2日、プロ野球日本シリーズ第6戦が行われた。初の日本一に王手をかけていた東北楽天は2回、2点を先制。今季無敗のエース・田中将大が4回まで0点に抑えて試合の主導権を握る。ところが5回、巨人はホセ・ロペスの2ランで追いつくと、高橋由伸のタイムリーで逆転に成功。6回にも1点を追加すると、先発の菅野智之が7回まで投げきって自慢の救援陣で逃げ切り、4−2で勝利した。これで通算成績は3勝3敗となり、日本一の行方は3日の最終第7戦にもつれ込んだ。

◇第6戦
 田中、4失点は今季初(巨人3勝3敗、Kスタ宮城)
巨人      4 = 000031000
東北楽天   2 = 020000000
勝利投手 菅野(1勝1敗)
敗戦投手 田中(1勝1敗)
セーブ   マシソン(1勝0敗1S)
本塁打  (巨)ロペス1号2ラン
 地元・東北のファンの前でエースが締めて日本一――。最高のシナリオがまさかの暗転だ。今季1度も負けていない田中、今季4失点をしていない田中、1イニングに3点以上取られていない田中……そんな“神話”がすべて崩れ、快進撃を続けていた右腕に最後の最後で黒星がついた。

 確かに、この日の田中は本調子ではなかった。4回まで打たれたヒットは2本ながら、ボールが先行するケースが目立つ。

 ただ、先手をとったの楽天だった。2回、松井稼頭央のライトへのエンタイトル二塁打で1死二、三塁とチャンスを広げ、嶋基宏のサードゴロの間に1点を先行する。さらに聖澤諒の打球をファーストのロペスがトンネル。思わぬ2点目の援護が入り、楽天と田中に追い風が吹いているように思われた。

 ところが5回、前の打席まで18打数2安打だった坂本勇人に左中間フェンス直撃の二塁打を浴びてから風向きが変わり始める。1死後、ロペスに対し、カウント2−2から投じたフォークボールがすっぽ抜けた。ロペスがバットを短くもって振りぬくと、打球は左中間スタンド最前列へ。1球で2−2と試合に振り出しに戻った。

 続く寺内崇幸もフォークを軽打して二遊間を破り、田中と嶋のバッテリーはこの球種を使いにくくなった。となれば、狙い球は絞りやすくなる。1番に戻って長野久義は初球のストレートを叩き、レフト前へ運んだ。

 これで3連打。巨人は早くも代打・亀井義行を起用し、さらにはダブルスチールで勝ち越し点を狙いに行く。これはバッテリーに見破られて三塁走者が挟まれ、タッチアウトになったものの、積極的な攻撃で田中に立ち直る暇を与えない。

 亀井も粘って四球で歩き、なおも2死一、三塁。この試合、3番に起用された高橋に打順が巡ってくる。だが、田中はストレート2球で簡単に2ストライク。普通ならフォークで空振り三振を狙う場面だ。しかし、ロペスと寺内にフォークを打たれた残像があったのか、裏をかこうとしたのか、ストレート勝負を挑む。

 高橋はこれを逃さなかった。インコースのボールを詰まりながらもセンターの前へ。今季、1イニングで最大でも2失点だった田中から一気に3点を奪った。

 続く6回も先頭の村田修一がライト線への二塁打で出塁し、坂本も三遊間への内野安打で続く。ジョン・ボウカーが送って二、三塁となり、前の打席で一発を放っているロペス。田中は打たれたくないとの力みからかボールが上ずり、高めの球を叩きつけられる。高いバウンドの三塁ゴロとなり、貴重な追加点が巨人に入った。

 絶対的エース相手の逆転劇の裏には新人・菅野の好投も見逃せない。本人は「いい内容ではなかった」と明かしたが、2点を失った後はすぐに立ち直り、楽天打線を封じる。逆転してもらってからは「さらに気が引き締まった」と走者を背負っても連打を許さない。7回には1死から松井にセンター前ヒットを打たれるも、次の嶋を注文どおりのゲッツーに仕留めた。

 菅野は7回を投げきって3安打2失点。原辰徳監督も「まだまだマー君とは差がありますけど、その状況の中で戦って勝ったというのは大きい」と称える結果で、勝利の方程式につなぐ体制が整った。

 8回は山口鉄也、9回1死からはスコット・マシソンが揃ってパーフェクトリリーフをみせる。第5戦では抑えの西村健太朗が乱れて延長戦を落としただけに、この2人が磐石なのは巨人にとっては大きかった。

 田中に土をつけたのみならず、寒さで凍えていた打線も12安打。特に打順を6番に下げた坂本勇人が猛打賞と復調気配だ。徳俵から土俵中央に戻し、巨人はいいかたちで最終決戦を迎えられる。

 一方の楽天は頼みの田中で敗れた上に、9回まで完投させて球数は160球に達した。第7戦での連投は絶望的だ。星野仙一監督は「本人が“最後まで投げる”と言った」と続投の理由を説明した。エースの心意気は立派だが、シリーズの勝利に徹するなら早めにスイッチし、第7戦の切り札に回す手もあったのではないか。

 とはいえ大黒柱で勝てなかったショックを引きずっていては栄冠はつかめない。ここまで神がかり的な成績でチームを牽引してきた田中に報いるためにも、文字通りの“底力”をみせる時だ。

「明日は世紀の一戦になる。死力を尽くし、全力で戦う」
 原監督はお立ち台で高らかに宣言した。創設9年目での初出場初制覇か、それとも40年ぶりのシリーズ連覇で23度目の日本一か。雌雄を決する第7戦の先発は楽天が美馬学、巨人が杉内俊哉と発表されている。