二宮清純: 今回のゲストは3度のオリンピックで日本代表となり、日本のマラソン界を牽引してきた瀬古利彦さんです。雲海酒造の本格芋焼酎『木挽BLUE』を飲みながら、復活の兆しが見えてきた日本のマラソン界について話を伺いたいと思います。
瀬古利彦: 宜しくお願いします。お酒が好きなので、とても楽しみです。
二宮: 普段からお酒は?
瀬古: ほぼ毎日飲んでいますね。なんでも飲みますが、焼酎であれば芋が好きですね。
二宮: では『木挽BLUE』はいかがでしょうか?
瀬古: これもいいね。もう少し芋臭いと思ったけど、スッキリして飲みやすい。ちょっと今風な感じがありますね。
二宮: 陸上競技、特に長距離走の方はお酒好きの印象があります。
瀬古: そうですね。私の場合はいくら飲んでも酔っ払った記憶はありません。飲んでも飲まなくても変わらないタイプだから、強い方だと思いますよ。
二宮: では瀬古さんにとって、お酒とは?
瀬古: 私にとっては恋人のようなもの。なくてはならない存在ですよ。アハハハ。
二宮: 苦い酒の思い出もあるのでは?
瀬古: いっぱいありましたね。選手時代よりも監督時代。選手が負けたりうまくいかなかった時は飲んでいましたね。エスビー食品が廃部になった時は毎日がやけ酒でしたよ。でも最近は日本の男女マラソンがうまくいってきているので、酒がうまく感じます。それにしても、この『木挽BLUE』おいしいね!
二宮: 瀬古さんは2016年から日本陸上競技連盟のマラソン強化・戦略プロジェクトリーダーに就任されましたが、男子は2月の東京マラソンで日本記録を塗り替えるなど絶好調です。
瀬古: だから最近は酒がうまくて、うまくて(笑)。ピッチが早くなって困るね。
設楽悠太は規格外
二宮: 新たに日本記録をマークした設楽悠太選手。以前、お会いした際に注目選手として挙げていましたが、2時間6分11秒で16年ぶりの日本記録を更新しました。
瀬古: 昨年の東京マラソンでの彼の走りを見て、今回は記録を出せると思っていました。元々、実力はありますし、2時間5分台を出せる力も持っています。
二宮: 更なる日本記録更新も夢ではないと。レースを見ていて、どの段階で日本新記録を確信しましたか?
瀬古: あと1kmですね。それまではちょっと厳しい面がありました。前半のペースが速いと、どうしても後半は落ちてくる。実際、30km以降に先頭からは離されましたから。ただそこからうまく粘りましたね。
二宮: 今の実力なら設楽選手の東京オリンピック出場は間違いないでしょう。
瀬古: いいえ、まだわかりません。最終選考会であるMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)は来年9月に開催し、その時のコンディションもどうなるか予想できませんからね。ただ現時点では設楽選手と大迫傑選手が日本の柱だと思います。
二宮: 設楽選手はあまり走り込みをしないと伺いました。昔から日本長距離界にある根性論とは別の路線を走っている気がします。
瀬古: 彼は監督や他の指導者たちからも「規格外」と言われています。枠にハマらない選手ですね。野菜嫌いでお菓子好き。試合がない日曜日はずっと寝ているという。だから自分でも言っていますよね。「僕は試合がなかったらサボるので、毎週日曜日試合に出ています」と。
二宮: 同学年の大迫選手も刺激を受けたでしょう。
瀬古: 設楽選手が日本記録を更新したことで、大迫選手も燃えていると思いますよ。“次はオレだ”と。トラックでは日本選手権2連覇など大迫選手の方が実績を残していますからね。そういうライバル関係はとても良い。
二宮: 大迫選手に対しては、瀬古さんもアメリカに行ったことで、彼はさらに成長したとおっしゃっていましたね。
瀬古: 彼の場合、日本で所属先を辞め、覚悟を決めてアメリカに渡った。元々長い距離を走るのは好きじゃない方でしたが、向こうでかなり練習しているみたいです。その強い想いが大迫選手を大きく成長させたのだと思います。
二宮: 東京マラソンで日本人2位に入り、アジア競技大会日本代表の井上大仁選手はいかがですか?
瀬古: 彼は泥臭いことをやっていくタイプ。しっかり練習をやっているようです。
二宮: 井上選手本人は「昔の瀬古さんのようにどんな環境下でも負けないのが本当の強さです。今は根性論を否定されていますが、走る上で大事なのは気持ち。それを最後まで持ち続けられるのが強い選手だと思います」と口にしています。
瀬古: いいですね! 昨年、一緒にニュージーランド合宿に行った時にいろいろと話したのが良かったのかな。そこで“瀬古さんはただ面白いこと言っているだけのオジサンじゃないんだ”と思ったのではないでしょうか(笑)。
二宮: 今年富士通に入社した鈴木健吾選手は私と同じ愛媛県出身です。3年時には箱根駅伝の“花の2区”で区間賞。日本学生ハーフマラソンで優勝しました。若手注目株の1人に挙げられています。
瀬古: 彼は練習を積めるタイプなので良いですね。スピードの切れが足りないところがありますが、うまくいけば2時間8分台は出せるランナーでしょう。昨年、彼も井上選手と一緒に合宿へ行きましたが、一生懸命人の話を聞く頭の良い選手ですね。目つきも良い。私の話を1文字も漏らさず聞くぞ、という姿勢が見えましたね。
我慢強い川内優輝は暑さに弱い?
二宮: もう1人、男子マラソン界には注目を浴びている選手がいますね。“最強の市民ランナー”川内優輝選手です。彼は4月のボストンマラソンで優勝しました。同大会の日本人王者は瀬古さん以来、31年ぶりの快挙です。レース後にはプロ転向を宣言しました。
瀬古: 気温は3度、天気は雨。川内選手は1月の極寒マラソンで勝っている経験もありました。走力のある東アフリカ勢は逆に寒さに弱いですからね。このコンディションは彼にとって有利でした。川内選手の走りは私たちにもヒントを与えてくれた。東京オリンピックにおいて、日本人でも戦えるということを教えてくれた気がします。
二宮: ノーマークの中で、序盤から飛び出しました。これに対し、アメリカの解説者は「何を考えているのでしょう」と呆れ気味に話していました。一度は先頭から離されたものの、終盤にきての驚異の粘りで大逆転。実況では「信じられない」と驚いていましたね。
瀬古: 序盤の飛び出しについては解説者も笑っていましたからね。正直、私だって落ちていくと思った。解説を務めていたら、同じようなことを言ったかもしれません。
二宮: 彼の走りには、昔の選手のような粘り強さを感じますね。
瀬古: 川内選手はサムライタイプ。宗さんや私の本を読んで、「宗さんが練習で5000mを8本走ったと書いてあったので、10本やりました」「瀬古さんが90km走をしたと書いてあったので、僕は100km走りました」と言うんです。ちゃんと先輩たちの頑張っている姿を知って、それを越えようとする姿勢があるんです。そういう気概もボストンマラソンで出たのかなと思います。
二宮: 一方で、川内選手は暑さに弱いとも言われています。
瀬古: 本人が勝手に決め込んでいるんですよ。1度、暑い日のレースで、熱中症で倒れたことがあるので、それから苦手意識を持っているのではないでしょうか。
二宮: 彼の粘り強さを持ってすれば、暑さにも耐えられそうな気がしますが……。
瀬古: はい。私も一緒だと思います。ボストンマラソンで見せた彼の我慢強さを持ってすれば暑さも乗り越えられるはずです。
二宮: 興味深いお話をたくさん聞かせていただきました。グラスもいいペースで空になっていきますね。マラソンで例えるなら、そろそろ30kmを過ぎたあたりでしょうか。
瀬古: いやぁ、まだまだですよ。折り返し地点ぐらいでしょう。この『木挽BLUE』で“給水”すれば、もっといけますよ。次はロックかな……。
(後編につづく)
<瀬古利彦(せこ・としひこ)プロフィール>
1956年7月15日、三重県生まれ。四日市工業高校で本格的に陸上を始める。早稲田大学進学後は、長距離ランナーとしての才能が開花。箱根駅伝で4年連続“花の2区”を任され、3年時から2年連続で区間新を記録した。マラソンでは国内外で15戦10勝と圧倒的な強さを誇った。オリンピックには80年モスクワ、84年ロサンゼルス、88年ソウルと3大会マラソン日本代表。引退後は指導者として後進の育成にあたる。13年に横浜DeNAランニングクラブの総監督に、16年には日本陸上競技連盟の強化委員会マラソン強化・戦略プロジェクトリーダーに就任した。
今回、瀬古利彦さんと楽しんだお酒は芋焼酎「木挽BLUE(ブルー)」。宮崎の海 日向灘から採取した、雲海酒造独自の酵母【日向灘黒潮酵母】を使用し、宮崎・綾の日本有数の照葉樹林が生み出す清らかな水と南九州産の厳選された芋(黄金千貫)を原料に、綾蔵の熟練の蔵人達が丹精込めて造り上げました。芋焼酎なのにすっきりとしていて、ロックでも飲みやすい、爽やかな口当たりの本格芋焼酎です。
提供/雲海酒造株式会社
<対談協力>
酒菜 ねむ太郎
東京都新宿区荒木町3フォレストビル1階
TEL:03-6273-2362
営業時間
【平日】17:00~
【土】予約制
【定休日】日曜・祝日
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◎クイズ◎ 今回、瀬古利彦さんと楽しんだお酒の名前は?
お酒は20歳になってから。
お酒は楽しく適量を。
飲酒運転は絶対にやめましょう。
妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。
(写真・構成/杉浦泰介)
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