたバットを使って、少し離れた位置から緩急をつけてトスしてもらうんです。

二宮: この練習にはどんな意図が?
銀次: 下半身を使って打つことを意識しています。下半身がしっかりしていないと、速いトスに差し込まれたり、遅いトスに泳がされる。しっかり下半身でタメをつくって、常に自分のポイントでとらえられるように徹底しています。

二宮: バットコントロールも巧みで、相手ピッチャーの左右問わず、広角に打球を飛ばせるところが銀次さんの強みです。こんな打球を打ってみたいという理想のバッティングはありますか。
銀次: 切れない打球を打ちたいですね。ライトへカーンと打って、どんどん切れていくのではなく、そのまま真っすぐスタンドインする打球が理想です。西武ドームで放ったライトへの勝ち越しホームラン(8月16日、対埼玉西武)は理想に近いですね。

二宮: つまりバットを内側から出して、しっかり振り抜いて打球を飛ばしたいと?
銀次: はい。一塁側にファールになるようなバッティングではなく、打った瞬間、「あ、スタンドにこのまま行くな」という打球を継続して打ちたいです。

二宮: ホームランを打った西武戦はエースの田中将大投手が先発でした。実は26連勝中の田中投手が登板した試合では今季、打率.410、3本塁打、12打点。何かプレゼントしてもらったほうがいいのでは(笑)。
銀次: いやいや(笑)。相性がいいのか、自分でも理由は分からないんです。ただ、たまたまというには、よく結果が出ている。おそらく“田中なら1点でも取れば勝てる”という気持ちのゆとりが良い方向に出ているのではないでしょうか。

二宮: バッティングフォームを見ていると、ヘッドを立てて上段に構えるところなどは巨人の小笠原道大選手に似ています。参考にしているのでしょうか。
銀次: よく言われますが、特に参考にしているわけではありません。自分が最も打ちやすい構えを模索していたら、今のフォームになりました。
(写真:グリップは脱力が基本。握る際に使うのは左右合わせて5本の指のみ)

二宮: では、参考にしているバッターは?
銀次: 実は張本(勲)さんのようになりたいんです。現役時代のバッティングを直接見たわけではありませんが、テレビやYouTubeで流れる昔の映像を参考にしています。引っ張りはもちろん、反対方向にもしっかり打ち切っているイメージを持っています。

二宮: じぇじぇ! 平成育ちの銀次さんが、昭和の大打者である張本さんに憧れているとは……。ご本人には伝えましたか?
銀次: それが……まだお話したことがないんです。1度、バッティングについて、いろいろお伺いしたい。たぶん、最初は「喝!」と言われると思うんですけど(笑)。

<現在発売中の講談社『週刊現代』(2013年10月5日号)では銀次選手の特集記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>