昨年、東京ヤクルトを退団して、最初はアマチュアも含めて外から野球を見てみようと考えていました。ですが、富山GRNサンダーバーズから監督依頼を受け、まだ体が動くうちに若い選手と一緒にユニフォームを着て野球をするのもいいな、と。そう考えて監督就任を受諾しました。

 

 野球の基礎を教え込みたい

 富山は初めての土地ですが、東京から新幹線で1本という便利な場所です。ただ行く前から予想はしていましたが富山に限らずBCリーグの球団は自前の球場がないし、練習場所を確保するのにも苦労する。決して恵まれた環境ではありません。しかも富山は雪国で、今年は例年以上に雪が降って練習もままならなかった。でも選手たちはそういう環境の中で、志を持って頑張っている。NPB経験者として1人でも多く、その夢を叶えてあげたいですね。

 

 私はコーチ経験はありますが監督は初めてです。新しいチャレンジということで自分自身楽しみにしています。ただ監督というのは試合中、忙しいですね。投手コーチ時代は攻撃中でも継投などピッチャーのことだけを考えていれば良かった。それが監督になると攻撃のことも考えるから頭を2倍使わなきゃいけない(笑)。

 

 私の役目は富山の選手がNPBに行ったときに困ることがないように、野球の基本をしっかり教えることだと思っています。ドラフトで入団しても、NPB球団はBC出身の選手をそうじっくりとは見てくれない。BCリーグ出身者は結果を出すまでの時間がないとも言えます。そういう中で何が必要かといえば、きちんとコンディショニングをしてグラウンドに向かうことや、ピッチャーなら牽制や投内連携、野手なら走塁や打球判断がしっかりできること。そうした基本をしっかりと教え込んで、NPBのコーチや監督に「BCリーグ出身者には何も教えることがないな」と言われたいですね。

 

 今季、BCリーグは富山に元巨人の乾真大、栃木ゴールデンブレーブスに元巨人の村田修一が入団しました。BCリーグが注目を集めるきっかけにもなるし、他の選手にとっても大きなプラスになるでしょう。

 

 どうしてもBCリーグの選手だけでやっていると上のレベルがどういうものかなかなか分からない。「NPBに行くぞ!」と意気込んでも、実際にどのレベルまで辿り着けばドラフトで指名されるのか手探りの状態です。それが乾や村田といったNPB出身選手や外国人選手が入ることで、彼らが「基準」になる。対戦することで「NPBのレベル」を肌で感じることができます。村田と対戦したらウチの投手はたぶん打たれると思います。でもそこで何かを感じて、そして成長してほしいですね。

 

 さて今季の富山はドカンと大きいのを打って返すタイプの外国人がいないので、投手を中心にしたロースコアで守り勝つ野球を目指します。野手では河本光平がリードオフマンとして活躍してくれることを期待しています。投手では高卒ルーキーの湯浅京己が楽しみな存在です。大型右腕(身長183センチ)でストレートは140キロ後半をマークして、しかも空振りがとれるストレートなんです。これで細かい変化球の使い方がうまくなればNPBでも通用する素材だと思っています。5月にデビュー予定ですので楽しみにしていてください。

 

 新米監督ではありますが選手を成長させて、リーグ優勝、日本一を目指して頑張ります。富山に野球がさらに根付くように奮闘しますので、応援よろしくお願いいたします。

 

<伊藤智仁(いとう・ともひと)プロフィール>富山GRNサンダーバーズ監督
1970年10月30日、京都府出身。花園高を卒業後、三菱自動車京都に入社し、社会人時代にスライダーを習得。1992年のバルセロナ五輪日本代表に選出され、1大会27奪三振を記録するなど銅メダル獲得の牽引役となった。93年、ドラフト1位でヤクルトに入団。7勝2敗、防御率0.91の成績をあげ新人王に輝いた。だが、シーズン中盤にヒジの故障を発症。以後、ヒジ痛と戦いながらのプロ生活となった。97年、7勝2敗19セーブでカムバック賞を受賞。2003年に現役引退。通算37勝27敗25セーブ。以後、17年までヤクルトで投手コーチを務めた。18年、BCリーグの富山GRNサンダーバーズの監督に就任。


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