3日、プロ野球日本シリーズ第7戦が行われた。東北楽天は初回、相手のエラーで先制すると、2回には岡島豪郎のタイムリーで得点を加えた。4回には牧田和久がソロホームランが生まれ3点をリードした。投げては先発の美馬学が6回を無失点に抑え、残り3イニングを則本昂大、田中将大の必勝リレーで逃げ切った。楽天は球団創設9年目で初の日本一。敗れた巨人は40年ぶりのシリーズ連覇はならなかった。

◇第7戦
 田中、魂の連投で胴上げ投手(楽天4勝3敗、Kスタ宮城)
巨人      0 = 000000000
東北楽天   3 = 11010000×
勝利投手 美馬(2勝0敗)
敗戦投手 杉内(0勝2敗)
セーブ   田中(1勝1敗1S)
本塁打  (楽)牧田1号ソロ
 降りしきる雨の中、東北に歓喜の瞬間は訪れた。楽天の田中が投じたスプリットに、巨人の矢野謙次のバットは空を斬った。楽天が底力を見せ、悲願の日本一をもぎ取った。

 先に王手をかけながら、絶対的なエースで星を落とした楽天。先発マウンドには、3年目右腕の美馬が上がった。美馬は初回、2つの四死球を与えるなど2死満塁のピンチを招いた。ここで打席に坂本勇人を迎える。今シリーズ絶不調の坂本だが、昨日は猛打賞の活躍。復調の兆しを見せているだけに怖い存在だ。「チーム一丸となって日本一になろうと、思いっきり投げた」という美馬は、2ストライクと追い込み、3球目の外のスライダーで完全に崩した。力ない打球がセンターへと上がり、フライアウトでピンチを乗り切った。

 すると、その裏に試合は動いた。巨人の先発は杉内俊哉。第3戦で美馬と投げ合い、2回途中4失点で屈辱のKO負けを喫していた。雪辱に燃える左腕だったが、楽天は2死から死球と二塁打で二、三塁のチャンスを作った。迎えるバッターはケーシー・マギー。マギーはカウント1−0からの杉内の変化球を叩いた。強烈な打球がショート坂本を襲った。坂本は捕球できず、弾くのが精一杯。エラーが記録され、この間にランナー1人が還った。

 2回裏には、フォアボールを選んで出塁した嶋基宏をバントで送って、得点圏へと進める。1番の岡島が真ん中に入った真っ直ぐを左中間へと運んだ。岡島のタイムリーツーベースで、杉内を早々とマウンドから引きずり降ろした。杉内は第3戦のリベンジならず、ベンチで肩を落とした。

 一方、援護点をもらった美馬は3、4回にもランナーを許しながらもブレーキの効いたカーブを軸にしたピッチングでスコアボードにゼロを並べた。

 4回、楽天にとって喉から手が出るほど欲しかった追加点が飛び出した。1死から9番の牧田が2番手・澤村拓一の変化球を弾き返すと、打球はレフトスタンドに吸い込まれていった。楽天は球団創設時からいる13年目の31歳の一発で、リードを3点に広げた。

 これ以上離されたくない巨人は、短期決戦ならではの継投。原辰徳監督は、5回からエースの内海哲也を中2日でリリーフ登板させた。内海は3イニングで毎回ヒットを許しながらも、無失点で抑えて反撃を待った。

 星野仙一監督は5、6回を三者凡退に抑えた美馬を7回から「考えられない継投」と、中2日の則本に代えた。則本は1死後、ジョン・ボウカーにヒットを打たれた。好投の美馬との交代だけに、ここで失点を喫すると、相手に流れを与えかねない。23歳のルーキーは、ここで踏ん張った。ホセ・ロペスと代打・脇谷亮太を連続三振に仕留める。3アウト目をとって、マウンドで吠える姿はエースが憑依しているかのように見えた。則本は左打者が続く8回も巨人打線を黙らせた。

 指揮官が言う「考えられない継投」は9回にも続いた。締めくくりのマウンドには、背番号18が登場した。「彼がいたからこそ日本シリーズに出れた。彼こそがふさわしい」と星野監督はエースにすべてを託した。場内に田中の名がコールされると、Kスタ宮城のファンからは大歓声が起こった。FUNKY MONKEY BABYSの『あとひとつ』が流れると、スタンドの楽天ファンの大合唱が響き渡った。

「昨日は情けないピッチングをしてしまった。“いつでもいくぞ”と準備をしていました」と田中。シーズン、クライマックスシリーズと胴上げ投手を任されてきたエースは、あとひとつの日本一に向け、3つのアウトを奪いにいった。

 しかし、先頭の村田修一を2ナッシングと追い込みながら、センター前に弾き返された。ノーアウトのランナーを許す。「意気に感じて感謝しながらマウンドに上がった」という田中は、続く坂本を3球三振に切って取る。さらにボウカーをファーストゴロに仕留めた。「あとひとり」コールの中、ロペスにはライト前に運ばれ、2死一、三塁の場面となった。巨人は脇谷に代えて、代打矢野を起用した。

 一発が出れば、たちまち同点のピンチ。雨足が強まる中、楽天のファンも田中コールでエースを鼓舞する。1−2と追い込んで投じたのは今シーズンの田中を支えた宝刀スプリット。地面につくような落差に矢野のバットはかすりもしなかった。楽天は3対0と完封勝ちを収め、球団創設初めて日本プロ野球の頂点に立った。

 星野監督にとっては、中日と阪神時代と合わせて4度目の日本シリーズ。ついに悲願の日本一を達成した。現役時代からライバルと闘志を燃やした相手からの勝利に格別な思いもあるはずだ。「ジャイアンツより力は落ちる。ただし今年は選手がやっつけてくれた。必死に食い下がって、最後まで戦い抜いてくれた」と選手を称えた指揮官。球場のファンにも「褒めてやって下さい」と呼びかけた。

 MVPには先発で2試合を無失点と好投した美馬が選出された。「出来過ぎです。ついていた」とヒーローは笑った。この日本シリーズ、投手陣は大車輪の活躍果たした田中、則本の力投が光り、打線は満遍なく結果を残した。短期決戦で生まれる“逆シリーズ男”は存在しなかったことに、楽天の底力が見えた気がした。創設9年目の新興球団が手にした栄冠。降り続けた雨は、天からの祝福のシャワーのようだった。