ボクシングのWBC世界フライ級タイトルマッチが6日、東京・両国国技館で行われ、王者の八重樫東(大橋)は挑戦者の同級1位エドガル・ソーサ(メキシコ)に3−0の判定で勝ち、2度目の防衛に成功した。またOPBF東洋太平洋ライトフライ級王座決定戦では史上最速タイのプロ4戦目で日本王者となった井上尚弥(大橋)が、ヘルソン・マンシオ(フィリピン)を5R2分51秒TKOで下し、王座を獲得した。ロンドン五輪男子ミドル級金メダリストの村田諒太(三迫)はプロ2戦目となる8回戦に臨み、デイブ・ピーターソン(米国)を8R1分20秒TKOで破った。
(写真:ポイントでリードしながら、最終ラウンドも打ち合った八重樫)
<八重樫、勝ちに徹して強敵封じ>

 井岡一翔との王座統一戦に代表されるように、いつもは相手と激闘を繰り広げるチャンピオンが、アウトボクシングに徹した。

「熱い試合をして勝つことも大事だが、ランキング1位に勝ちたかった」
 そう本人が振り返ったように今回の挑戦者は強敵だった。ソーサはWBC世界ライトフライ級王座を10度も守ったキャリアを誇る。「スピードはないが、近いところでボクシングをするのはリスクがある」と王者は足を使い、出入りの速さで勝負する選択をした。

 その作戦が見事に当たった。距離をとりながら、鋭い踏み込みでジャブを入れ、距離が詰まれば、ソーサのパンチが出る前に素早くワンツーを叩き込み、ペースをつかむ。

 ラウンドが進んでも動きが落ちず、左右前後にステップを踏み、相手に的を絞らせない。継続してフィジカルのレベルアップを行ってきた成果が出た。「いつもは最終的にむちゃくちゃになるが、最後まで足を使えたのは収穫」と八重樫も納得の表情をみせた。

 とはいえ、劣勢に立ったソーサが終盤、攻勢に出ると打ち合いに応じる場面もあった。ジムの大橋秀行会長は「世界王者はいっぱいいる。勝っていても行くのが本来の姿」と逃げ切りの指示は出さなかった。「打たれたことが多かった」と本人は語ったものの、しっかりパンチを返し、接近戦でも負けない強さをみせた。

 熱いファイトのみならず、冷静な試合運びで幅を広げた王者。「(海外での試合など)チャンスのある立場にある。チャレンジしていきたい」。さらなる高みへチャレンジャー精神は忘れない。

<井上、5RKOも反省>

 フィリピン王者のマンシオも敵ではなかった。立ち上がり、1分程度で距離感をつかむと鋭い左ジャブから右を的確にヒット。2Rには左ボディで相手を後退させると連打で追い詰め、右でダウンを奪う。
(写真:弟の拓真もプロデビュー戦を勝利で飾ったが、それよりも早い5Rでの決着。「キャリアの差を見せれたかな」と笑顔をみせた)

「相手に失礼だが、2R以降はいい練習になった」と大橋会長が語ったように、以降も相手が右を繰り出したところへ左をかぶせ、テクニック、スピードの両面で圧倒。5Rには一気にラッシュをしかけて、相手を追い詰め、レフェリーストップに持ち込んだ。

 完勝というべき内容に、大橋会長は次戦での世界挑戦へ「自然の流れでそうなるでしょう」とゴーサインを出した。だが、本人は「2Rでダウンをとってから流れが悪く、まだ世界を狙うレベルではない」と反省を口にする。父の真吾トレーナーも「いらないパンチをもらう場面もあった。効いていなくても避けないといけない」と注文を出した。

 日本人最速のプロ6戦目での世界王座奪取の記録以上に、井上が目指すのは「真のチャンピオンになること」だ。20歳はその階段を着実に昇っている。

<村田、経験積んだ8R>

 KO勝ちにも、開口一番、「ブサイクな試合をした」と観客に頭を下げた。ヘッドギアをつけていたアマチュア時代にはなかった赤く腫れた顔。プロの厳しさ、難しさを肌に刻み付けたデビュー2戦目となった。
(写真:8Rを闘うのは初めてだったが、「10Rでもいけた」とスタミナ面では手応えを感じた)

 序盤の動きは硬かった。「アマチュア時代の悪いときみたいにガードを固めて前に出るだけ」とパンチがスムーズに出ない。しかもピーターソンは上体が柔らかく、村田曰く「(パンチが)ストンと抜けてダメージを与えられなかった」。ボディで相手を徐々に消耗させてはいたものの、4Rには相手のペースに乗り、守勢に回る展開もあった。

 ようやく本来の動きを取り戻したのは5Rから、重心を落とし、左ジャブから組み立て直した。疲れのみえたピーターソンにパンチをまとめ、7Rには右ストレートでのけぞらせる。 

 最終8Rには、ラッシュをしかけてスタンディングダウン。なおも一方的に攻め立て、レフェリーが試合終了を告げた。苦しみながらも、仕留めきったところはさすがだ。「そこはポジティブに考えたい」と本人も前を向いた。

「いくら練習しても試合では得られない経験がある。この8Rはいい経験になった」
 次戦は早くも中国・マカオで試合を実施する計画も出ている。デビュー2戦連続KOという実績を引っさげ、いよいよ世界に殴り込みをかける。